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03 婚約者とは




「婚約者とは……」

「はい」

「こうやって、剣を構え合うものなのだろうか」




 私の前には、不満そう……というか、呆れて物も言えないとでも言いたげな婚約者のユーイン様がいる。

 今、何しているかと言われれば、手合わせをお願いしたいと言って、木剣を向け合っているのだが、ユーイン様はどうも乗り気ではないようで、青い顔をしている。

 確かにユーイン様は剣術は、ソリス殿下に比べると劣るし、魔法があるから他はいらないと思っているかも知れないけれど、これも経験だと私は思う。何て、言ったら何て言われるか分からないから、口にはしないけど。ソリス殿下と、ユーイン様の間の壁というか、ユーイン様がソリス殿下に劣等感を抱いているのは知っているから。だからこそ、乗り気じゃないのかも知れないけれど。




「……」

「矢っ張り、ダメですよね。あはは……」

「ステラが、やりたいというのなら仕方がない」

「よかった」




 思わず、ほんとふとそんな言葉が口から出た。


 ユーイン様にまで、女性はあーだ、こーだ言われるのは耐えられないからだ。ユーイン様の顔を見る限り、考えて発言してくれたようだったが、何というかそこは申し訳なく思った。気を遣わせてしまっている。それに気づいてしまえば、こちらも気まずいのだ。

 それでも、何故私がこんな手合わせをお願いしたかと言うと、私の強みは有り余るほどの体力と怪力だけど、剣術も身につければさらに強くなると思ったからだ。そんな単純な理由。それなら、剣術の天才であるソリス殿下に頼めばいいじゃないかと言う話になるのだが、一応これでもユーイン様は婚約者で、嫉妬が強いみたいなので婚約者がいるのに他の男と……となると面倒くさいからだ。


 まあ、これは、ノイに聞いた話なんだけど。




『いいですか、ステラ様』

『うん、ノイ』

『男性というのは、嫉妬深い生き物なので。くれぐれも、2人きりの時は、他の男性の名前を出さないように』

『分かった!』




 ノイから、男性との付き合い方とかを学んでおいてよかったと、私はしみじみと感じた。

 それにしても、本当に良かった。まさか、ユーイン様が手合わせしてくれるなんて思わなかったから。嫌そうではあったけど。




「言っておくが、僕はそんなに強くないからな」

「大丈夫です! 私も初めてなので!」

「初めて……じゃないだろう、君のお父上に聞いたところ、これが初めではないらしいが」

「あ、本気でぶつかるのが始めてって事です」

「まて、僕に対して本気で剣を振るうのか?」

「ダメですか?」




 私がそう聞くと、ユーイン様は、さらに顔を青くして、手で顔を覆った。

 はあ……とその隙間から途轍もなく大きな溜息が聞える。




「……ステラ」

「はい」

「別に、付合うのはいい」

「はい」

「だが、こう、向き合う前に……木剣を何本おった?」

「えーっと、30本前後ですかね」

「何故、握っただけで……はあ、ステラ」




と、再度名前を呼ぶユーイン様。何を言われるのかと思って待っていれば、ユーイン様の足下から冷たい空気が流れ始めた。冷気、といってもいいそれは、私の足を徐々に凍らせていく。


 あれ? もしかして、怒らせたかな……




「あ、あのユーイン様」

「……ここまできて、逃げるなんて言わないし、お前を悲しませることはしたくない。僕は自分の意思で、受けて立つと言った。だから、逃げる気は無い」

「はい」

「だが、お前と本気でぶつかったら、僕は死んでしまうかも知れない」




 まさか。と私は口に出してしまう。

 すると、ユーイン様は、そのまさかがあるんだと言わんばかりに私を見た。私は思わず目をそらしてしまう。




(ひえ……怖い)




 矢っ張り怒っているんじゃ無いかと思ってしまった。でも、ユーイン様はそれは断じて違うと否定する。なら、何だと。




「…………だから、悪い。ステラ。お前の力との差でハンデを付けさせてくれ」

「え?」

「ダメか」

「いや、良いですけど。私、そんなに強くないですよ」

「僕は、魔法を使わせて貰う。勿論、剣への錬金魔法だ。直接魔法は使わない」

「はあ」




 で、結局何が言いたいのかと私は分からずじまいだった。

 まあ要するに、私が強すぎるだろうから、防御させてくれ、剣を補正させてくれと言うことだろう。それぐらい、言わなくてもしても良いのに。




(第1、この木剣折れやすいし)




 先ほどユーイン様に言われたとおり、この木剣は折れやすいのだ。だからこそ、錬金魔法を使わないと、すぐ折れてしまうだろう。

 私は、ユーイン様が魔法をかけ終わるまで軽く素振りをしていた。空を切る感じが楽しい。そうして、魔法をかけ終わったらしいユーイン様は、私の方を見た。何故か、冷や汗出ているのは、見間違いだろうか。




「あ、準備出来ましたか?」

「お手柔らかに頼むぞ」

「えー」

「えーじゃないんだ」




と、ユーイン様は必死に言っている。


 まあ、幾ら皇宮の庭だからと言って暴れて良いわけじゃないし、加減はするけれど、手を抜きたくはない。




「じゃあ、いきますよ」

「あ、ああ……」




 ユーイン様のたどたどしい声を聞きながら、私は踏ん張った。グッと足に力を入れれば、地面がへこむのを感じる。そのまま、思い切り力を入れてユーイン様に向かって走っていく。

 大きく振りかぶって、そして振り下ろす。




「……矢っ張り、これ、ダメだろ!」




 最後に見たのは、絶望の表情を浮べたユーイン様だった。

 重くて受け止めきれない、とでも言うようにユーイン様は私の木剣を何とか逸らすようにして避けていた。

 それでも、私の木剣は地面にぶつかると、ドゴンッ! と鈍く大きな音がした。やっぱり、やり過ぎたかもしれない。地面にはクレーターのような物が出来ている。木剣が耐えられたのは奇跡と言っても過言ではないだろう。


 私は、ふとそう思った。

 だって、ユーイン様の顔が青いを通り越して白くなっていたから。




「ステラ……やはり、やめないか?」

「今更ですか?」

「皇宮が滅茶苦茶になる」

「防御魔法、かけてくれてなかったんですか?」

「……何で僕が」




 この間の喧嘩の時は、防御魔法で部屋を覆っていたくせに、今回は何もしていないのかと呆れてしまった。だが、普通はそんなことしなくて良いのだ。だって、これは手合わせだから。

 でも、普通の手合わせじゃなくて、最強同士の手合わせである。

 だから、普通という物は通用しない。




「私、まだまだいけますから」

「勘弁してくれ……ステラ」




 ユーイン様の顔には諦めの文字があった。だが、彼は、最後まで付合ってくれて結果はまあ、言わずもがなという感じだった。




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