表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢想家タックンと妖精たちの森  作者: マーク・ランシット
4/22

不思議の始まり。その2。

「起きてよ、タッくん」


 耳元で誰かの声がした。やさしい恵子先生の声には程遠く、お母さんの、殺気に満ちた声とも違っていた。

 あまりに心地よい眠りだったので、もう少し余韻を楽しみたい気分だった。


「タッくん、早くしないと捕まっちゃうよ」

 何かの手が、僕の体を揺さぶった。その手の動きは段々強くなってゆく。


 捕まるって? 誰に?


 僕はゆっくりと目を開けた。霧に煙った中に、ネコの顔があった。

 記憶が蘇って来た。あのぬいぐるみ?


「タッくん、早くここから離れなくっちゃ」

 ネコが強引に僕の手を引いて、起こそうとする。霧が晴れて、次第に周りが見えてきた。


 ワン、ワン、ワーーン。

  遠くから、犬の鳴き声がした。凶暴で危険な響きだった。


「タッくん、早く起きてよ」

 その声は段々と大きく、緊張感が増して来た。


  僕はゆっくりと立ち上がった。なんと周りは一面のお花畑。紫の花だった。

 ラベンダー?

 そう、それは、僕にとって特別な花だった。


「ここは、どこなの?」

「タッくん、早く!」

 ボーゼンとしている僕の手を、あのネコが力強く引っ張った。体の割に力がとても強い。

 

 なんで?


 ワン、ワン、ワン。ワーーーン。


 犬の鳴き声が、次第に近づいてくる。僕は縺れそうな足を必死に動かした。転びそうになりながら、必死に動いた。  

 気持ちは焦っているのに、体が思うように動いてくれない。体中から冷汗があふれ出した。もどかしさと戦いながら、足を動かそうとした。


 5メートル、10メートル。少しずつ、体に感覚が戻って来た。地面が柔らかいのを感じた。


 ワン、ワン、ワワワーーーン。ウヲーーヲヲーーーーン。


 犬の声が、突然大きくなった。50メートルほど向こうの森から飛び出して来たからだ。

 怖くて、後ろは振り向けない。でも、獰猛な犬たちが、花の絨毯を引き裂いて来る、ザザザーっという音が聞こえた。


 近いかも・・・。

 いやだーーー。助けてーーー。


 心臓は、口から飛び出してしまうくらい高鳴っている。15メートルほど走ったところで、僕の目に不思議なものが飛び込んで来た。


 無いっ。地面が、ないっ。

 ダンガイ、断崖、だんがい・・・。


 イヌ、犬、いぬ・・・。

 噛まれる、かまれる、カマレル・・・。

 痛い、いたい、イタイ・・・。


「タッくん、飛ぶんだ!」


 ネコ君が叫ぶ。恐怖で足を止めようとしている僕の手を、思いっきり引っ張った。

 地面の無い空間に、ネコ君が僕を強引に引きずりこんだ。


 痛い、いたい、イタイ・・・手が痛い。

 無い、ない、ナイ・・・地面が無い。


 なんだろう。恐怖とか、焦りとか、痛さとか、ゴッチャマゼになった感情で、僕の頭の中は真っ白になった。それでも、足が踏みしめるものを失った感覚だけは、はっきりしていた。


 落ちてる・・・? ボク、落ちてるの?


 怖くて、下は見れない。


 落ちる。オチル、おちる・・・。

 死ぬ、シヌ、しぬ・・・死んじゃうの? 


 夢よ、サメテ、オネガイ、シマス・・。

 お母さん、助けて。何でも言う事聞くから・・。


 ワン、ワン、ワワワーーーン。ウヲーーヲヲーーーーン。


 気が変になったのかもしれない。犬の声が、下のほうから聞こえてきた。

 ボク、さかさまに落ちてるのかな? 

 でも、そんな感じでもなかった。


「タッくん、もう大丈夫だよ」


 ネコ君の声に、恐る恐る目を開けると、さっきまでいた断崖のところで、2匹の猛犬が僕らに向かって吠えているのが見えた。ネコ君は、背中に生えた羽で空中に浮かんでいた。そして、気が付くと僕にも羽があって、同じように空中に浮かんでいたんだ。


「行こう」 


 ネコ君は、向こうにある森を指差して言った。


 オ、シッコ、モレ、タ、カ、モ...。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ