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キング・ゴールド編 第五章 二大陸戦争⑥

「……皆」

 小鞠は、少し落ち着かない様子でそう言った。

 暗い洞窟内で、小鞠は自身の膝にマリアの頭を置いている。先ほどからマリアの顔は、苦しそうに歪んでいた。

 小鞠は、ハンカチで彼女の額の汗を拭く。優しく丁寧に……。どうか苦しみが和らぐようにと祈りを込めながら。しかし、汗は止まらずに流れるのみ。



「マリア、どんな夢を見ているの?」

「あ、ああ」

「マリア? あ!」

 


 マリアの瞳がカッと開く。静かな目覚めではない。体をばたつかせ、小鞠の腕を払う。

「キャアアアアアアアアア」

「マリア、落ち着いて! まさか……精神支配が強まった? ヨグルを倒すよりも先に、ヨグルの能力が強まるのが早かったってこと? ふざけんな! マリア、抗って。マリア! キャア!」



 マリアは小鞠を振りほどくと、千年龍の杖を拾いあげ、洞窟の外へ飛び出していく。

 小鞠も後を追うが、現役の次元決闘者の足に追いつくはずもなかった。

 あっという間に、小鞠を置き去りにマリアは雪原を駆けて行った。

 小鞠は、肩で息をしながらマリアの去っていった方角を悲しそうに眺めた。


 ※


 ――え? 誰かがワタクシを呼んでいる。

 マリアは周囲を見渡すが、声の主はわからない。ただ穢れのない白き雪原が広がっているのみ。

 だが、間違いなく呼ばれているのだ。

 マリアは、走り出す。



 ――ああ、先ほどから体を包むような気持ち悪さを感じる。それは、時間が経つほどに強まり、頭がぼやけていく。

「わ、ワタクシは、誰に呼ばれているの? ……ああ、そうですわ」

 脳裏に閃きがあった。

ゾルガ、そうゾルガだ。あの男は、ワタクシの大切な者だったはず。



 ゾルガが助けを求めている。助けなければ。

「きょ、強大な力が必要? 分かった。うん、分かりましたわ。やってみます、千年龍の完全召喚を」

 マリアは、千年龍の杖を構えた。

 今まで千年龍を完全召喚したことはない。



 千年前に眠りについた千年龍は、以来この世に現れたことはなく、存在だけが語られる古龍。召喚した者は世界を制す。

 マリアは、過去に召喚を試みたことがある。しかし、それは世界の王になるためではなく、ただの好奇心だった。



 ――だが、そのあどけない好奇心は間違いだったのだ。召喚に失敗し、扱いきれなくなった千年龍の力が召喚式からあふれ出し、周囲何キロもの人々に怪我を負わせてしまった。

 もうしないと誓った。

 それは、鉄よりも硬い誓いのはずだった。



 ――しかし、今はその誓いは遠き過去の亡霊にすぎない。

 マリアの心に迷いはなかった。

「あの人のために召喚を成功させなければならない。ゾルガを、ゾルガを救わないと。この恐ろしい世界から救わないと。――死、それがあの人を救う。死?」



 マリアは、一瞬だけ胸を押さえた。

 チクリとした謎の痛み。だが、そんなことを気にしている余裕はない。

 マリアは、千年龍の杖を構え、大気のマナを魔力に変換していった。


 ※


「な、何だいあれ?」

 勇敢でイカレタ老騎士の手のひらに立つカルフレアが空を指差し叫ぶ。

 金色の靄、――否、金色のドラゴンが空を優雅に飛翔している。

 そのドラゴンは、口を大きく開くと海岸に向けてブレスを吐いた。



 レーザーのような鋭いブレスだ。距離にして数十キロは離れているはずだが、それでも振動と光を感じられるほどの大爆発が水平線を染め上げた。

「そんな! 何十人、いや何百、何千人も死んだんじゃないか」

「あ、ああああ。コイツは一体何なんすか?」



 護は、ゆっくりと勇敢でイカレタ老騎士を着陸させると、苦々しく声を絞り出した。

「あ! まさか、あれが千年龍じゃ」

「そんな馬鹿な! ヨグルを倒したんだぞ。マリアちゃんは洗脳から解放されたはず」

「……いや、本当に倒したっすか?」

「どういう意味だ?」



 勇敢でイカレタ老騎士の指が、地平線の彼方を指差す。

 派手な羽ばたき音を奏でながら、巨大な蛇が遠ざかっている背中。それが、指差した先の景色だ。

「生きていたみたいっす。……海岸での戦いが激化して、憎悪が増えた。その結果、マリアさんをより強力に洗脳できるようになって、千年龍を召喚した。そんなところっすかね」



「理由はどうでも良い。嘘だろ、あれを喰らって逃げる体力があるのかよ。チイ、倒すぞ。シャーリア、悪いけどもうひと踏ん張り必要みたいだ。行くぞ、護君」

「ま、待ってくださいっす。ヨグルを倒すのは賛成っすけど、このままじゃ千年龍に皆やられてしまいます。僕は残って皆の加勢に」

「いらないと思うよ」



 カルフレアは、面白くなさそうな顔で空を指差した。 

 護が釣られて上空を見ると、ああ、と声を上げる。

 冷風が吹き荒ぶ曇天を切り裂くように、黒き流星が空を駆けていた。

 見る者を威圧する鬼の面具。血管のような赤いラインが走る漆黒の鎧。手には、巨大な魔剣が握られている。

 ソニックブームをまき散らし、音速を突破したその機体、乱神は黄金の支配者に対し、刃を振りかざした。


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