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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って③

 ――母なる海アイラフ。

 そこは、生命誕生の龍アイラフが住まう海と伝えられる。しかし、慈愛に満ちていそうな名と異なり、そこは荒波が暴れまわる危険地帯だ。鋼鉄の船さえ容易に飲み込まれる。



 キング・ゴールドに住まう人々は、安全な浅瀬で漁をするばかりで、基本的に海へ遠出をすることはない。漁は人間よりも体の頑丈なドラゴンがするものなのだ。

 だが、いくら頑丈と言えど最も波が荒れ狂うとされる「狂乱のアイラフ(十一月のこと)」になれば、漁を控えるのが常だ。



 空に二匹のドラゴンが泳いでいる。その二匹は、優雅に羽を羽ばたかせながら、眼下で暴れまわり全てを塵と化す荒波を見て青ざめた。

「おいおい。今年は特にヤベーな」

「ほんとだよ。あわよくば漁ができるかもって期待したけど、やっぱ無理だわ」

「そうそう。ん!」

「どうしたん?」

「い、いや……」



 緑のドラゴンは、目を閉じたり開いたりした。

 青いドラゴンが、ポーチからドラゴン用の目薬を取り出す。

「目が痛いの?」

「違う。そうじゃなくて……今、海底に人型の物体が見えた気がしたんだけど」

「え、まさか? ドラゴンだって死ぬのに、人じゃ形さえ保てないよ」

「そう、だよね。気のせいかな。救出しなきゃってあせちゃったよ」

「馬鹿だなー。こんな荒波で救出に行ったら、仲良くアイラフに食われちゃうよ」

「だよねー」



 二匹のドラゴンは、翼をはためかせ去っていった。

 しかし、彼らは知らなかったのだ。――海中には、銀の鎧をまとった黒武者がいることに。

 

 ※


「進路クリア。……このまましばらく前進」

 小鞠は通信を切ると、ヒューリにもたれかかった。彼女はヒューリの膝に腰掛けている。ここは乱神のコックピットだ。一人用の狭いスペースに、二人の男女が強引に居座っている。

 小鞠が身じろぎをするたび、彼女の空に溶けるような麗しい青髪がサラリと動く。甘い鼻の蜜のような香りが、ヒューリの鼻を優しく掠めた。

 ヒューリは、気まずそうに咳払いをひとつする。



「な、なあ。あいつらは大丈夫なのか?」

 あいつらとは、護、カルフレア、シャーリアのことである。彼らは外にいる。正確に言えば、護の武装の一つである追加アーマー(巨大アーマー)に設けられた部屋にいるのだ。

 小鞠は、居心地よさそうに目を閉じながら答えた。



「大丈夫よ。護のアーマーに増設した部屋は割と広めだから」

「部屋ってなんで設けたんだ? や、あのよ。前に使った合体あるじゃねーか。ほら、乱神に護の追加アーマーを組み合わせるヤツ。あれだったらコックピットが広くなるだろ」

 ああ、と小鞠は頷いた。

「大人の事情ってところね。ファンタズム・フュージョンは、まだ未完成の状態なの。正直、安全面で不安が残っているから今回は、封印しておいた。

 まあ、でも。今の状態でも通常時より強いわ。乱神にただ護の追加アーマーを被せただけだけど、防御力は上がってる」



「フーン、それはすごいな。……しっかし、大胆だな。海に潜って行こうなんてよ」

「フフン、天才って呼んでほしいわね。アイラフの中央付近は、確かに海が絶えず荒れ狂ってるわ。空は晴れ渡っているのに、海だけが異常なほど荒れ狂ってる景色ってアンバランスね。

 なんでこんな現象が起きるのか、その解明は専門家にでも任せておくとして。……ともかく、空から向かえば、相手にどうぞ見つけてくださいって言っているようなもの。迎撃されるでしょうね。でも、海からであれば、相手も油断するでしょう」



「まあな。でも、機体は持つのか?」

 ギシギシ、と先ほどから不安な音が機体の各所から鳴り響いている。

 厳しい表情のヒューリに、小鞠は柔らかな笑みを投げた。

「大丈夫。ちゃんと計算したから。海は荒れてるって言ってもね、深く潜ってしまえば高波の影響は受けない。

 この乱神ならある程度の水圧に耐えられるし、潜水艦の代わりくらい朝飯前よ」

 なるほどな、とヒューリは目を丸くした。

 潜水艦は、アースをはじめ科学力が発展した世界には存在する。しかし、キング・ゴールドのように魔法で栄えた世界に潜水艦はない。鉄の船が潜るっていう発想自体が生じにくいのだろう。



「……この速度なら数日で到着するわね」

 小鞠の発言に、ヒューリはハッとした。

「待てよ。数日かかるってことは、しばらくコックピットで暮らすことになるのか。トイレはどうする?」

 乱神のコックピットには、トイレが設置されている。数分~数十分ほど戦えれば良いギアにそのような機能は不要だが、移動手段として乱神を用いることもあるため、小鞠が取り付けるように命じたのであった。



「どうするって、しちゃえばいいじゃない。私とあなたの仲だし、見られても問題ないでしょ?」

「うそ……だろ。普通、気にするもんだ。お前、イカレてやがる」

 小鞠は、なぜか得意げに胸を張った。

「そう。私はあなたにイカレてるの」

「……トイレする時は、耳栓と目隠ししようぜ。曲も大音量で流しとくわ」

「恥ずかしがってるの? 大丈夫。私だったらあなたの汚いところも全部愛せる」

「愛が重すぎんだよぉおおお」

 絶叫は虚しくコックピット内で響いた。


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