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これからどーすんの?

未歩たちはリンクを先頭に夜の森を歩いていた。

クロウが持つ灯りと、リンクたちがほのかに光っているおかげで、未歩はここに来たばかりの時より幾分も歩きやすく、なにより1人ではないことで、かなり気持ちが楽だった。


「私、気づいたらこの森にいて、リンクたちが言うには別の世界から来たみたいなんです」


「迷い人か…稀にそういうことがあるみたいだ。俺も詳しくは知らないけど、元辺境伯…父さんに聞いたらわかるかもしれない」


「信じてくれるんですか…?」


「ぼんやりとはいえリンクを見るなんて貴重な経験をしたくらいだからな。それに、嘘をついてるようには見えない」


「嬉しいです。本当は1人で心細くて。ありがとうございます、クロウさん。」


そうして未歩は、歩きながらクロウに今までの経緯を話した。


「それで、湖パワーってほんとすごいんですよ!クロウさんも体感しましたよね!?あの万能液は絶対に高値で売れると思うんですけど……っくしゅん」


ぞわぞわと鳥肌が立つのがわかる。夜の冷気は、先程着衣ごと水につかった未歩には少しつめたすぎたようだ。

グレイが足元にすり寄ってきた。少しでも温めようとしてくれているのであろうか。

未歩に貸せるような上着を持ち合わせていないクロウは、少し慌てる。


「未歩さんが平気なら、少しペースをあげよう。はやく家で温まらまないと。…失礼するね」


そう言ってクロウは未歩の肩に軽く手を添える。


「そうしましょうか。…クロウさんの手、あったかいです。グレイも。ありがとうございます」


未歩に触れる手は優しくしっかりと、だが触れすぎないように、距離が近づきすぎないように気をつかってくれているのが感じられる。佑晟というボーイフレンドがいる未歩としてはありがたい。


(紳士だなあ。顔もかっこいいし。さぞおモテになるんだろうな)


そんなことを呑気に考えながら、言われた通り歩く速度を少し早める。


『もうすぐだよ~』


ふわっと、何か軽いものが体全体を通り抜けた感覚がした。

次の瞬間、前方に明るい光が見える。

森を抜けた先には、未歩の何倍もある大きな城壁が佇んでいた。






アルテミス領にあるアルテミス中心街。

領の名と同じこの街は、その名の通りアルテミス領で一番大きな街だ。

ボガード大森林のすぐそばにあるこの街は、いつ魔物が襲ってくるかわからないため高い城壁に囲まれており、夜は門が閉められている。


クロウが城壁の上にいる見張りに声をかけ、門を開けてもらう。


開いた門の先には、異世界らしい中世ヨーロッパ風な街並みが広がっていた。

石造りの道にレンガの家。遠くには屋根がとがった教会のような建物もある。

ヨーロッパにさえ行ったことがない未歩は、興奮を抑えきれず思わず小走りで街に入っていく。

もう月が高く、住人たちは各々家でやすらんいるため、街路を歩く人は見かけない。

それでも、月明かりと該当に照らされ、窓から多くの光が漏れる街並みは幻想的で美しかった。


「すっごーい…」


「ここはアルテミスという町だよ。こっちは裏門でちょっと寂しいけど、正門側は夜でも開いている店が多いんだ。」


クロウたちも美歩に追いついて一緒にアルテミスを眺める。


「僕の家まではまだ結構あるんだけど…付いてきて」


歩き出すクロウに未歩は呆然と町並みに圧倒されながらついていく。

少し不安になり、無意識にクロウの服の裾を掴む。


(私、本当に異世界に来たんだ…これからどうやって生きていけばいいんだろう)


ぎゅっと、裾を掴む手に力が入った。











クロウの家は、アルテミスの街の中心部にあった。

歩くには少し距離があり、クロウはいつも家の馬車で裏門まで送ってもらっていた。

森の見回りは日によって帰る時間が違うため、御者には近くの店で時間を潰すように言っており、そういった行いからアルテミス家は使用人たちに好かれているのであった。

クロウは未歩を連れて少し歩いた先にある御者の行きつけの店へ向かう。

明かりと人々の笑い声が漏れる小さな酒場を覗くと、大騒ぎしている酔っ払いの中に見覚えのある御者の姿が見えた。


「おーい!ジャン!」


未歩を外で待たせて、御者のジャンに声をかける。


「おや!坊ちゃん!今日ははやかったですなあ。すぐ行きますんでちょいとお待ちを!」


そう言ってジョンは飲み仲間に別れを告げ、店の裏口から出て馬車を取りに行く。

ふと後ろに気配を感じ振り向くと、すぐ後ろに未歩がいた。

どうやら酒場を覗こうとしてたようだ。ジャンはすぐさま未歩を連れ、馬車がくるであろう大通りへ向かう。

強引に連れてきた未歩の方を見ると、少し膨れているように見えた。


「ごめんね。でもこんな夜の酒場に未歩さんみたいな…その、若い女の子が現れたら、みんなが寄ってきてしまって危ないんだ。」


「そっか…。全然大丈夫です。ありがとうございます、クロウさん。」


未歩は納得した様子で、街並みを興味深そうに眺め始めた。

クロウはそれを横目で観察する。


(今が人通りのない夜で良かった。こんなに美しい人が街中を歩いていたら注目を集めまくるだろうな。俺でさえ女神かと思ったほどだ。それに…)


クロウは少し視線を落とし、すぐに顔を逸らした。


(こんな格好だと、必ずガラの悪い奴らに目をつけられる)


未歩は濡れたことにより服が肌に張り付いて、彼女の引き締まり、なおかつ出るところは出ている素晴らしいプロモーションを露わにしていた。


(それだけじゃない、先ほどから少し、いやかなり無防備なところがあるようだ。少し刺激が強すぎる。)


クロウは森の中で触れた肩の感触や、先ほど掴まれた裾部分を意識する。

顔と下半身に熱が集まるのを感じた。

クロウは気を逸らすべくジョンの馬車を探す。

すると幸いにもちょうど見覚えのある馬車がこちらに向かってくるのが見えた。


「クロウ坊ちゃん、お待たせしました…ってその方は?」


ジョンは隣にいる未歩に気づき、その姿を見て動きが止まった。だか年の功というものか、すぐに我に返る。


「これはこれは坊ちゃん、女神様か精霊様でも連れてきてしまったのですか?なんと美しい……」


「えっ」


「ぷっ……ははは!!」


未歩が小さく声を上げ、クロウが吹き出す。

長年共にいた御者まで自分と同じ反応をしたものだから、つい笑ってしまった。


「ち!ちがいます!私は普通の人間です!あの、未歩と言います。訳あってクロウさんのお家にお邪魔することになりまして…」


未歩が慌てて否定する。


「おお、そうでしたか。これは失礼いたしました。私はクロウ坊ちゃん専属の御者をやらせていただいております、ジョンと言います。以後お見知り置きを。」


さすが長いこと御者をやっていただけあり、ジョンは先ほどまで酔っ払いたちとふざけていたのが嘘のように丁寧な言動だ。


「ジョンさんですね!運転よろしくお願いいたします!」


未歩がぺこりと頭を下げる。


「そういうことだ、ジョン。見ての通り未歩さんは濡れてしまっている。風邪を引いてしまうからなるべく急ぎで頼む。」


「承知いたしました。」


そうして未歩とクロウは馬車に乗り、帰路を急いだ。











未歩は馬車の景色を楽しんでいたが、数分もすると馬車が止まった。


「到着致しました。」


ジョンの声が聞こえ、馬車の扉が開く。

クロウに手を引かれ降りた先には、ホワイトハウスのような大きな豪邸があった。

馬車から街並みを観察していた未歩は、明らかに他の家よりも大きいことと、先ほどから感じていた違和感に気づく。


「もしかして、クロウさんってここの領主さんの息子さんですか?…ということはかなり良いとこの貴族の方ですか…?」


「良いとこの貴族かはわからないけど、そうだよ。最初に家名を名乗ったでしょ?」


「そうでした………」










豪邸、アルテミス邸のドアを開くと、広い玄関ホールの中心にメイド服を着た若い女性とスーツを着た中年男性の二人が頭を下げて立っていた。


「「クロウ坊ちゃま、おかえりなさいませ」」


「ただいま。この人は未歩さんで私の客人だ。未歩さん、この二人はメイドのジャスと執事のミルド。」


「夜遅くにすみません。お世話になります。」


未歩は初めて見るメイドと執事に興奮を抑えながら、外面は崩さずぺこりと頭を下げる。


「未歩さんは湯浴みをしたら今日はもう休んでいいよ。明日朝また話そう。」


「わかりました。ありがとうございます、クロウさん。」


「いいえ。……ジャス、未歩さんを客室に案内して。湯浴みの手伝いも。ミルドは父上に取り次いで。話があるんだ。」


「「承知いたしました。」」


(すご…)


手慣れたように指示するクロウと、当然のように息ぴったりに返事する二人に少し感動を覚える未歩。

呆けていると、いつの間にかジャスがすぐそばまできていた。


「未歩様。客室に案内する前に湯浴みにしましょう。こちらへ」


「よ、よろしくお願いいたします。」


スタスタとジャスが歩き出す。ジャスについていく前に、未歩はクロウに声をかけた。


「クロウさん、本当にありがとうございます。それじゃあ、おやすみなさい。」


「ああ、おやすみなさい」











「こちらが浴室でございます。」


「ありがとうございます。」


浴室に着いた未歩はさっそく湯浴みをしようとするが、ジャスがなかなか出ていかない。

数秒無言ののち、扉がノックされる。

ちらりとジャスを一瞥し、返事をする。


「はい、どうぞ」


「失礼いたします。湯浴みの手伝いをさせていただくためまいりました。」


そう言って入ってきたのは、ジャスト同じ服を着た数名のメイドだった。


「えっ」


「失礼いたします。」


そう言ってメイド達は未歩の服に手をかけ始める。


「ちょっあのっ」


(ひええ、こっちの世界ではメイドさんたちにお風呂に入れられるのか、無理無理、心の準備がっ!)


などと未歩が慌てていると、メイド達の手が止まった。

どうやらチャックがついていたりする未歩の服の脱がし方が分からないようだ。

内心ほっとした未歩は、一人で大丈夫と伝えてメイド達に浴室から出て行ってもらった。






数分後。

浴室のドアが開き、顔だけ出した未歩が恥ずかしがりながら、かつ申し訳なさそうに言った。


「あの…お湯の出し方がわからなくて…やっぱり手伝っていただいてよろしいでしょうか…」


気のせいだろうか、メイド達の目が輝いたように見えた。










「ふぅ………疲れた……」


入浴後、客室に案内された未歩は、人生で初めて天蓋付きベッドに寝転がる。

客室には高級そうなツボや絵画が飾ってあり、通る時は気をつけよう、と未歩は心に誓いつつ、思っていた以上に疲れていたのだろう。数分もせず、夢の世界へと旅立って行った。




ちなみに未歩は馬をこんなに近くで見るのも馬車に乗るのも初めてで、馬車に乗る終始静かに興奮してます。

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