Scene6
「季節を引き継ぐ手伝い?」
そういえば、引き継ぐときの方法を僕はまだ知らない。その思いがトウに伝わったようで、彼は自分の両手を胸の前に出して
『俺たち季節の間で受渡しをする、このくらいの大きさのボールがあるんだ。次の季節がそのボールに触ると、季節のエネルギーがボールに伝わって、ボールの中で、その季節に咲く花々や草木、星座が生成されるんだ。そして、準備ができると、町全体、空全体を季節色に染めていく。今、空に星が浮かんでいないのは、夏の期間が長すぎて、もう星たちにエネルギーが残っていないせいだろうな』
「そうなんだ。……ん? でもどうやってそのお手伝いするの? 僕の出番いらないよね? ボールはどこにあるの?」
季節の間で引き継ぐボールなら、僕にはおそらく見えないはずだし、そのボールは今どこにあるんだろうと考えた。ボールがあれば解決できる話だと思うんだけど、と。
『ボールは受け取るには受け取ったんだけど』
もじもじとそのあとの言葉を濁すシュウ。
「……けど?」
そのあとの言葉をなかなか発しないシュウに、トウがとうとうしびれを切らした。
『受け取った瞬間に鳴った雷にビビって、そのまま落っことしてしまって所在不明……だってさ。だろ?』
シュウのかわりに代弁し、盛大にため息を漏らした。
「は、……はあ?」
『だから本当にごめんって』
『謝って済むなら警察はいらねーんだよ!』
その言葉は季節の間でも使うのか……と感心したけど、僕もすかさずツッコむ。
「なんで落としたボールを追いかけなかったの!?」
『ボールと言っても風船みたいにふわふわしてて、すごく軽いんだよ。それに透明に近い色味だから、景色と同化して、雨も降ってたから余計に見えづらくて。風も強かったし……気が付けばボールの気配が消えていたんだ』
「なんでそんな日にボールを受渡したの? もっと晴れた日でもいいじゃん!」
『ナツちゃんの機嫌が悪かったから、それに影響して天気が悪くなっちゃったんだよ……。ナツちゃん受渡し当日はだいたい機嫌が悪いから悪天候なのは仕方なくて』
ナツちゃんというのは、その名の通り“夏”なのだろう。そして季節の機嫌によって天気も変わるらしいことがわかった。
「それが分かってるなら、もうちょっと注意深くボールの受渡ししなよ……」
『僕は用心してたつもりなんだ。でもまさか雷が鳴るとは思わなかったよ……』
「……」
僕は返す言葉が見つからなくてうなだれてしまった。
『カナト、俺がシュウにした質問と全く同じこと言ってるぞ。すげぇな』
と、トウが妙なところで感心してる。
「えーっと。僕がすることって、透明で風船みたいにふわふわしたボールを探して、季節がもとに戻れるサポートをするってこと?」
『そうだ』
「僕、ボール見えないのに?」
『俺か、シュウに触っている間は見えるようになるから問題ないぞ』
あ、そうなんだ、と僕はその話を聞いて納得した。そして、新たな疑問点が浮上した。
「だったら、そのサポートは僕じゃなくてもできるんじゃない?」
ということだ。だけど、
『そんな薄情なこというなよ、カナト。お前、この町のことについて詳しいんだろ? 去年の夏休みの自由研究に「僕の住む町マップ」を作って、学校で表彰されたらしいじゃないか』
『そのマップとカナト君の力があれば、絶対ボールは見つかるよ!』
「え、ちょっと! 僕たちさっき初めて出会ったばかりだよね? どうしてそんなこと知ってるの?」
初対面の人が知っているにはおかしい僕の情報を、なぜか二人は入手している。
『ボスが教えてくれたんだ。……ま、そういう細かいことは気にするなよ。今の俺たちには、お前が唯一の頼りなんだから、期待してるぜ、カナト』
『カナト君、よろしくね』
ボスって誰! という新たな謎が僕の中で生まれたけど、気が付けば二人のペースに飲まれていて、それ以上新しい情報を得ることもなく、僕たち三人の季節の移り変わりミッションがスタートした。頼られているので、どうにかするしかないようだ。