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第十二話『シャルドームの事情』





「おじ様、お声を小さく!

ノワエちゃんが起きてしまいます!(小声)」


『……ごめーん。』


『……確かに、我がうっかり情報を

漏らす可能性もあったが!


だがこの家には既に、お前と我以外の

“現象”の竜がおるではないか!(小声)』


「えっ!?」



何とか気を持ち直したディルギーヴは、

小声でシャルドームへ突き付ける。

しかしシャーリーが室内に目を向けても、

例の三毛猫がいるくらいで……猫?



『ちなみにそのにゃんこが竜だよ。』


「えっ!?」


『なぁご。』



件の三毛猫は一声鳴くと、

シャーリーの膝に登り、喉を鳴らしながら

くつろぎ始めた。

見た目通りのずっしりとした質量と温かさが

膝に伝わる。命……。



「竜だから、お父様はこの猫さんを見て

驚いてらしたんですか?」


『“猫被り”のミシケロトクラロ……!

ただの三毛猫にしか見えんが、

“現象”の竜……らしい、のだ。


謎が多いどころか謎しかない竜でな、

我等双子よりよっぽど歳を食っておる。』


『シャッ!』


『ええい、引っ掻こうとするな年寄りめ!

何が『乙女心を分からんガキめ』だ、

貴様に性別は無かろうが!』


『なぁ~ん?』



猫は明らかに馬鹿にした顔付きで、

ディルギーヴになうなう鳴きかけている。


しかも、ミシケロトクラロが

シャーリーの膝上にいるせいで、

ディルギーヴが手を出せないのを良い事に。

一方的にネコパンチや

引っ掻きを繰り出して翻弄しているのだ。



「おじ様……猫って現象なんですか?」


『……何かの現象を司ってるとは

言われてるんだけど、それが

分かんないんだよねぇ。』



とにかく謎、謎なのだ。

なんなら自分達が生まれた時からずっと猫。

しかも、白猫だったり黒猫だったりと

時々毛色が変わっている。

ミシケロトクラロの真実を知る者は、

この世に誰一人としていないらしい。



『おいシャル、何故こんな猫被りを

姫様のお側に許しておる!』


『だって、ミシケロトクラロなんだもん。

姫様の場所を僕に伝えてきたの。』



元々は、リュゼーヌ王国で人間に紛れて

暮らしていたシャルドーム。

6年前のある夜、突如彼の棲みかに現れたのは

ミシケロトクラロだった。


にゃごにゃごなうなうニャーニャーと

鳴き喚くミシケロトクラロに根負けし、

無理やり連れていかれた川辺に落ちていたのは

水に濡れた揺りかご。


そしてその中に、主君と同じ輝きを放つ、

小さな赤ん坊を見つけたのだ。

赤ん坊と共に揺りかごに入れられていた

手紙には、「この子が幸せに

暮らせますように」とだけ書かれていた。


どうやら、主君の生まれ変わりは

生け贄としてか、単純に捨て子か…

親に捨てられてしまったらしい。

シャルドームはエトワスタが転生した事を

他の竜達に気付かれない様、混乱の最中にある

隣国アルサフに移動した。


リュゼーヌ王国内で育てれば、

竜域に棲む“現象”の竜達にバレてしまう

可能性がある。

連中がこれを知ったら、

『自分が育てる!』だの言い出しかねない。


だが人間嫌いの竜達が、エトワスタの望む

環境を与えて育てる訳が無いので。

シャルドームがひっそりと、

エトワスタの魂を持つノワエを

ただの人間として育てているのである。



『百歩譲って猫被りは良い、いや良くないが!

しかし……』



説明を受け、納得はしたがまだ不服そうな

ディルギーヴの目線の先には、

木で作られたチェストが置かれている。

その上に、大人が小脇に抱えられる程の

大きさをした壺が置かれていた。


シャーリーが近付いて中を覗いて見ると、

水替えがしっかりされた透き通る水に

満たされた壺の底には、大小様々な石が

敷き詰められている。

飼っている何かの隠れ家にする為か

小さな流木や水草も沈められている様だ。


ブクブクと浮かぶ泡に合わせて

水草が揺れ……ブクブク?

泡の発生源を探ろうと、目を凝らした

シャーリーは水底にいるよく分からない、

ブヨブヨした謎の生物と目があった。



「ヒャッ」


『……』



トカゲ……のような形をしているが、

皮膚はブヨブヨで陸地のトカゲの何倍もの

横幅をしており、やたらともっちりした体型。

明らかにアーヴェン邸周辺でよく見かけた

シュッとしたトカゲではない。


壺に余裕で入る大きさといい、

何とも言えない色合いといい……

昔、祖母の馴染みの商人が持ち込んだ、

遠い東にある国で作られた

“ヨーカン”と呼ばれる食べ物に似ていると

シャーリーは思った。

(優しい甘さで美味しかったです)


そんな“ヨーカン”に似た生き物は、

感情の分からないふにゃふにゃっとした

顔をしたまま、水面に上がってきた。

そして壺に片足をひょいっとかけ、

身体を水面から持ち上げるとシャーリーに

短い手を持ち上げる。

それは、知り合いにあった時の

「よっ!」位の気安さがあった。



『その水分過多な見た目の生き物は

河竜ザンバギ、古き竜の中でも

そこな駄猫と並ぶ大物よ。


“河口”とまで呼ばれたザンバギが

大きさをここまで変えていたとは……。』


「河口?」


『口の大きさが住処の河口と

近い大きさだった故、付けられたあだ名だ。』


「大きくないですか!?」



“河口”、河竜ザンバギは

『照れますなぁ』といった感じで

頭をカキカキ……しようとした。

如何せんザンバギの手足は短く、

頭に手が届いていなかったが。



『こいつはエトワスタ様……

ノワエが拾ってきたんだよね。』



外遊びから帰ってきた娘に、「拾った!』と

知り合いの竜(何故か手のひらサイズ)を

見せられたシャルドームの衝撃は

計り知れない。


ノワエの手前、顔には出さなかったが

その夜、ミシケロトクラロと二頭で

ザンバギを脅迫面せ……話し合いをしたのは

記憶に新しい。



『身動き1つで大波を立てる故、

川底に寝っ転がってぐうたら過ごしておった

貴様が何故こんな山奥に……


ハッ、拾われる為にわざと身体を小さくして

エトワスタ様の元まで来よったな!?

おいシャル!結構な所まで姫様の話が

漏れておるではないか!(小声)』


『言っとくけどねえ!知ってるのは

“こっち側”にいる奴らの一部だから!

竜域の連中は辛うじて知らないから!(小声)』



竜域は“現象”の竜達が集まる

場所ではあるが、全ての“現象”の竜が

いる訳ではない。

竜域内に生息していない“現象”の竜の方が

断然多いし、第一“現象”の竜は世界各地に

生息しているので、竜域に行った事が無い

竜も少なくはない。


人間で言う公園のような場所で、

暇な時にとりあえず行ってみたり、

古い友人に会う集合場所の感覚なのだ。


今は、千年前の戦争が終わった後も

人間嫌いの竜達が多く集まっている。

シャルドーム的には絶対にバレたくない。

幸い、今の所は情報も漏れた様子は無いので

一安心ではあるのだが。



『サヴァン様とルェロナ様も、

お伝えするまで知らなかったみたいだし。


他の竜やお兄ちゃんと会えなくなるくらい

頑張りまくった僕のお陰で!

あっちに情報は漏れてないよ。』


『ほぉ、あの陰湿ガラスが

彼方に告げ口をしておらぬとは。』


『本当にお兄ちゃんは嫌いだよねぇ、

死竜の事。』



『そんじゃ!』といった感じで壺の底に

戻っていったザンバギを見送っていた

シャーリーの耳に、何度か聞いた単語が

聞こえて来た。



「死竜さんってどんな方なんですか?」


『“現象”の竜で一番の情報通だよ。

世界中のカラスを従えてて、カラス達が

見聞きした事は全部死竜に伝わるんだ。


本竜の名前はネゥロデクスって

言うんだけど。』


『彼奴ならば……エトワスタ様が人間に

転生したのも、シャルが拾って

育てておるのも既に知っているだろう。』



死竜ネゥロデクス。

死を司るその竜は、この世界の

何処にでも現れる神出鬼没の竜である。

この世全てのカラスは生まれもってして

ネゥロデクスの眷属とされており、

死竜が知らぬ“噂”は無いとまで言われる。



『そうだね、やっぱり今の僕より

ネゥロデクスの方が、お義姉さんに

関係するかもしれない情報持ってると思う。


……まず、ネゥロデクスに会わなきゃ

話が始まらないけども。』


『嫌だ。』


「即答ですか!?」



ディルギーヴ、正直ヅォーガンも

かなり苦手ではあるが、ネゥロデクスは

その比では無いレベルで嫌いなのである。


昔から、闇を司るディルギーヴと

影を司るシャルドーム、

そして死を司るネゥロデクスは歳も近く、

司る“現象”も似ている為、しょっちゅう

一纏めにされて来た。


コミュニケーション力が高く、

ネゥロデクスからの皮肉や嫌味、

見下しにも難なく対応出来る

シャルドームと違い、真面目な堅物で

しかも不器用なディルギーヴは、

売られた喧嘩を全て買う主義だった。


顔を合わせれば吐かれる皮肉、

戦いでやり返そうとしても実力は五分五分。

と言うか、“闇”と“死”が本気でぶつかれば

世界が荒れる事など馬鹿でも分かる。

特に御法度の組み合わせ故にやり合えず、

我慢するか退くかするしか訳で。

そんなこんなでディルギーヴにとって

ネゥロデクスは、この世で一番

苦手な存在といっても過言ではない。



『何が悲しくて死竜なんぞに

頭を下げねばならぬのだ。』


『でもお兄ちゃん、他に連絡取れそうな

知り合いいるの?』


『樹竜辺りならまだ生きておるだろう。

彼奴なら情報を……』


『七百年前に死んだよ。』


『……鋼竜。』


『百年ちょっと前に死んだよ。』



椅子から崩れ落ちるディルギーヴ。

まさか、父には親しい知り合いが

二頭しかいなかったとは。

色んな意味で驚くシャーリーに、

『シャーリーちゃんが着けてる髪飾りを

作ってくれたのは鋼竜の子どもでね。』と

教えるシャルドームは冷静だ。

元からディルギーヴの数少ない友好関係を

知っていたのだろう。



『てかさ、ネゥロデクスって

昔に比べれば結構丸くなったと思うよ。』


『横にか?』


『性格に決まってるでしょうが。


お兄ちゃんが杭やってる間に、

番が出来て子どもも二頭いるからね。』


『……アレにか?』



訝しむディルギーヴが思い浮かべるのは、

丁寧な物腰でありながら誰これ構わず

毒を吐き散らかし、皮肉を啄む

陰険陰湿デス鴉(闇竜談)の姿である。


子育てどころか、アレが

番を見初めた時点で信じられない。

あの鴉は、自分自身ですら含めた全てを

高みから見下していたと言うのに。



『姪っ子ちゃんにデレデレな

今のお兄ちゃんを見ても、他の奴等は

『信じられない、あの闇竜が……!?』

って言うと思うけどなぁ~。


まあ、少なくともどっかの誰かみたいに

寝坊して放置とかせず、ちゃんと面倒見て

“揺籃の雛”を二頭も孵化させたのは

事実です、諦めて下さい。』


『グッ……負けた……。』


「お父様、子育てに勝ち負けとか

無いと思います。

元気出して下さい。」


『わぁ、良い子。

他にお兄ちゃん達の

役に立ちそうな情報は……


あ、風の噂で聞いたのだけど、

“竜の診療所”って呼ばれてる場所が

あるみたい。』


「え、“現象”の竜って病気になるんですか?」 


『千年前に人間達が使ってた

“竜を殺せる武器”じゃなければ基本、

僕達って傷付かないからねぇ…


自然災害とかが起きたり、

環境破壊によって世界のバランスが

大きく崩れれば体調不良とかにはなるけど。


でも、その診療所がメインで見てるのは

“揺籃の雛”や番の方なんだってさ。

ピッタリじゃない?』


『その情報を先に言え!(小声)』



立ち上がって、本日何回目か分からない

激怒&詰め寄りを披露する兄。

シャルドームは兄の顔を押し退けながら、

煮え切らない表情をした。



『だって~、教えるには

問題が二つあったんだもの。』


「問題?」


『うん。

だってそこやってるの……










ネゥロデクスの子どもの番らしいし。』


『グゥッ……彼奴の身内……!』


「おじ様、もう一つは?」


『僕は場所を知らないから、

ネゥロデクスに聞くしかないよ!』


『グゥウウウウウウッ!(小声)』



満面の笑みでピースサインと共に

宣告された、ディルギーヴへの死刑宣告。


“底も果てもない常闇”とまで謳われた、

偉大なる闇竜ディルギーヴ。

彼は、容赦無い現実を突き付けられ、

無惨にも床に崩れ落ちた。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





パタン。


『……ミシケロトクラロ、

シャーリーはもう寝たか?』


『にゃっ』


『よし、もう良いぞシャル。』


『グゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウッ!!!

姪っ子が……姪っ子が可愛すぎる……!!

(小声)』


『よく耐えた!

流石我が弟よ!(小声)』


『なぁに!?あの可愛い生物……!

全力で撫で回したかった……!


でも僕がそんな事したら、

姪っ子ちゃんに絶対ドン引かれる!

良い距離感のおじさんでいたい!!(小声)』


『にゃうにゃう』


『……(こくこく)』


『我等“現象”の竜、竜の幼子が

何より好きだからな。

それが“揺籃の雛”だろうと変わらぬ。


だが、新たな子は全く生まれぬし、

ジジイとババアは全く死なぬ

超少子、超高齢化社会故に……。』


『でも、“揺籃の雛”じゃない

他種族の子どもは見ても

ここまでときめかないよね。』


『にゃうにゃう』


『……(こくこく)』












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