Scene1
十一月に入ると、町のイルミネーションが華やかになり、気分が弾むようなメロディーが、あちこちから聞こえるようになってきた。思い出してみれば、去年も、その一年前も、ハロウィーンが終わったのと同時に、町全体がクリスマス歓迎ムードに染まっていったっけ。隣に並んで歩いていた花織ちゃんは、パッチリした大きな目をキラキラと輝かせていた。その横顔を見て、僕の顔は自然と赤くなった。
「叶人、お前顔赤いぞ~風邪か?」
僕の隣を並んで歩く悪友・大地がにやにやしながら話しかけてきた。大地と僕は、今年で三年目の付き合い。たまたま同じクラスの隣の席になって、好きなゲームの話で盛り上がって意気投合した。彼は、誰とでもすぐ仲良くなるし、周りからの信頼も厚い。一年前に花織ちゃんが転校してきた時も、あっという間に打ち解けていた。僕はと言えば、花織ちゃんの笑顔に一目ぼれしてたじたじ。大地がいなかったら、花織ちゃんとこんな風に並んで歩くことなんて、夢のまた夢だったかもしれない。もちろん大地には、僕の気持ちはバレバレ。だからいつも何かとからかわれるけど、根は決して悪い奴ではない。今日だって、イルミネーションを見ながら寄り道して帰ろうと花織ちゃんに声をかけてくれたのだ。
「叶人くん、具合悪いの?」
心配そうに僕に声をかけてくれる花織ちゃん。僕の心臓はドキドキ鳴りっぱなしだ。
「ううん! 超元気! ほら、半そでTシャツだし」
そう言って両手を広げて見せた。今日着ているTシャツはクラスでの大人気のゆるキャラがプリントされている僕のお気に入りだ。花織ちゃんは、ほんとだ、元気そうだね、と笑って言った。
「来年制服を着ている叶人が想像できねー……」
「叶人くん、寒くないの?」
「別にTシャツ着るくらいいいじゃん。全然寒くないよ。今日の最高気温三十度だったんだって。伊藤先生がまだ九月くらいの気温だな~とも言ってたし」
僕以外の二人も、十一月に着るとは思えない服装だ。花織ちゃんは花柄の半袖ワンピースに黄色のカーディガン。大地は薄手の長袖シャツだ。まあ、僕ほどラフではないけど。
「そうだね。市民プールもまだ使えるもんね。もう一回くらいプール行きたいなぁ」
夏と未だに変わらない気温のおかげもあって、雨が降らない限り、土日のプールは僕たち小学生や小さい子供たちで大繁盛している。
「じゃあ今度の日曜日にまた三人でプール行くか? なぁ、叶人?」
花織ちゃんに見えない角度から、大地が僕の脇をつつく。どこから一体そんな技を覚えてくるのだろうか。でも、僕にとっては大地のこの積極性がありがたかった。
「そ、そうだね。花織ちゃんさえよければ、行こうよ、プール!」
「ほんとうに? 二人とも、いいの?」
とても嬉しそうに微笑む花織ちゃんの、その笑顔が僕にはまぶしかった。この笑顔、全力で守りたい。
「あぁ。俺たちいつも暇してるし。花織ちゃん、今日家に帰ったら予定聞いてみてくれる?」
「もちろん! 大地くんありがとう! あ、もちろん叶人くんも!」
「う、うん」
……少し複雑だが、まあ良しとしよう! これでお休みの日も花織ちゃんに会えるんだ!
花織ちゃんは、お休みの日はピアノの練習や発表会や家族とのお出かけで忙しいから、素直にうれしかった。今日は火曜日。今から五日後の日曜日が楽しみで楽しみでたまらなかった。