表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/78

キング・ゴールド編 第二章 シンデレラマリア④

「離せ。私を開放なさい」

 目を覚ますなりマリアは、叫んだ。

 あの会場には、愛する人達がいた。人とドラゴン、両親、それに仲間達。無事だろうか? ……きっと無事だ。祈るくらいしかできない。

「ク、むざむざ連れ去られてたまるものですか。【龍の息吹は、触れたものを灰と化す。ファイアブレス】」



 マリアは、手のひらから摂氏千度の炎を放射した。

 しかし、ヨグルは体表に触れてもまるで傷付きはせず、あまつさえゾルガに至っては片腕でハエを払うように火を散らした。

「無駄な事は止めろ。お前の魔法は、杖がなければ大した威力にはなるまい」

 ゾルガの指摘は正しい。

 ――千年龍の杖。あの杖には、初級・中級魔法の詠唱簡略化機能、上級魔法の威力ブースト機能、大気のマナの魔力変換機能等が備わっている。



 杖がなくとも、マリアの魔法ならば大抵の者は蹴散らせるが、この者どもに対抗するには厳しいだろう。

 マリアは奥歯をギリギリと鳴らした。

(それにしても、なんて禍々しい……)

 マリアは、チラリとヨグルの頭部を見た。

 マリアを拘束するこのドラゴンは、見たこともない。だが、間違いなく最強の力を持つ。

 先ほど、追手として追いすがってきたドラゴンナイト達はいとも簡単に追い払われてしまった。



「あなた達。一体何者? なぜこんなことを」

「ああ、煩い。煩わしいぞ小娘。ゾルガよ、黙らせるがよい」

「……承知」

 マリアを拘束する尻尾が動き、ゾルガと強制的に対面させられた。

 ――ああ、杖があっても絶対に逃げれませんでしたわ。

 ゾルガの放つ圧力は、巨人のように圧倒的だ。次元闘技者として数多の敵と戦ってきたマリアだからこそ、この男の底知れぬ実力がわかろうものだ。

 マリアは、血の気が引いていく感覚に苛まれた。



「そら、これは貴様の杖だろう」

 ゾルガの手に千年龍の杖が握られている。

「どこでそれを……」

「俺の部下が、貴様の城から持ち出し、昨夜俺にコッソリと届けた。すり替えた偽物にすら気付かぬとは、よほど思いつめることがあったらしいな」

「くう……」

「素晴らしい杖だ。門外漢の俺でも分かる。どうする? これで抵抗してみるか?」

 ゾルガに杖を差し出される。しかし、マリアは首を振った。



「懸命だな。無駄な労力を割くのは趣味ではない」

「……ワタクシをどうするつもり?」

「どうもしないさ。しばらくはな。だが」

 ゾルガは、マリアの顎を二本の指で掴むと強引に瞳を覗き込んだ。

「後に役立ってもらおう。我らが理想郷のために」

「理想郷? あなたは何を言ってますの?」



 マリアは、鼻を引くつかせた。このニオイは、潮の香りだ。

 キング・ゴールドには、二つの大陸と一つの海で構成されている。南にゴールドブレスが支配するキーアム大陸、北にニーファ大陸がある。

 この二つの大陸を隔てる形で、母なる海アイラフは広がっているのだ。



「アイラフの香り。でしたら、行き先は」

「カーヴァだ」

「カーヴァですって。あの恐るべき極寒の地に、一体何の用ですの? ……いや、お待ちになって。最近、人間の王がカーヴァに誕生したと聞きましたわね。あなたは、もしや?」

「……俺は、ゾルガ・ライオ。我が役目は――」



 マリアの陶磁器のような白い肌に、青白さがさらに加わっていく。

「ああ、なんてことでしょう」

 マリアは、ゾルガから視線を外し、もう遠くなってしまった故郷を眺めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ