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キング・ゴールド編 第三章 マリアを追って①

「ハ!」

 ヒューリは、目を覚ます。茶色い天井。ああ、宿屋か、とすぐに理解する。

上半身を起こし、手のひらを閉じたり開いたりした。気分は優れないが、体の調子は良いようだ。

「起きたのね、ヒューリ」



 ドアを開けて入ってきた小鞠は、ヒューリの横に腰掛けると水差しを手に取った。

「飲ませてあげる」

「ああ、ありがとう。って、自分で飲めるわ」

「私を心配させた罰よ。大人しくしなさい」



 水差しを口に突っ込まれる。小鞠は、片手でヒューリの頬に触れ、もう片方の手で水差しを傾けていく。程よい温度の水が、乾いた喉を癒す。それにつれて、気絶する前の光景が鮮明に脳裏に浮かび上がってきた。

 ヒューリは飲み終えるや否や小鞠を見る。それだけで小鞠は察したようだ。



「分かってるわ。あの後何が起こったのか、よね?」

「ああ。俺が生きてるってことは、オゴの癒しの力は作用したんだな」

「ええ。まだうまくコントロールできないって言ってたけど、よくやってくれたわ。あなたのおかげで誰も死なずに済んだ。……あのドラゴンね。厄介なことに、環境創世の力を持ってるらしいわ」

「かんきょう……なんだって?」



「環境を自分の好きな状態に作り変える能力。一部の精霊や魔獣なんかが使えるって。能力の内容には、微妙に個体差が生じるらしいけどね」

「魔法と違うのか?」

「仕組みが違うらしいわ。魔法はマナを別の何かに変換する技術。一方、環境創世は、すでに存在している物を別の何かに変化させる能力。風を毒霧に変えたりね。細かいメカニズムは分かってない。ただ、反則級の能力であることは間違いないわ」



 ヒューリは、あの時の情景を思い出す。

「闘技場は、沼と毒の霧だらけになった。自分に有利な環境を作れるのか。厄介だな」

「ええ。ドラゴンってホント、やばいのばっかりで困るわ。マリアの召喚する子みたいに大人しい子だったら良いのに……それより」

 小鞠は椅子から立ち上がると、ヒューリにかけてあった毛布と布団をはいだ。暖炉があるとはいえ、真冬の室内。ヒューリは、目で抗議した。



「体が大丈夫なら、私と一緒に城に行きましょう」

「ハア? なんで」

「マリアは攫われた」

 ヒューリの表情がこわばった。

「場所は?」

「方角からするとカーヴァね。この世界の北にある新興国。詳しくはマリアのお父さんに聞きましょう」

 ヒューリは飛び跳ねるようにベッドから降りると、小鞠に先へ外に行くように促した。

「扉の前にいるから」

「ああ……」



 パタン、と閉じたドア。室内は、焚火の音だけが響く。

 一人残されたヒューリは、まず歯を食いしばった。次に拳を握りしめ、力いっぱいベッドを殴りつける。

「クソ。俺は、手も足も出なかった。そして、仲間を守れなかった。……何が最強の放浪永礼流だ。俺は、また……無力だ」

 薪が爆ぜ、風に揺れた窓が鳴る。

 ヒューリは、窓を開け冷たい外気を肺に入れる。マリアが去った方角を見ると、分厚い雲が空を覆っていた。


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