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07 べた惚れゴリラ




「きゃああ! ステラ、何てかっこで帰ってきてるの!」

「かわ……可愛すぎて」

「何を言ってるか、分からないわ。ステラ……取り敢えず、お風呂に入ってきなさい」




 白目を剥いて倒れそうだったお母様は、何とか私の肩を掴んで持ちこたえ、必死の形相で私に風呂に入るようにと進めてきた。と言うか、入らないなら風呂に沈めると言わんばかりの勢いで。

 それでも、前のお母様と比べて、女性らしくありなさいとか言わないからそういう所は好きだったかも知れない。


 問題はそこじゃないが。


 バクバクと煩い心臓。小さいユーイン様にだけ反応するかと思っていた私の中の可愛いレーダーが、あの無愛想で表情筋が死んでいるんじゃないかってくらい可愛げの無いユーイン様にも反応したのだ。何が起るか分からないって奴だ。




「ステラ様、どうなさったんですか」

「ノイ……」

「取り敢えず、お風呂ですね。用意が出来ましたので、こちらに」




と、ふらふらとゾンビのように歩く私の背中を押しながらノイはお風呂場へと歩いて行く。


 ノイの驚きすぎた顔傑作だったなあ、と回らない頭で考える。

 ノイは、道中何も話し掛けてこなかった。きっと今の私に何を話しても無駄だと思ったのだろう。

 実際、その通りだ。


 頭の中に、ユーイン様の事しかない。




「ステラ様、湯加減は……って聞いてませんね。これ」

「……ほわぁ」




 バカみたいにみっともない気の抜けた声が出る。


 お湯加減? うん、大丈夫。と言いたかったけれど、呂律が回らなかった。きっと顔も酷いことになっている。氷が溶けて水になったみたいな、べしょべしょとした顔。この表現はよろしくないのかも知れないが。




「ステラ様、ステラ様!」

「ノイ」

「大方、何があったか予想は出来ますが……その……」




 ノイもなんて言ったら良いか分からないようで、言葉に詰まっていた。まあ、それはそうだろう。




「あのねぇ、ノイ……ユーイン様、可愛かったんだ」

「ユーイン様がですか」

「うん」

「小さいユーイン様ですか?」

「へへ、どっちもぉ」




 周りから見たら、ただの酔っ払いに見えるかも知れない。実際に、お酒を飲んだことはないけれど、酔っ払ったお父様はこんな感じだと、頭の片隅で思った。

 ノイは、はあ……と分かりやすく大きなため息をつく。




「酷いなあ、ノイ。聞いてよ、ノイ」

「聞きたくありません」

「え~ケチぃ」




 ぴゅっと私は行儀が悪いと思いつつ、水鉄砲をノイの顔に喰らわせる。さすがに、いつも危機察知能力が高いノイも避けられずに顔面で受け止めていた。少し申し訳なかったが、気分が良いので許して欲しい。ああ、違うか、配慮が出来ないほど頭の中ふわふわしてるのか。


 もう、何も考えられなかった。


 皇宮の一室ぶっ壊してきたこととか、発狂しながらドレスで全速力で走ってきたこととか。今となってはどうでも良いことだった。滅茶苦茶前のようにも感じる。

 だって、本当に可愛いんだもん。あの、小さなユーイン様が。ユーイン様が可愛く見えて仕方がない。




(何であんなに可愛かったのかな。あんなに表情筋死んでるのに。男の人に可愛いって感情……抱くものなんだなあ……)




 これまで私が認めてきた男性は、格好いい、強いが基準だったのに。元々は、ユーイン様も格好良くて強い、という部類だったのに。それが一気にぶち壊されたのだ。

 可愛い、これは、愛でるものだ!

と、母性がくすぐられたというか。

 表現の仕方は難しいけれど、きっと母性だ、と自分に言い聞かせる。恋愛感情よりも、母性が爆発した。というか、そんな物が私の中にあったのかとすら思っている。




「ステラ様……まあ、何となく何があったかは察しますが、さすがにどうかと思います」

「皇宮の一室ぶっ壊してきたこと?」

「それもですが」

「じゃあ、発狂しながら走って帰ってきたこと?」

「それもですが」

「じゃあ、何?」




 私には思い当たる節が無かったので、素直に聞いた。すると、また大きくため息をついて、呆れたと言わんばかりに首を横に振った。




「ユーイン様が可愛いというのは分かりました。ですが、話をややこしくしないで下さい」

「ややこしくって?」

「多分、また拗れます」

「拗れる?」




 いや、もう既にユーイン様は拗れていたでしょ。と、何故か途端にスンと我に返って思った。

 近付くために、わざと子供のフリをしていたことがバレて、大人の姿では好きとも言えずにつめたくして、かと思えば心はピュアで……見たいな。これを拗れていると言わずして何て言うのだろうか。


 私は首を傾げた。


 ノイはまだ硬い表情で私を見ている。




「兎に角、もう知りませんからね」

「ユーイン様は可愛いよ?」

「……」




 ノイは私の言葉に答えてくれなかった。

 でも、何か知っているのだろう。そして、それはきっと悪いことでは無い筈だ。


 私はお風呂から上がって、部屋に戻るとベッドに飛び込んだ。

 まだ濡れたままの髪とか、びちゃびちゃの身体とかどうでも良かった。

 今はただ、眠りたい。




「ステラ様」

「何? ノイ。話し聞いてくれるの?」

「そういうわけじゃありません」

「えーじゃあ、何? また、拗れるとかさっきの話?」

「はあ……そうです」




と、部屋に入ってきたノイは言った。


 お風呂に入ってもまだ、熱が冷めなかった。

 ユーイン様の可愛い姿を見てしまったから。あれが、夢だったら……私の妄想だったらと考えると、恥ずかしいが、あれは夢では無いと思う。このユーイン様の可愛さを知って欲しいと私は思っている。

 でも、ノイは聞いてくれないと。




「具体的に拗れるって何が拗れるの?」

「……ステラ様は、ユーイン様と話すために皇宮に向かったんですよね」

「うん」

「それも、婚約云々の話で」

「ああ、そっか。そういう理由で行ったんだったね」

「……」

「ごめんって、それどころじゃなくて」




 思えば、すっかり皇宮にいった理由を忘れていた。

 元はと言えばユーイン様がいきなり告白してきて、私が振って、その話を改めてするために行ったのだ。だから、何がどうなってこうなったのか分からない。

 衝撃的な告白もあったし、それでユーイン様が可愛いって事が分かって。




(あ、何も解決して無くない?)




 ようやく、正常な判断が出来るようになってきた。 

 また、話し合いをしなければならなくなるだろう……でも、今度ユーイン様を前にして普通でいられるだろうか。いや、いられないだろう。それに、そもそもそんな時間をとって貰えるかすらも……




「ノイ」

「はい、何でしょうか。ステラ様」

「……このはなしは置いておいて、取り敢えず、ユーイン様が可愛いって言う話を聞いてくれる?」

「嫌ですね。断固拒否します」




 ノイはそうばっさりいって、私に白い目を向けた。




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