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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って⑥

(へえ)

 ヒューリは、内心拍手を送った。

 ドラゴンナイトの戦いぶりは、作り込まれたガラス細工のように精密だ。敵の猛撃を軽やかに躱し、相棒のドラゴンと一緒に槍で攻撃を加える。

 戦局はドラゴンナイトが優勢であった。悪龍は血を流し、徐々に体力が失われていく。



(もう数秒で終わりか?)

 そう思った矢先、砲撃が吹雪を切り裂きながらドラゴンナイトに直撃した。

 空気が振るえ、激しく風が息巻く。

 落下するドラゴンナイト。悪龍を救ったのは、亜人だ。

 鎧を着た八人のダークエルフやリザードマンが、五メートルほどの大砲で撃ち落としたのだ。



「あんなトロそうな大砲で、空を飛んでるドラゴンに当てたってのか?」

 小声でインカムに呟いたヒューリ。カルフレアが、不機嫌そうに舌打ちした。

「あれは呪砲だ。生き物のマナを抽出し、追尾性の魔法弾に変換し発射する。……やーなもん見ちまったな」

「なんかヤバそうな響きっすね。でも、マナを抽出しているだけなんでしょ?」

「……あれは兵器としての性能は優秀だが、マナの抽出システムに難点があってね。ぶっさすんだ。体に直接太い針を。そして、安全装置なんかないから一瞬でマナを吸いつくす。あの威力だと、小型ドラゴンくらいの命は使ったんじゃないかな。ほら、足元」



 ドラム缶を台座に乗せたような兵器は、吹雪の中でも黒く輝いている。その兵器のすぐそばに二メートルほどのドラゴンが横たわっていた。

「何それ! 死刑と一緒じゃない」

 震える小鞠の声。



 ヒューリは、彼女の肩を抱きしめながら、事の成り行きを眺める。

 ドラゴンナイトは生きていた。だが、息も絶え絶えの様子。亜人と悪龍が騎士を包囲する。

 間違いなく、あの騎士は殺されるだろう。助けなければならない。だが、いつ?



 そんな葛藤をしていたヒューリの目が見開かれる。

 亜人たちが何かを喋っている。騎士は驚いた様子で激しく頷くと、怪我をしているドラゴンを手当てし、どこかへ去っていった。

 空へ旅立つドラゴンナイトに、敵は攻撃をすることなく見送っている。

 あっけに取られ、身動きができないでいるヒューリたち。



 ハッとした様子で、小鞠が命じた。

「皆、亜人と悪龍が去っちゃうわ。捕まえて事情を聞きましょう。増援を呼ばれたり、ましてやゾルガの耳に入ったらまずいから。速攻、即殺でよろしく」

「殺すのはまずいだろ」

「社長のジョークって怖いっす」

「クク、小鞠ちゃんは気が強いのが玉に瑕だね」



 ヒューリは業魔の柄に手をかけた。

「カルフレア、あの気持ち悪い兵器を壊せ。護は妖力でスノボを作ってくれ。俺は空飛んでるドラゴンを何とかする」

「了解っす」

「はいはい。しっかりやれよ」

 ヒューリは頷き、敵を見据えた。八人の亜人と悪龍は、いまだこちらに気付いていない。

 護が手をかざすと、彼の妖力が圧縮され、銀色のスノーボードが作られた。



「先輩」

「おう」

 護からスノーボードを受け取ると、ヒューリは調子を確かめる。

「良い感じだ。よっし、行くぜ」

 ヒューリは、雪原へ飛び出す。

 スノーボードを巧みに動かし、白銀の世界に線を引いて行く。

 接近に気付いたダークエルフが、魔法を放つ。光弾は、雪を溶かしヒューリへ殺到したが、彼は業魔であっさりと弾いた。



「何! うわ」

 銃声が計十発鳴った。

 二発が呪砲の操作パネルを破壊し、八発が亜人達の太ももを穿つ。彼らの瞳は、信じられないと語っていた。

 無理もないだろう。縦横無尽に風が吹いているのだ。こんな中で、風の影響を計算に入れ、正確に狙った場所に当てるなど、人間業ではない。



「チィ、俺も負けてられないな」

「あ、ヒューリ先輩危ないっす」

「!」

 悪龍が息を吸い込みブレスを吐きだした。

 ヒューリに、獄炎の海原が無慈悲に迫る。

 ヒューリは体を捻り、スノーボードの裏面を盾のように突き出した。焔はボードに触れた瞬間、左右に分たれる。足裏に感じる熱さに、喉が干上がった。



 小鞠はありったけの声で叫んだ。

「まずい。シャーリア、カルフレア」

「ったくぅ。世話が焼ける。シャーリア、合わせろ。【風は荒れ狂う。通り過ぎた後、人は暴力の意味を知る。トーネード・ブラスト】 

 カルフレアが巻き起こした竜巻が、シャーリアを飲み込み、凄まじい速度で空を間引く。

「!」

 ヒューリの眼前に躍り出た竜巻が、炎をまき散らしていく。さらにシャーリアが、風の魔法を追加で発動させた。

「ありがたい」



 完全に効力を失ったブレス。悪龍が、荒々しく鼻息を吐いた。

「背中、借りるぜ」

 ボードから降りたヒューリは、シャーリアの背中を蹴り、宙へ躍り出る。

「業魔、お前の神髄を見せてやろうぜ。【放浪永礼流 奥義の型 流星の斬】」

 一瞬で三十メートルの巨刀に変貌した魔剣。ヒューリは落下しつつ、それを振り下ろした。悪龍は、その巨体をもってこれまで強者として君臨していたのだろう。だが、ただいまを持って、驕りと決別しなければならない。



 圧倒的質量が、悪龍の巨体にぶつかり、無慈悲に地へ叩きつける。

 轟音、舞う雪。小鞠たちは、姿勢を低くして揺れる大地の猛威に耐えた。

「よっし、完了っと」

 ヒューリは地に降り立つと、ダークエルフの一人に刃を向けた。

「抵抗するなよ。その怪我じゃ、まともに動けないぜ」

「貴様ら、ここが偉大なる大地と知っての狼藉か」

「偉大な? 女一人攫うクズが住まうゴミだろ?」



「おのれ!」

「おっと、動くなって。詳しく教えてもらおうか。お前らの大将は何が目的だ? さっき何でドラゴンナイトを逃がした」

 ダークエルフは、そっぽを向いて無視を決め込む。ヒューリが苛立って、近づこうとした。……が、いつの間にか近寄っていた小鞠の動きのほうが速かった。

「ねえ、早く答えなさい。あんまり舐めてると、死ぬわよ?」

 ヒューリから業魔をひったくった小鞠は、冷酷な瞳で睨みつけた。

 震えあがるダークエルフ。ヒューリはそっと距離を取った。


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