Scene8
その翌日。僕は普段通りに学校へ登校した。シュウとトウも学校がどんなところか少し気になっていた様子だけど、少しでもボールの手がかりを探してほしいと言って追い返した。昨日はあのまま帰宅し、押し入れから手作り町マップを引っ張り出し、二人にプレゼントした。ボールが転がっていけそうな低い場所や、狭い路地裏など、参考になりそうな場所は蛍光ペンでグルっと囲んでアドバイスした。二人はこの町の季節らしいから、それなりに土地勘はあるはずだ。早くボールが見つかってくれたらいいけど……。
「おーい、叶人。人の話聞いてる?」
「……あ。 ごめんごめん、ちょっと考えことをしてて」
自分の世界に入っている時間が長すぎたようで、大地の声にすぐ反応できなかった。今は理科の野外授業中で、僕と大地と花織ちゃんの三人は、校内の日陰と日向に生えている植物の採集とスケッチに取り組んでいる最中だ。反応が鈍い僕を、大地は怪訝そうな顔で、花織ちゃんは心配そうな様子で見ていた。
「今日の叶人くん、ぼうっとしてる時が多いけど、大丈夫?」
「そうかな……大丈夫だよ! さ、スケッチの続きをしようよ」
なるべく自然に見えるように振る舞ってみたけど、二人には僕がどう見えてるのかな。昨日トウにお人よし認定をされたせいで、どんな見方をされているのかが、いつになくすごく気になった。
「何か悩んでいることがあれば言ってね。私、叶人くんの力になるよ」
「花織ちゃん……うん、ありがとう」
やっぱり、花織ちゃんは可愛くて、しかも優しい。僕のことを本気で心配してくれているようで嬉しかった。
「あ、そうだ。大した相談じゃないんだけど……」
二人にも、意見を聞いてみようかな。
「もし、落とし物をして見つからない時は、二人ならどうする?」
「落とし物?」
「うん、探してるんだけど見つからなくて」
「何を落としたんだ?」
大地が鋭い質問をしてきた。正直に話しても伝わらないだろうから……えーっと。
「犬のおもちゃのボールなんだ。お隣さんが散歩してる時にどこかに落としたみたいで」
我ながらうまくごまかせた! と僕は内心ガッツポーズをしてみせた。でも、
「ワンちゃん、ボールがなくてかわいそう……」
「そ、そうなんだよね~。だから僕力になりたくて」
花織ちゃんが素直に信じてくれたことに少し罪悪感が残った。
「俺だったら、その日の散歩コースや、ボールを使った場所をもう一回たどってみるかな。草原や茂みにそのまま落ちてそうだし」
「なるほど……もう一度確認してみてもいいかもしれないね」
「あとは、川に流された可能性も考えて、下流の様子を見に行くかな」
「おぉ……なるほど!」
さすが、大地。僕には考え付かなかったアイデアだ。昨日は、結局河原の周辺を探すだけで捜索は終了している。家に帰ったら、早速シュウとトウに提案してみようと思った。