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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って⑦

 ガヤガヤと騒がしい雑踏。ここはカーヴァの首都ワーダクだ。ダークエルフや鬼人、ドワーフ、リザードマン、悪龍など、様々な種族が往来を闊歩している。

 ワーダクは、極寒の大地に立つ真新しい街。いや、街というより遺跡と呼ぶほうがしっくりとくる。

 北方のニーファは、南方のキーアムと違って長らく戦乱が続いた大地だ。



 ゾルガとヨルガによってわずか一年ばかりで興った国であるカーヴァに、都市を創る力はなかったのだろう。所々壊れた石造りの遺跡をリフォームし、何とか住める場所にした。……それが、ワーダクの姿だ。

 とはいえ、一年で混沌とした戦場を、街に仕立て上げたゾルガの手腕は、なかなかに評価できるだろう。



 街は蒸気に包まれ、意外にも暖かい。

 ヒューリ達は、先ほどの亜人達からひったくった衣類で身を包み、顔は能面の仮面で隠している。

 街の人々は、人の殺し方や武勇伝を話すばかりで、誰もヒューリ達に気を止めない。



「案外、簡単に潜入できるもんだな」

「ほんと、そっすね、ヒューリ先輩。でも、物騒な人達が多いみたいなんで、怖いっすよ」

「おしゃべりは禁物。そこ左折して」

 遺跡と遺跡の間にある路地に移動し、周囲に人の気配がないことを確認して小鞠は足を止めた。

「さて、状況を整理しましょう。現状、奇怪極まるといったところかしら」



 カルフレアが、ため息交じりに笑う。

「そうだねー。結局、やっこさんたちが、ドラゴンナイトを逃した理由が「戦争の勃発を防ぐため」だなんて、たわけた話だし。下っ端だから大した情報を引き出せなかった。……ん、命じたのはゾルガだとして、敵国の姫を攫って戦争のきっかけを作った。そのくせ、戦いをする気配がない。それはもう、ゾルガ達上層部だけの話ではなく、国民皆の総意らしい」



 カルフレアが、通りを顎で指す。騒がしく話している内容はろくでもないが、人々は楽しそうな様子で歩いている。その姿に、緊張感は欠片も感じられない。

 護は、こじんまりと小声で話す。



「別の目的があるんでしょうか?」

「きっとね。それを掴むのも大事だけど、まずはマリアを救出しましょう。幸い場所の目星はついてるわ。……ほら、あそこ」



 小鞠は、外壁の穴越しに見える赤い建物を眺めた。

 この街の中央には、真っ赤な円形の塔がある。それが、ゾルガの居城【赤熱城】だ。

 茶色と黒の建物が多いワーダクに立つ赤熱城は、悪趣味に目立っている。

「どうにか潜入できればいいけど。警備は厳重だろうし、厳しいわね」

「……んー、そうっすね。でも、ここなら」



 護は、巻物を操作している。ディメンション・スマイル製の妖力能力者向けデバイスは、次々と都市の俯瞰情報を表示した。これはゴールドブレスを出る前に国王から共有された情報だ。

 護の人差し指がピタリと止まる。そこには、網のように狭い道が広がっている俯瞰図が表示されていた。



「これは水路かしら?」

「はい。国王が下さった情報は随分と古いものなので、どこまで参考になるか分からないですけど……この水路まだ生きてるなら使えます。城まで伸びてるっすから」

 ヒューリは、胡散臭そうに目を細めた。

「どこまで当てになるんだよ。だいたい何で敵国の情報を国王が持ってんだ? カーヴァが出来てから、いやカーヴァが出来る前から北方のニーファは、南方のキーアムと仲が悪くてロクに交流してなかったって話だろう」



「んー、たぶんすけど……北と南に分かれて完全に仲が悪くなる前の情報じゃないっすかね。ダヴァリア朝って書いてあるんで、ニーファに大昔栄えた文明かもっす」

 カルフレアが、白い歯を見せて笑った。

「おいおい、それって何千年前の話なんだい? ニーファは長らく国が出来なかった無法地帯だったんだろう。そんな古い遺跡の水路なんて、壊れてるって」

「……そっすよね。でも、カルフレア先輩。他に当てがありません。調査してみてから考えても良いんじゃないっすか?」



 小鞠は頷く。

「そうね。どちらにせよ、私たちには時間がない。可能性は全部探る。――さあ、調査開始よ」

 きびきびと命じられた調査。しかし、五分も持たずに調査は中止となった。理由は、赤熱したマンホールを見つけたからだ。

 道には薄くだが雪が降り積もっている。だが、そのマンホールの周囲だけは雪の侵食を阻んでいた。



「蒸気? ここだけ異常に熱い」

「何度あんだよ? 人通りが少ない裏路地とはいえ、人が通る所にこれは危ないだろ」

「いーや。この街じゃそうでもねーかもよ、できの悪い後輩君。亜人は、人型ではあるけども、凄まじい肉体強度を持つ。ほら、護君。試しにマンホールに触れてみな」

「え! は、はい」



 この真っ赤なマンホールのふたに卵を落とせば、一瞬で卵焼きを通り過ぎて焦げてしまうだろう。護は少しだけ躊躇し、ふたに手を触れた。ジュッと音が鳴るが、彼は涼しい顔でふたを撫でている。

「な? 鬼との混血である護君なら平気なのさ」

「ここ、水路の上にありますね」

「……水じゃない。一体何が流れてるの」

「確かめてみます。社長、皆さんちょっと離れていてくださいっす」



 護は不自然にキョロキョロと周囲を見渡し、それから蓋を開けた。

「う!」

 ヒューリは思わずのけ反った。離れていたが、それでもマンホールから吹き出す熱気に顔をしかめずにはいられない。

 護は、穴を覗き込んで唇を困ったように歪ませた。

「なん……で? 水路に沿って水じゃなくてマグマが流れてます」

「ハア?」

 と、ヒューリとカルフレアの声が重なった。



 小鞠は、仮面を少しだけずらし、好奇の目でマグマを眺める。

「フーン、面白いじゃない。古い水路を利用して、暖を取ってるわけか。豪雪地帯の割には雪があまり積もっていないと思っていたのよ」

「なるほど。街の霧は、マグマで温められて蒸発した雪だったわけですね」

「そりゃすげぇ。でもよ、これで水路から潜入する作戦は失敗だな」

「……いや、そうでもないっすよ」

 護は決意を秘めた瞳でヒューリ達を見た。

「僕に考えがあるっす」


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