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第九話『行ってきます!』





「アルサフって私、行った事無いんですよね……

どんな場所なんでしょう」


「あんまり良いところとは言えませんよ。

戦争が終わった今も、シュラージュに

ちょっかいかけてくる派閥もありますし……

本当に行くんですか?」


『目的地まで地には降りず、

飛んで行くつもりだ。

空を飛ぶ我等に手を出す馬鹿がいなければ

問題は無い。』


「まあ、“現象”の竜に手を出したら

普通に死にますねぇ。」



いつもの様に身支度を……

エマにしてもらわず、シャーリーは

試行錯誤しながら自分で髪を結ぶ。

あちこちから結びきれなかった髪が

ピョコピョコと跳ねており、

正直出来が良いとは思えない。


結局エマに手伝ってもらって何とか見れる

見た目になった。



「髪を結ぶだけでも

こんなに難しいなんて……。」


「ある程度出来てましたから

これからは練習あるのみですよ、お嬢様。」


『あれはあれで愛らしかったぞ。

味があって。』


「お嬢様を甘やかさんで下さい。」



ディルギーヴ、どんな娘もとにかく褒める。

シャーリー的には普通に失敗だったし、

失敗を褒めるのは何か違うと思うのだが。


どうしても気になる髪の乱れを気にしながら、

シャーリーはディルギーヴ(乗り物)と

エマ(お見送り)を連れて丘に向かう。



『目指すはヅォーガン山の麓だったな。』



人間体のディルギーヴが指差した先には、

ここからでもはっきりと見える

巨大な山の一部。

この世界の最高峰、三十以上の国に面する

あまりにも長く、巨大な山、ヅォーガン山。


ありとあらゆる“山”が連なり

一つの山となっている規格外の山で、

様々な原住民がヅォーガン山には

暮らしているのだそう。

今回向かう麓の村は、ローズがアルサフ王族を

虐殺した都とはかなり離れた位置にあり、

少数民族が暮らす小さな集落なのだそうだ。



「ヅォーガン山には、化身とされる

“現象”の竜がいるんですよね!」


『……ヅォーガンか。』


「おや、お顔がすごい事に。

ディルギーヴ様はヅォーガンとやらが

お嫌いで?」


『嫌いだ、会話すら出来んからな。』



ヅォーガン山の化身の竜は、

そのまま“ヅォーガン”と言うらしい。

しかしディルギーヴはその名を口にした後、

苦虫を噛み潰したどころか

飲み込んでしまった様な顔をする。



「“現象”の竜にも複雑な関係性が

あるんですね……。」


『奴については道中で暇潰しとして

話してやろう。


さて。』



ディルギーヴが目を閉じて息を吐くと、

徐々に彼の輪郭がぼやけ始めた。

ゆらゆらと空気に溶ける様に揺らいだと

思ったら、今度は大きく形を変え始める。

そしていつの間にか、初めて会った時と同じ

竜の姿を取っていた。



「じゃあディルギーヴ様、

頼まれてた物を着けますね。」



エマは、手に持った特製の鞍を

ディルギーヴの背に取り付ける。

昨日、フレシオスから渡された

飛竜騎乗用の鞍のパーツを再利用して

突貫で作った闇竜用の鞍である。

結構な重さの筈だが、エマは難なく

取り付けてしまった。



『さあ乗れ、シャーリー。』


「はい!お願いしますお父様!」



そしてエマに手を貸してもらい、

シャーリーはディルギーヴの背に乗った。

落ちない様にベルトを腰に回し、

目を保護するゴーグルを身に付ける。



「お嬢様とディルギーヴ様、

行ってらっしゃいませ。」


「行ってきます、エマ!

お祖母様達にもよろしく!」



バサリと大きな翼を広げ、

竜は空に飛び立つ。


あまりの風圧に周辺の木々の葉は

一気に散り、地面にはとてつもない

強風が叩き付けられたが、

頼れる侍女は微動だにしない。

主とその父が見えなくなるまで、

彼らの姿を見送っていた。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『疲れは無いか?』


「はい!空から見る景色が素敵で

楽しいです!」



背に乗るシャーリーの事を考えて、

あまりスピードを出してはいないが

目的地がかなり近くに見える。

陸路で行けば手続きも含めて一週間は

かかりそうなものだが、“現象”の竜だと

あっという間だ。


シャーリーも、最初は城より高い場所を

飛ぶのが怖かったのだが、流れる川や

野原を走る動物の群れ、異国の街並みを

見ていたら恐怖など忘れてしまった。

父の背中で歓声を上げながら、

空の旅を楽しんでいる。



「ヅォーガン山が近くに

見えてきましたね!


シャルドームおじ様以外に、

山の化身とされる“現象”の竜もこの近くに

いらっしゃるんでしょうか?」


『それは無い。

ヅォーガンは端にあたる此処等ではなく、

山の中央部に棲んでおったはず。


彼奴はお前が住む城より遥かに大きいが、

此処からは流石に見えぬだろう。』


「お城……より……!?」



山竜、ヅォーガンはあまりにも

巨大な身体を持ち、正確な大きさは分からない。

おそらく四百m程であろうが、小さな山が

生きて動いているような存在だ。

ヅォーガン山に住むあらゆる原住民達は、

彼の竜を崇め、尊敬しているらしい。



『彼奴はあまりにも大き過ぎる。

ヅォーガンにとって自分以外は

道端の砂利より小さき存在。

人間は砂利の一つ一つに

語りかけぬだろう? 


ヅォーガンという竜もそれと同じで、

我等“現象”の竜とすらまともに

会話が出来ん。』



道端の小石を拾い、それと会話する

人間はかなり酔狂な部類に入るだろう。

殆どの人間は小石を認識しないか、

認識したとしても拾って喋りかけたり等しない。



『他者を個として見れないせいで、

まず言葉を交わそうともせんのだ。』


「本当に不思議な方なんですね……。」


『嫌いの度合いで言うならば

死竜よりはマシだがな。

あの陰湿粘着加虐趣味に比べれば……む?』


「お父様?」


『この感覚、シャルか?

すまぬシャーリー、一度降りるぞ。』



そう言ってディルギーヴは、

眼下に広がる背の高い木々が

生い茂る、緑の森へと降りていく。



『……此方だな。

我が子よ、我の背から決して降りるな。』


「わ、分かりました!」



懐かしい感覚に引っ張られる様に、

ディルギーヴは森の中を進む。

森の木は整備されているらしく、

身体の大きな竜のディルギーヴが

木に突っかかる事無く、奥に歩を進めていく。



『もう近いな、

そろそろ会えると思うのだが。』


『あれっ、お兄ちゃん?』


『……!シャル!』



少し離れた左側から、ディルギーヴと

よく似た男性の声がした。

低く落ち着いた声のディルギーヴと違い、

明るく陽気さを感じさせる声だったが。


親子は同時に声のした方に振り向いた。

そこには……













『久し振りじゃん!

役目が終わったお兄ちゃんを

迎えに行けなくてゴメンねぇ……。


ちょっと爪が離せない用事があってさぁ。』



ディルギーヴによく似た顔立ちではある。

が、人の良さそうな笑顔の男が、

血まみれで立っていた。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『最近多いんだよねぇ、ああいう連中。』



どうやら物騒な森だったらしい。

周辺を巡回していた兵に、

血まみれのシャルドームは

更に血まみれの男達を突き出した。

それはもう、ものすごい笑顔で。


シャルドームが血まみれだった理由……

まあ、全て返り血なのだが。

この森に潜伏していた反政府組織の連中を

ボコボコにしたから、だったらしい。



『取り締まりが厳しくなって、

連中は街を追われてるんだよ。

だから、山奥の村を襲って拠点として、

乗っ取ろうとしてたみたいで。


僕が今住んでる村を狙ってたからね。

ちょ~っと痛い目見てもらったのさ。』


『間抜けな連中よな。

よりにもよって、この“暗がり”で

影竜たるシャルを襲ったか。』



やれやれ、と首を竦めるシャルドーム。

人型になったディルギーヴと並ぶと

確かに双子だ。

気難しそうで、厳しい顔をしている兄と

どことなく優しそうな顔をしている弟で、

雰囲気はかなり違うのだが。



『シャル、紹介が遅れたな。

この娘はシャルラハロート、我の娘だ。』


「初めてお目にかかります、

シャルドームおじ様!


私はシャルラハロート・アーヴェン。

リュゼーヌ王国がシュラージュ領を治める、

辺境伯家の娘でございます!」


『わぁ、礼儀正しい。』



少しどころか、とてつもなく自慢気に

我が子を紹介するディルギーヴ。

そしてシャーリーは、見事なカーテシーを

披露しながら自己紹介をした。

親子の姿を交互にしみじみと眺め、

シャルドームはまた笑う。



『全く、お兄ちゃんってば!

こんなに大きな姪っ子がいたんなら、

もっと早く僕に紹介してよね!


何で教えてくれなかったの?』


『……笑わぬか?』


『内容によっては大爆笑するよ。』


「お父様、寝坊したそうです。

一昨日初めて会いました。」


『ごめん笑うね。』


『ウッ……好きなだけ、笑え。』



静かな筈の山奥を、突如成人男性の

それはもう大きな大爆笑が引き裂いた。


……小鳥達が飛び去り、大きな木すら揺れ、

周りの空気が震える程の。


















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「それで、お父様がお母様に贈った

この髪飾りを私が着けていて……。」


『あぁ、お兄ちゃんに頼まれて、

僕が作ってもらった髪飾りね。』


「あの時お父様は、お母様が

亡くなった事をご存じ無かったので。

形見として受け継いだ髪飾りを

私が奪ったと勘違いされ……


その、結構圧強めに脅されまして。」


『……本当に、すまなかった……。』


『ごめんやっぱり笑うね。』














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