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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って⑤

「ヒューリ、起きて!」

「うん?」

「そろそろ到着するわよ」

「お、おお……」



 小鞠に激しく揺さぶられ、ヒューリは目を覚ます。

 ぼやけた意識のままモニターを眺める。巨大な大陸、それと赤い点滅が表示されていた。赤い点滅は、大陸の南側付近に近づいていることを激しく自己主張している。

「なるほど。現在地は、ニーファの近く。ここまで敵に見つからずに済んだわけだ。……時刻は二時。遅い時間だが、見張りの兵士くらいいるだろう。どうやって潜入したもんか」

「光学迷彩でもあれば良いけどこの機体にはないわね。……仕方ない」



 小鞠は、着物の袖口から丸い金属の塊を数個取り出し、それから護たちと通信をつないだ。

「皆起きてる。特にシャーリア、起きてるかしら?」

 甲高い鳴き声が通信越しに聞こえ、小鞠はニンマリと笑った。

「先ほど小型のナノマシンを散布して周囲数㎞の様子を探ったわ。その結果、敵性勢力と思われる兵士・ドラゴンが見つかった。護、映像を送るから皆で見て」

 小鞠は、画面を切り替える。映し出されるは、鎧を身に纏った複数の兵士とドラゴン。彼らは緊張した面持ちで、周囲を見渡している。



「うわ、こんなにたくさん……」

「やばいねー。こりゃ、上陸できねえな」

「諦めるのが早いわよカルフレア。大丈夫、ちゃんと考えはあるわ。時にカルフレア。あなた、悪戯は得意?」

「え、悪戯? へへ、小鞠ちゃん、一体何の悪だくみをしてるのかな? お兄さんに教えてよー」

「フフ、それはね」



 ――その数十分後、海岸から凄まじい爆発音が聞こえ、兵士がそこに集中した。

 乱神は、その隙をついて上陸。ソニックブームを発生させるほどの速度で飛翔しつつ、カーヴァの首都【ワーダク】を目指す。

 それから数日は森に隠れつつ、高速移動を繰り返した。

 しばらくはそれで乗り切れたが、カーヴァから数十キロの地点に近づいた頃、見張りの兵士の数があまりにも多くなってきたため、乱神での移動が難しくなった。

 ヒューリたちは機体を森に隠し、徒歩での移動に切り替える。



「なんて光景……」

 森を脱した小鞠は、呆然とそう呟いた。

 一面吹雪荒れ狂う大地、絶えず雷鳴は鳴り響く。ここに命の気配はなく、自然の厳しさだけが五感を通じてヒシヒシと感じられた。

 ヒューリたちは、防寒具の上から白いマントを着ていたが、それでも骨身に染みる寒さを防ぎきれない。

 北方のニーファは、南方のキーアムよりもずっと気温が低い土地だ。予想していたとはいえ、これはいささか予想外であった。



「方角は?」

「ここから北東に進めば良いわ」

「は、はっくしょん」

「おいおい護君。風邪引くなよ。ここは敵地なんだから看病してる余裕ないぜ? なあ、シャーリア」

「クェエエエエエエ」

「なんて言ってるんだ?」

「ヒューリうぜーってさ」

「嘘つけ! 絶対俺関係ないだろ」

 ヒューリとカルフレアが取っ組み合いを始めた。

 残りの面々は、呆れたような、ある意味尊敬するような瞳で二人を眺める。



「はいはい。ここからは雪に紛れてワーダクへ向かうわよ。敵に見つかったらやばいんだから……」

「怒られただろうが。おい、お前、さっきから感じわりぃーんだよ」

「ハア? そりゃお前さんだろ。緊張してんのか知らんけど、塩対応すぎんだよ。だから仕返しさ」

「はああ?」

「……だから」



 あ、と護は顔を背けた。

 小鞠は雪に足を取られつつ、二人に接近すると、

「黙れって言ってんでしょがああ!」

「あああああああああ」

「があああああいってえええ」

 こめかみに拳を遠慮なく叩きこんだ。

「クエ」

 シャーリアが、納得したように頷く。

男二人は、地へ無様に転がった。


 ※


 カーヴァの首都ワーダクの距離は、残り数キロを残すところとなった。しかし、行く手を阻む吹雪がヒューリ達の体力を確実に奪っていく。

 小鞠は、シャーリアの背中に跨り体力の消耗を抑える。だが、それでも闘技者ではない彼女は、辛そうに息を吸っては吐いてを繰り返していた。



「風が少し収まってきたな。……おい、大丈夫か? そろそろ休憩を入れた方が」

「いらない。一刻も早く、マリアの下に向かわなきゃ。あの子のほうが辛い。――知ってる? あの子って、普通の女の子なのよ。意地っ張りで偉そうだけど、実は誰よりも自分に自信がなくて……。フフ、あんなに凄い魔法を使えるのにね。……きっと、寂しがってる。だから、一刻も早く傍に行って、大丈夫って声をかけてあげるの」



「……そうかよ。そうだな。お前が行けば、力強いだろう。しっかし、あの王様も何考えてんだか」

「ほんと、そっすよね」

 隊の先頭に立ち、風よけを買って出た護は何度も頷く。インカム越しに聞こえる声は、風のノイズが混じり騒がしい。

「自分たちの代わりにマリアさんを救出してくれって。自分たちは行かないんでしょうか。ねえ、カルフレア先輩」



「そこは、大人の事情って奴だろうさ、護君。俺達は、たぶんだけど陽動だ。別動隊を派遣してるかもしれないな。俺達のように目立つ存在が活動すれば、敵さんは俺達に注目する。その隙に、別動隊が救出ってところかね。ま、マリア奪還は戦争における勝利の最低条件だ。王様も手段を選んでらんないんだろ」

「せ、戦争っすか」

 カタカタと震える護。きっと、それは寒さのせいではない。

 カルフレアは、周囲にさりげなく視線を走らせつつ続きを話した。



「間違いなくこのままじゃ戦争は起きる。戦力はゴールドブレスが多いが、初めから戦争する気満々だったカーヴァの方が準備満タンって点で有利だな」

「え? 確かに言われてみればそうかもしれませんが、変っすね」

「変って?」

「ええ、社長。カーヴァが戦争をするつもりだっていうなら、マリアさんを攫った時点で破壊工作なり、速攻で軍を派遣するなりするのが戦略ってもんじゃないですか? 準備が整っていないゴールドブレスを攻めず、宣戦布告をするわけでもなく、マリアさんを攫って静観を決め込む。何がしたいんでしょうか?」



 全員口をつぐんだ。

 皆、マリア救出で頭がいっぱいだったが、心の片隅では疑問に感じていたのだろう。

 カルフレアは沈黙を嫌うように、矢継ぎ早に言葉を繰り出す。

「まあ、ともかく。戦争が始まるかもしれないこの状態じゃあさ、マリアちゃんを人質に取られているままだと、ゴールドブレスはかなり不利だよね。というか、まともに戦いにならないかもしれない」

「そうかもしれないっすね。あ、知ってました? マリアさん、国民人気高いらしいっすよ」



 ヒューリは、白い息を激しく吐いた。

「嘘くさ。あんなやかましい女が人気だって?」

「いやいや、出発前に兵士の人から聞いたから間違いないっす。国の人、皆心配してるっすよ」

 そうね、と小鞠は護の言葉を引き継いだ。



「国民人気が高いってのもあるけど、そもそもマリアはあの国にとって絶対に失えない存在なのよ。マリアには兄弟がいない、一人っ子よ。ゴールドブレスには、独自の王位継承ルールがあってね。

王の子供が男子の場合はその子が王様になるんだけど、女子しかいない場合は話が違ってくる。国を守れるほど強い男性を王が見出し、その男と結婚させる。それによって、ゴールドブレスは、強者の国としていつまでも栄え続けるって話よ」



 ヒューリは、面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「へ、結局お国の都合であいつは望まない相手と結婚させられるってわけか。親が偉いと、そいつらの都合で子供は迷惑するんだ。ああ、嫌だ嫌だ」

「ヒューリ……」

 小鞠は、気づかわし気にヒューリへ手を伸ばした。

 ――しかし、その手をヒューリはがっしりと掴んだ。

「へ? ちょ、いつもより大胆。こんなところで襲っちゃうの?」

「馬鹿野郎、そうじゃねえ。皆、しゃがめ。雪に潜るんだ。カルフレア、グリフォンに白い布を被せとけ」



 バッと全員がしゃがみ込んだ。

 白いマントが風景と一体化する。

 ――ああ、このマントを着てて良かったぜ、とヒューリは息を吐いた。

 まず、起きた変化は激しい音。次いで生じた変化は、吹雪を蹴散らす戦いの風景だ。ドラゴンに跨った人間と悪龍が、槍と牙で火花を散らしている。



 ヒューリは、マントの隙間から戦いの様子を観察した。

(……ドラゴンに乗った奴は、凄い腕前だな。巧みにドラゴンと連携して、悪龍を攻撃してやがる。ん? ってことは、あれはゴールドブレスのドラゴンナイトか)

 鎧を着ていないが、きびきびとした動きはどことなく気品さを感じさせる。

 一方、悪龍ダークブラウンドラゴンは、獰猛さを剥き出しに、爪と牙を振るう。


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