表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

Scene7

 次の日。教室で帰りの会が終わると、僕は陸上選手になった気分で大急ぎで家に帰った。僕のあまりの急ぎっぷりに、大地と花織ちゃんはびっくりしたかもしれない。正門前でさようならの挨拶をしていた校長先生からも、そんなに慌てると危ないですよ、と心配されてしまうほどだった。こんなに急ぐ理由はただ一つ。シュウとトウとの待ち合わせ時間に遅れそうだったからだ。

 昨日の夜、明日からどうやってボールを探すのか話し合った結果、ボールの手渡し場所にもう一度行って状況整理をすることに決まった。それだけなら慌てる必要なないんだけど、せっかくだから、当時の時間帯を再現するべきだとトウが言い始めた。その時間が、全力ダッシュしないと絶対に間に合わない時間だったのだ。

 家に着いた僕は、息を切らしながら階段を駆け上がり、ベッドの上にランドセルを放り投げた。テレホンカードの入った小銭入れと、自転車のカギを両手に持って家を飛び出した。

 自転車を立ちこぎすること十分。隣町とをつなぐ橋の(そば)の河原に到着した。犬を飼っている人の散歩コースになっていて、人や犬もまばらにいた。自転車を押しながら土手を歩いていると、野良ネコとじゃれ合っている二人を発見した。なるべく人目のつかないところにいてほしいとお願いしたので、犬の散歩コースからは少し外れた木の茂みで待ってくれていたみたいだ。

「お待たせ、ちょっと遅くなってごめん」

『お、やっと来たか。ガッコウって大変だな』

『カナト君、この猫かわいいよ』

 遅刻気味だったから怒られるかと思ったら、意外とそうでもなかった。それにしても、まるで緊張感がなくて、本当に困っているのか少々疑問だった。

「シュウ、ボールを手渡した時の様子がどんな風だったか教えて?」

 自転車にカギをかけ、猫をひと撫でしたところで、シュウに話を促した。茂みから隠れるようにしつつ、僕たち三人は河原を見渡す。誰もこちらへ来る気配はなさそうだ。

『ナツちゃんには、僕から連絡をとったよ。もうすぐボールを受け取りたいから会おうって。そして、手渡す日と場所を提案されたんだ」

「受け渡す場所はどこでもいいの?」

『決まりはないよ』

「ふーん」

 すごく神聖な場所でやり取りをするイメージだったんだけど、案外お手軽なんだなと思った。

『その日は朝からすごく天気が悪かったな。昨日も話したけど、ナツちゃんの機嫌が悪かったんだと思う』

 シュウはそういって、僕たちの上にそびえたつ大きな木を指さした。

『この木の下で待ち合わせたんだ。この木が一番大きいからわかりやすいでしょって』

「うん、そうだね。この河原で一番最初に植えられた木だっていう噂だよ」

『カナトはそんなことまで知ってるのか』

「たまたまだって」

『で、そのあとどうなったんだ?』

『ナツちゃんと合流したんだけど、ちょっと急いでる様子だったから、あんまりのんびりせずにボールの受渡しの話になったよ。それで、ボールを受け取った瞬間……』

 ピカッと空が光ったあと、大きな雷の音がすぐ近くで鳴ったらしい。確かに、急に空が光って近くで音がしたら、僕だってびっくりすると思う。

『ボールを落としたと言っても足元だろ? すぐ回収すれば問題ないじゃないか』

 トウの言うことは正しいと思う。風船じゃないんだから、ボールは足元にあったはずだ。

『いや、それが……。雷の音が結構大きくて近かったから、しゃがみ込んで目をつぶってたの……』

「どのくらいの時間?」

『うーん……はっきりとは覚えてないや』

『……で、その後は? だいたい想像はつくけどな』

 僕もトウの言葉に大きくうなずいた。

『……うん。しゃがんだ時には、あったはずのボールがどこかに消えちゃってた。ナツちゃんも気が付けば帰っちゃったみたいで。僕一人で受渡した場所の近くを少しは探してみたんだけど……』

「見つからないまま、今日まで来たんだね」

 こくん、と本当に申し訳なさそうに頷いた。

『ボールの気配は?』

 首を二回、横に振った。

『ない。消えてた』

「ねぇ。ボールの気配って、何?」

『感覚で、近くにボールがある・ない、っていうのが俺たち季節にはわかるんだ。ま、ここにはもうないだろうな。俺も全く気配を感じない』

「……そっか」

 この場所になさそうなら、この周辺を中心に、少しずつ広い範囲を探していった方がよさそうな気がした。シュウは、当時のことを思い出したのかもしれない。表情が、今にも泣きそうだった。そんな彼に、トウも特に言葉をかけようとしなかった。

「今日はもうこのくらいにして、また明日探そう。家に帰ったら町マップあるから、それを参考に計画を立てようよ」

 小さい子どもに言い聞かせるように、僕は言った。さっきと同じように、シュウは小さくこくん、とうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ