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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って⑧

「あ!」

 遺跡の屋上に伏せていたカルフレアが、赤熱城を指差した。

 時刻は深夜。人もドラゴンも寝静まった時間に、何を指差すことがあるのだろうか。

 しかし、ヒューリ、カルフレア、小鞠の三人は、何か楽しいことでもあったかのように無邪気な笑いをみせた。



 闇夜に紛れ、足音をなるべく立てず、彼らは街を駆け抜けていく。

 静けさの街は、闇が染みるように蔓延り、夜空に浮かぶ月が美しい。

 月光を浴びて彼らの影は踊るように、影法師を地面に投射する。

 風もない街で、一陣の風の如く走った彼らは警備をスルリと抜けて、赤熱城の中へ潜入した。



「よくぞご無事で」

 護が安堵したように笑う。

「バッカ野郎。それはこっちのセリフなんだよ」

 ヒューリは、ホッとした様子で彼の肩を殴った。

 小鞠が心配した様子で護に駆け寄り、お腹や肩などに触れる。



「大丈夫? どこも怪我してない?」

「くすぐったいっすよ。大丈夫っす。ちょっと髪の先端が焦げたくらいで」

「ほんとかね。いくら君が混血とはいえ、マグマが流れる地下水路を通ってくるとかやばいって」

「お気遣いありがとうございます、カルフレア先輩。でも、あの水路はリフォームされていたみたいで、意外と歩きやすかったっす。マグマが通る道の横は、ちょっとした道がありましたから」

「整備用ね。盲点だったわ」



 護が手引きした場所は、城の二階部分にある空き部屋だ。

 警備が薄い場所がそこだったらしく、人気はまるでない。

 赤熱城の中は、城と言うわりには豪奢な装飾が全くと言ってよいほどなく、赤いレンガの壁が剥き出しのままであった。

 寒々しい場所は、ホコリに包まれており、少し油断すると盛大にクシャミをしそうだ。



「まったくなんて場所。汚れても良い服できてよかった」

 小鞠は着物ではなく、マントの下に革鎧を着込んでいる。赤熱城の下級兵士の格好だ。ヒューリ達も、それぞれ同じような恰好をチョイスしていた。

「じゃあ、行くぞ。場所の目星はついてるのか?」

「うーん。はっきりしたことは何も。ですが、上階にいる可能性が高いと思います。地下と一階は、鎖に繋がれた火のドラゴンが何匹もいました。囚人、何でしょうか? どうやらマグマの管理は彼らがやっているみたいですね。あの獄炎のさなか、マリアさんがいるとは思えないっす」



「火竜が何匹も……。よく見つからなかったわね」

「ハハ、そりゃー、ヒューリ先輩に鍛えられましたから。前に潜入した時、騒がしくしちゃったの音に持ってるみたいで」

 遠い目をする護。小鞠が優しく肩を叩いた。

「いや、わからんよ。考えたくないが、マリアちゃんを拷問するつもりなら、わざと地下や一階に捕えておくかも。彼女を傀儡にしたいなら、護君も辛いと感じる極熱エリアが適しているかもだ」

 ヒューリが睨みつけた。



「嫌なこと言うなよ」

「可能性の話さ。奴さん方の考えが読めない以上、あらゆる可能性を考慮した方が良い。だってよ、あのゾルガって男。マリアちゃんと結婚したいんだろ。意味不明だよ」

 小鞠は、人差し指で唇をなぞった。



「……行動が読めないって点は同感ね。拉致しておきながら、マリアと結婚しますって、虫が良すぎ。それに、無事に彼女の同意が得られたら、お宅の国と和平交渉するから国へお帰りくださいってふざけた言い分で、あのドラゴンナイトを逃がしたのよね」

 護が、瞳を左右に揺らした。

「本気、何ですかね?」

 気持ちの悪い沈黙が満ちる。

 誰の目にも困惑の色が見えた。答えは見つからず、カルフレアは首を激しく振って注目を集める。



「やめだやめだ。詳しくはマリアちゃんを救出してからだ。いつまでもこんなとこいたくないから効率重視で二手に分かれよう。俺と護君が地下と一階。社長とヒューリが上階だ」

「ええ、了解したわ。上も下も危険が待ち受けているのは間違いないでしょう。何かあったらすぐに報せて。緊急時には命を最優先して頂戴。皆、頼んだわよ」

 全員が頷く。暗闇の中、敵を避けつつ、ヒューリ達は進まねばならない。

(小鞠を連れてか。コイツ、マリアのとこ行くってきかなかったからな。まったく)

 ヒューリは、喉がカラカラに乾燥するのを感じながら、小鞠の手を握りしめた。


 ※


「報告」

 突如、王の間に飛び込んできた兵士は騒々しく敬礼した。

 王の間とは、マリアが囚われているあの何もない広場のことだ。兵士は、ヘルムの隙間からチラリとマリアを見て、それからゾルガに視線を移した。



「何事だ?」

 ゾルガは、感情の宿らぬ冷酷な瞳で兵士を一瞥する。

 ふつうの人間ならば、そんな瞳で見つめられれば、震えあがりそうなものだが、兵士は慣れているのか淡々と報告する。

 ゾルガは、僅かに眉を動かした。

「敵がこの城に侵入した痕跡が発見されました」

「敵? ……ゴールドブレスの者がもう来たか。いや、それとも」

 ゾルガは、広場の中央で鎖に繋がれたマリアに視線を寄こした。

 彼女は、苦しそうに呻いている。目の焦点は合っておらず、普段の活発な彼女の姿はここにはなかった。



「ゾルガ様?」

「いや、気にするな。侵入者とやらは、恐らくだがマリアが所属する闘技プロデュース社だろう」

「と、闘技プロデュース社っていうのは、その、次元決闘とかいう見世物の関係会社ですか?」

「ああ、そうだとも。ただの興行屋風情が、城に乗り込んでくるなぞ普通ならばあり得んが、よほど大事な部下なのだろう。丁重にもてなしてやらんとな」

 ゾルガは、地面に突き刺してあった大剣を引き抜いた。

 兵士は、慌てふためいた様子になる。



「ゾルガ様、自ら動くおつもりですか?」

「ああ。次元決闘者は、人殺しを生業にしていないとはいえ、戦闘能力が高い者が多いからな。俺が相手をせねば。それに、あいつらは死に物狂いで来るだろうから、なおのこと油断できぬ」

「そ、そんなに警戒するほどですか? ゾルガ様であれば、一瞬で屠れる相手でしょうに」

「フフ、死に物狂いとなった者は、想像を超える力を持つ。油断するなぞうつけ者のすることだ」



 ゾルガは、兵士に背を向けた。

「おい、お前。侵入者に伝えよ。貴様らの大切なマリアを救いたくば、一日でも早く救出しろ。でなければ、マリアは我が協力者ヨグルの忌まわしき力によって生きる傀儡となるぞ、とな」

「生きる傀儡ですか?」

「そうだ。……何をしている。わざと隙を見せているのだ。早く攻撃せんか!」

「ッ!」

 ゾルガの鋭い言葉が、室内に残響する。

 兵士はゾルガに駆け寄ると、あろうことか拳を叩きこんだ。



「クッソ」

「甘いな。打撃で殺すつもりならば、もっと鋭く踏み込まんと」

 兵士の拳は、ゾルガの大きな手に阻まれている。

「ヒューリ、刀よ」

 王の間に飛び込んできた小鞠が、兵士、もといヒューリに業魔を投げてよこした。ヒューリは、後ろに手を伸ばして業魔を手に取ると、ゾルガを斬りつけ距離を取った。



「おっと、危ない。ああ、採点をしてやろう。六十点と言ったところだな。アイデアは悪くないが、演技力がイマイチだ。ここの兵士は、俺を恐れてあんなに堂々とはしてられんのだ」

「ああ、そうかい。次があったら頑張ってみるぜ。小鞠、マリアをどうにかしろ。俺がコイツの相手をする」

「ええ、ぶっ飛ばしてね」

 小鞠がサムズアップでそう言い残し、マリアへ駆け寄った。

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべたヒューリは、刀を構え猛然と斬りかかる。


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