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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って⑩

「ん!」

 ヒューリは、ゾルガの一撃を刃で受け止めつつ、後方へ飛んだ。

「ほう。俺の斬撃を利用して後方へ退いたか」

「うるせぇよ。お前に褒められても嬉しくない」

 そう言いつつ、ヒューリは周囲に意識を向ける。



(何か変だ……。あ!)

 目が僅かに見開かれた。

 いつの間にか、金の粒子が漂っている。

 美しい綺羅星のような輝き。幻想的で目を奪われそうだが、胸に詰まるようなプレッシャーが油断を許さない。



「……!」

 ――背中が泡立った。

振り向きざま斬撃を浴びせる。確かな手ごたえ。眼前には、金の牙があった。

「デカい牙……。ドラゴンの牙か?」

「フ、フッハハハハ。遂に洗脳がここまで来たか」

「さっき言っていたことか」



「そうだ。――【ブラック・マインド】。ヨグルは、憎悪の力を使って対象者を洗脳することができる。いきなり洗脳はできず、初めは認識を少し狂わす程度しかできず、時間をかけないと完全洗脳できない、と言った手間があるのが難点だが、強力だ。

さあ、ヒューリ。耳を澄ませろ。マリアの力を使ってこの世界に変革が起きる」



 その言葉が皮切りであったように、黄金の粒子は輝きを増した。

 ――ああ、それは美しき脅威だ。

 奏でる音のように、次々と何もない空間から牙が生じ、ヒューリへ襲い掛かってくる。



「クソ。なんだよこれ!」

「マリア、やめなさい。あなた一体何をしているの? あれはヒューリよ。あなたの仲間なの」

「マリア? あいつが。うあ! やめろお」

 攻撃の予兆はない。突如生じて、次の瞬間には消失している。

こんなものに予想は意味をなさない。ただ、生存本能を頼りに、攻撃を躱す。……長くは持たないだろう。



 ヒューリは、脳をフル回転させた。現状の状況で、取るべき最善の一手は何か?

 しかし、ゾルガの恐るべき一撃は思考を許さない。

「うっぜえ!」

 真横からの一撃を空中で身を捻り回避したヒューリ。黄金の牙は、そんな彼の左わき腹を抉る。



「ぐああ!」

「ヒューリ」

「来るな。少し肉が抉れただけだ。全然動けるって」

「そうか。ならば、これで終いだ」

「ッ!」



 ヒューリの顔に影が覆いかぶさった。見上げれば、鉄の塊がぎらついている。――逃げろ、躱せ。あれに触れれば、ひき肉になって屍を晒すことになる。

 ヒューリは、業魔を掲げつつ、体を半身にしていく。しかし、相手の斬撃のほうが速い。

 ――間に、合わない。

「ぬう!」

 激しく床が揺れたおかげで、斬撃はヒューリの顔側面と肩を掠めただけだ。

 全身を叩きつけるような咆哮。壁が壊れるような音。そして、夜空には赤くたぎる焔をまき散らす飛竜の大群がいた。



「あれは、ゴールドブレスの。……いや、違うな。下で拷問していたドラゴンどもか」

 自らが壁や床を破壊したことで顕わになった空を、ゾルガは目を細めて眺めている。

 ヒューリは、その一瞬の隙を突いて駆けた。

「貴様!」

「これでも喰らっとけ」

 追いすがろうとするゾルガに、ヒューリは腰の袋に入っていた七個の手榴弾を投げつける。ゾルガが大剣を構えた瞬間、七つの爆発が煌めいた。



「小鞠、どけ! 急いで逃げるぞ」

「でも、マリアのこの状態をどうにかしないと」

「クッソ!」

 ヒューリは、マリアの鎖を断ち切ると、彼女の胸倉を掴んだ。

「テメェ! こんなしょっぱい洗脳に負けてんじゃねえよ」

「ゾルガ、を守らないと」

「違う!」



 ヒューリは、彼女の額に頭突きをかました。

「お前が守らなきゃならないのは、会社と小鞠だろ。これで良いのか? お前は小鞠みたいになりたいんだろうが。いつもうるさく言ってるくせに忘れんなよ」

「わ、ワタクシ、は」

「お前は次元決闘者! お姫様じゃない。エンターテイナーで、戦士だろう。そんな大事なことを忘れるなんて、殺すぞテメェ!」

「ハ! こ、殺す。……ふざ、けんなですわ。馬鹿、ヒューリ」



 マリアは、がっくりと意識を失った。それと同時に、金の粒子は消失する。

 ヒューリは、小鞠とマリアを抱え、その場からの離脱を図った。


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