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もう自分の文章を書く自信ない。

作者: ?

【前書き】

もう自分の文章を書く自信ない。

書いたところですぐ多忙に飲まれて結局完成できずに終わる。

手をかけたところで、手がかけられないストレスになることが分かり切っているので、億劫だ。

それに、それ以前のところでも、そもそも自分の言葉を語る自信みたいなものはすっかりなくなってしまっているのだ。

自分を殺し、世間に合わせる訓練をしている結果。


長い会社勤め。編集という仕事の中で、得たものは、自信を無くし、現実を知ったということだけ。時間を失い、個性を削る訓練をしただけ。

自分の書くものなんてゴミのようなものだ。心底、そういうふうにしか思えなくなっている。


ただ、ふと物語を思い描くことがある。

ふと、夢想に心躍らせる時がある。

ふと、形に残したくなる時がある。

自由に、恐れずに、誰に見せるわけでもなく。

ただ、描ければいいのに。

途中で終わる恐怖を抱えて、ビクビクと固まってしまっているが

手っ取り早く、未完をおそれず、質の悪さを忘れ、ゴミをゴミ箱に放るように。

ただ吐き出すように。書いてすぐ、忘れて捨ててしまうように。

呼吸するように、気軽に、そして苦しく、吐き出して。

保存をしわすれ、消えていくデータのように。

書いてみる。そして、消してしまおう。


【花と救急車】

つつじの花が咲き誇っている。

息子はその花びらに「触れてみる!」「触れた」と振り返る。

「いっぱい咲いてるね」と返し、先を歩く。


息子が歩き出すのを待つ。

行くあてのない散歩。するべき仕事は積み上げられているが、もうできないことは分かっているので、今日のタスクはない。ただ、小さな不安だけ。

たいして時間の制約もない。

できれば12時頃には昼を一緒に食べ、13時頃には昼寝をさせたい。

だけど、そう予定通りにはいかないだろう。

10時半に家を出たときは、だいたい散歩しながらイオンにつくのが12時頃。

イオンに息子が行くかもわからない。

あっちいく。こっちやだ。と言われれば、概ね息子の思うままに道を曲がる。

駅まで行くかもしれないし、川まで行くかもしれないし、児童館にいくかもしれないし、あるいはずっと地面のアリや、上空の飛行機を眺めているかもしれない。

彼は自由で、時間なき時間を生きている。

俺は不自由にそれを眺めている。でも、彼のおかげで少し同じ景色を感じることができる。


仕事を諦められているときは気が軽く、彼の遊びに余裕をもって付き合う。

それが出来ているようで、そのふりをしているだけの時もある。

それは、なかなか自分でもわからない。

気が急いたときはアイフォンを構えて彼を撮る。

何故か、映像にすると心が休まる。

彼をちゃんと見ている気になる。

すぐ目の前に彼はいるのに。


そんなことを頭の片隅に感じながら、手をつなぎ、田んぼの横を歩き出す。

大きな蜂が上空で停止し、恐ろしい羽音を立てている。

「怖いよ、危ない」だけど彼にはそれが分からない。

綺麗な花の近くには蜂がいる。

でも、言われてみれば俺も人生で蜂に刺されたことなんてない。

彼みたいに、こんなにも無防備に生きてきたろうに。


頭をかがめながら、通り過ぎる。

蜂は去り、代わりに飛行機が上空を過ぎる

「あきーて」と息子は叫び、指をさす。

青空が広く、雲がゴワゴワと重なっている。


遠くどこからかピーポーピーポーとなりだす。

息子はハッと気づき、踵を返す。

今来た道を引き返す。

「ふみ 救急車くるね」

大好きな働く車が通りすぎるだろう。

“いろんな車があるんだね いろんなお仕事あるんだよ

 走る走る 働く車“


お腹の調子が悪いのか。

彼は夜中に「うんちでた」「うんちでた」と何度も繰り返した。

だけどうんちは出ていない。

冷えたお腹が痛いのか。手を重ねる。

夕ご飯をあまり食べなかったからか、いつもよりあばらが浮き出ている。

「いたいの? トイレ行く?」

しかし、彼はそのあとも数十分同じ言葉を繰り返して眠った。


数十分後、彼はまた起きてしまった。

寝かすのを諦めて、リビングに彼と出た。

暗い中でオルゴールを流しながら、脚の上に乗せ、彼を抱えた。

彼は何もしゃべらず、あまり動かず、ただ眼だけは開いて、その中で縮こまっていた。

熱い後頭部と背中を感じた。

鼻をつけ、つむじの匂いをかいだ。


眠気で頭がくらくらする。自分も体調を崩しているのか吐き気もする。

いや、眠気で吐き気がしているのだろうか。

だけど、むしろそこには幸福感があった。

その場を満たしている綺麗なオルゴールの音が、なんとなく走馬灯のように感じた。

死ぬとき、今のこと思い出しそうな気がする。

そしたら、なんて幸せなことなんだろう。

それとも、今はもしかしたらその走馬灯の中なのかもしれない。

死んだ俺が振り返って見ている走馬灯なのかも。

「ふみ ふみがいてくれてよかったよ」

綺麗なシーンにしたい自意識で、そうつぶやいた。


翌朝、そして、動かくなってしまった。

気づいた時には固まってしまっていた。

混乱の中、現実から目を背けるようにそれがやってくる。

ピーポーピーポー

働く車がやってくる。

それまで働いていたものを担ぎこみ、夢か現実かわからないまま。

ただ走っていく先には、現実が待っている。

それはいつが現実に着いてしまう。


出発する救急車。

ピーポーピーポーと通り過ぎるそのわきで

『ピーポーピーポー』とふみは歌った。


「救急車見れてよかったな」というと、ふみはこまかく2回ジャンプして「きゅうきゅうしゃー!」と叫んだ。


夏の日差しは強く、帽子をかぶせてやればよかったと思いつつ

俺は子供の時から帽子は嫌いでほとんど被ったことがない。

だから、結局子供にもかぶせる気はないんだ。


また、あの怖い蜂の下を通りすぎ、行く宛てのない散歩へ行く。

小さい手をつなぎ、時折、振り返りながら

いつか、いや、本当はいつでも、この瞬間のことを覚えていたいけど

風は過ぎゆく。

全て忘れてしまうだろう。


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