恋の始まり、そして・・。
僕は落ちこぼれだ、・・・たぶん。
お兄ちゃんみたいなスターじゃない。
学校の成績も、・・・結構ショボイ。
自分の顔は嫌いじゃないけど、女の子の視線を浴びた経験は、・・乏しい。
「お兄ちゃんに、良いとこ全部持ってかれちゃったのかな・・」
成績表を見た後に、お母さんが必ず言うセリフ。
冗談のつもりかも知れないけど、その言葉に僕は結構傷ついている。
そんな僕にも好きな人が出来た、・・・みたいだった。
今年の4月。天使は歩いて転校してきた。
「桜木マリナです。北海道の札幌から転校して来ました。よろしくお願いします」
その時は、可愛いなと思っただけだった。
4月が過ぎ、5月も過ぎ、6月の雨の日。
学校に向かう道で、ピンク色の傘をさした彼女を見つけた。
傘の端から時々見える三つ編みのリボン。真っ白なポロシャツと黄色いスカート。
クラスの女の子と話す横顔に、カミナリがドカンと落ちて来た。
その日を境に、僕の心と頭の中に桜木マリナが住み着いたみたいだった。
漫画も、映画も、ゲームですら、ヒロインはみんな彼女に見えた。
通学途中、友達と遊んでいる時、家族でスーパーに買い物に行った時。角を曲がったところで、偶然彼女に出会うことを願う僕がいた。
今までそんなこと無かったのに、歌の歌詞にキュンと胸が痛くなった。馬鹿にしていたはずのバンドが好きになった。
だからと言って、彼女と僕の関係は何も変わらない。
彼女はますます輝いて行くのに、僕は相変わらずサエナイままだ。
「卓也って、最近その服ばっかりだね。誰か好きな子でも出来たの?」
デリカシーの無い言葉で自分の子供の心をズタズタにするくせに、妙なところで勘が鋭い。しかも、ダイレクトな質問。
残念なのは、ここでの僕の対応。
「馬鹿なことを言うものではおじゃらぬ。僕はまだ3年生でおじゃるよ。女の子の事が気になる様な年ではないでおじゃる」
と、言い返す事も出来ず。
「・・・」
黙って家を出て行く。
「行ってらっしゃい。今度、家に連れておいでー」
おかあさんの中の疑問は、すでに確信に変わっていた。もう、どうやっても覆すことは難しそうでおじゃった。
「桜木さんは、しばらくお休みします」
担任の恵子先生は、ただそう言っただけだった。
「桜木さん、入院したらしいよ」
クラスの中で、こんなうわさが広まった。7月中頃の事だった。
ケガなのか、病気なのか、はっきりしない。
「桜木さんの病気、重いらしいよ」
クラスの友達が、お見舞いに行ったらしい。病名は分からなかった。夏休みの1週間前の事だった。
「手術するみたい・・」
そのうわさは、重い雰囲気で伝わって来た。夏休み直前の事だった。