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夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット
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やっちまったでおじゃる

「タクちゃんは、まだおねしょするんやね。私、聞いてなかったからビックリしたわ」


 おじいちゃんの家での夕食は、そんな屈辱的な言葉から始まった。


 お兄ちゃんなら、オラ、やっちまったぜ。とでも言って、みんなを笑わせるかも知れない。でも、僕には、到底そんなマネは出来ない。おいしそうな地鶏の唐揚げを、恨めしそうに睨みつけるのが、精一杯の抵抗だった。


 僕のせいじゃない。オカシイのはこの家の方だ。


「隆、あんた知ってたの?」 

 隆とは、お父さんの名前だ。

「いや、家では無いと思うけどな」

 お父さんは、思い出せないという感じで首をヒネッタ。


 あるわけないじゃん。僕んちでは、天井で虫が這いずり回ったりしないんだ。

 それにネコが僕を引っ張ったり、羽を付けて飛んだりもしない。


「そう...。じゃ、長旅で疲れちゃったのかね」

 そう言いながらも、おばあちゃんはまだ納得していない感じだった。そして、迷った挙句に言った。


「ご飯食べてる時だからちょっと言いにくいんだけど、パンツにうんちも付いてたんだよね」


 ガッビーーーーン。


 それ、言うか? いま、本人を目の前にして、それ、言うか?


 うそ...。

 お父さんが、声を詰まらせた。

 焼酎を飲もうとしていた、おじいちゃんの手が止まった。


 オモーーーい、空気が、オモーーーい。おばあちゃん、空気ヨメねーーーー。


 顔が、アツイ。とにかく、アツイ。何か、考えなくては...。他のことを。


 オシッコの感覚は、あった。ちょびっとだったけど。でも、うんちは...。


 違う、それじゃない。別のこと考えるんだ。もっと楽しいこと。


 今となっては、お父さんの部屋のエアコンくらいガタが来てしまった僕のコンピュータだけど、ウイーーーンと音を立てて回転を始めた。


 だ・か・ら、違うでしょ。勝手に、コンピュータを動かさなくてもいいって。


 犬か? あの犬たちが、森から飛び出して来た時かな?


 原因なんか探っても、意味ないんだよ。ウンコは、もう戻らないんだから。


 あの時も、確かに怖かった。でも、あの時はまだ逃げるのに必死だったし...。


 チーーーーン。

 コンピュータの回答が出た。ネコ君に引っ張られて、崖から飛び降りた時です。


 そうだ。思い出した。あの時、僕は思いっきり踏ん張ろうとしたんだ。

 ほら、やっぱり、僕はうんちを漏らしちゃったんだ。知らない方が良かったのにーー。


 僕は、恥ずかしさのあまり、石のように硬くなって、下を向いた。


 実際は、ちょっとの間だったんだけど、僕にはものすごく長い時間のような気がした。


「あっ、コ・ン・ビ・ニ・の・お・に・ぎ・り・だ。母さん、今朝食べたコンビニのおにぎりが原因だと思うよ」

 お父さんが、おばあちゃんとおじいちゃんに、突然言い訳を始めた。声が異常に大きい。そして、とても、わざとらしい。


「ナ・ン・ダ・ソ・ウ・ダ・ッ・タ・ノ。それを、早く言ってくれればいいのに」

 おばあちゃんも、大きな声で答える。


「ソ・オ・カ、ソ・オ・カ、じゃあ、とりあえず乾杯だな」

 おじいちゃんのは、意味不明だった。


 それから、みんなは何事もなかった様に食事を続け、お母さんやお兄ちゃんの話で盛り上がった。

 当然ながら、僕の話題は出てこない。それは僕の事をそっとして置こうという優しさだったと思う。

 そして、それが終わると、おばあちゃんは僕の分だけ残して、片づけを始めた。

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