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キング・ゴールド編 第二章 シンデレラマリア③

「次は、どいつだ?」

「油断するなよヒューリ」

「大丈夫っすよ、カルフレア先輩。この人、戦いだけは真面目なんで」

「あ、なーる」

「んだとコラ! それじゃまるで俺がそれ以外はポンコツみたいな表現じゃねえか。……おい、何で黙んだよ。マジで思ってんのか! あ!」



 ヒューリは、弾かれたように刃を構えた。

 思考より早く動いたもので、本人が一番驚いている。

(俺は、何に警戒して)

 理由はすぐに見つかった。



 威風堂々とした偉丈夫が、ヒューリ達に向かって歩み寄っている。

「貴様らは、強者だな」

「……あんたは?」

 問いに、男は答えず冗談みたいな巨剣を片手で軽々と振り回した。

「まずはこれで試させてもらおう」

「!」



 ゾルガは、無造作に剣を一閃させた。力任せの一撃。ヒューリの眼前には、護が展開した盾と妖力のバリアがある。――しかし、鋭い音を鳴らして、鉄壁の守りはあっけなく破砕された。

「うっそだろ!」

 ゾルガの刃はまだ止まっていない。守りを砕き、今度はヒューリの胴へ迫る。速度は大したことはない。しかし、回避をする暇はもうなかった。

 ヒューリは、理不尽な暴力を業魔で逸らそうと試みる。しかし、あまりの剛の斬撃に、ひしゃげるように食らいつかれた。



「うぁ」

 吹き飛ばされ、二度三度地面にバウンドする。

「ヒューリ先輩!」

「ほっとけ。コイツから視線を切らすな。負けるぞ!」

 カルフレアは、ナイフをライフルの先端に取り付けると低い姿勢で突っ込んだ。



「そら、受けてみな【五月雨流 打突・光】」

 低い姿勢から跳ねるように、ライフルを突く。ただの一突き。されど神速の突きは凄まじく、目で追えた者は僅かだ。ほとんどの者は、ただ成す術もなく倒れただろう。

 しかし、カルフレアの顔は苦しそうに歪んだ。



「俺の突きを!」

 ゾルガは、剣の根元で刃を受け止めていた。

「五月雨流? 知らぬ流派だが、見事なものだ。俺が、防御をせねばならぬとは」

「そらーどうも。母さんが聞けば、なぜ倒せなかったって怒られそうだけどね」

「先輩、退いて。【オヌ、武装せよ。ここは戦場なりて】」



 宙に様々な武器が顕現する。それらは鬼火のように漂う。

「妖力を圧縮することで、物質化させたか。これができる者はそう多くはないが。なかなかのものだな」

「え? いやー、それほどでも」

「馬鹿野郎。照れてる暇あったら、この野郎ぶっ飛ばせ」

「ヒューリ先輩、無事だったんすか!」



 怒鳴り散らしたヒューリは、脇腹から血を流しながらフィールドを駆ける。

 痛みで吐き気がしたが、歯を食いしばり、刃を振るった。

 斬撃の途中で業魔の魔力を放出。加速された刃は、ゾルガの胴体を狙う。



「魔力放出。魔剣とそこまで対話が進んでいる奴もそうはいない」

 あっけなく大剣で受け止められる業魔。鳴り響く甲高い音に、観客たちは耳を覆った。

「小言が多い奴だな」

「何……」

 ヒューリは、業魔を手放した。

 僅かに目を見開くゾルガ。

 ヒューリは、護が顕現させた武器の一つを手に取り、ゆらりと迫った。



「妙技をお披露目してやるぜ。【放浪永礼流 混合の型 五条の弁慶】」

 槍、斧、日本刀、ナイフ、鎖鎌、ツーハンデッドソード、レイピア、三節根……。ヒューリは次々と武器を持ち替え、四方八方から襲い掛かった。

 ゾルガは、冷静な面持ちで攻撃に対処しつつ、感心したようにため息を吐いた。

「……これほど多彩な戦闘術を一人の人間が。素晴らしいぞ。それにあの伝説の放浪永礼流とはな。――だが、貴様の刃には致命的な弱点が存在する」

「んだと! うるせぇぞ」



 カッとヒューリの顔が怒りに燃えた。

 力任せにフレイルを振るう。しかし、ゾルガは幅広の刃で防ぎ、鋭く蹴りを突き入れた。

「う、あ」

 深々とヒューリの腹部に突き刺さり、意識が遠のく。

「放浪永礼流は、多彩な戦闘術が強みと聞く。相手の戦闘スタイルが苦手とするスタイルを用いて戦う。それは確かに一つの最強のスタイルなのかもしれない。だが、お前は弱い。精神が未熟だ。技が未熟だ。柔軟性が未熟だ。駆け引きが未熟だ。動きに無駄が多くて未熟だ。流派は強いが、貴様は弱い。これがその証拠だ」



 ゾルガは、両手で柄を握り、大上段に構えた。

 ヒューリの意識が急速に覚醒する。それは本能が成せる業だ。このままでは死ぬ。それは予感ではなく確実に至る未来の話だ。

 姿が何倍も大きく見える。



(クソ、動け。俺の足。痛みなんかほっとけ。この一撃はヤバイ。下手すりゃ死ぬ)

 おぼつかない足でよろめきながら後退。冷や汗が全身を濡らした。

「受けよ。はああああ! む……」

 死の重圧が弱まった。ゾルガは空を見上げている。ヒューリは、ゾルガを視界に収めつつ、窮屈に空を見上げた。

「んな!」

 巨大な影が天を覆っている。蛇のような体。巨大な悪魔のような翼が八対。毒々しい緑色の体表は、見ているだけで神経を毒されそうだ。



「ヨグル、なぜここに?」

「うぬが遅いから迎えに来てやった。余がこうすれば容易いこと。なのに、手間がかかる方法を選択しおってからに」

 蛇は、いやドラゴンは、尻尾を観客席の一角へ鋭く突き出した。

「離しなさい。無礼者」

「シュルルル。そうはいかぬ」

 ヨグルの尻尾に巻かれたのは、マリアだ。彼女は激しく暴れるが八十mもの巨体の前には、アリのように非力。一瞬で締め付けられたマリアが、がっくりと項垂れる。



「あの野郎! 小鞠、乱神を発進させろ」

「おっと、余計なことはするなよ。人間ども」

 ヨグルは翼を広げると、空に巨大な魔方陣を描いた。

 ヒューリの体が浮いた。護が担いでいるのだ。闘技者たちは、一目散に逃げる。――だが、足が何かに引っかかり、派手に転んでしまう。

「い、いてえええ。あ、えええ」

「ひ、ひあああ」

「毒沼だあ」



 安全な土の大地は、毒々しい沼に変貌した。ヒューリと護、カルフレアも彼らと同じ運命を辿っている。鋭い痛みと強烈な脱力感に襲われた。ヒューリは、仰向けに倒れると、目を見開く。

 ヨグルの背中にゾルガが立っている。彼はつまらなそうな顔で言った。

「永礼の者よ。生きていれば、続きをしよう。腕は磨いておけ。今のままでは、俺の敵ではない」

「テメエ! 下りてこい。マリアを返せ」

「そうはいかない。俺だって不本意だが、結果としては同じことだ。お前らでは俺には勝てない。マリアはもらっていくぞ」



 ゾルガはそれきり口をつぐむ。

「フフ、無様よのう。人間ども」

 ヨグルが翼をはためかせ空へ飛び去っていく。

「あ……」

 ヒューリは、思わず手を伸ばした。力なく揺れるマリアの姿が、網膜に焼け付く。

「待ってろ」



 ヨグルは、あっという間に闘技場から離れていった。

 追いかけようとするヒューリ。しかし、天からは毒の霧が降り注いできた。

「う、あああああああああああ」

 ヒューリの近くにいた闘技者が霧を吸い、苦しそうにもがいた。

 ヒューリは手足をばたつかせて、どうにか霧から逃れようとするが、毒の泥がヒリヒリと皮膚を焼き、あがく力を奪っていく。



「く、このままじゃ」

「先輩! 乱神がきたっす」

 甲高い音を鳴らし、ヒューリのフェスティバルギアが降り立つ。黒武者は、ヒューリを庇うように仁王立ちした。

「クソ、グ、あ。やる、……しか」

「寝るな。どうにかしろヒューリ」

「ああ、わーてるよ」



 ヒューリは、意識を集中させる。乱神のエンジン【マザースフィア】。その機関に組み込まれた未知なるエネルギー物質【オゴ】は、破壊と再生の力を秘めている。

 ――操れるか? だが、ここで再生の力を発揮させないと。

 護が、カルフレアが死ぬ。それに……。

 ヒューリは、首を動かし観客席を見た。

 慌てふためく人々達。その中に、小鞠がいた。観客席は、安全に試合を観られるように防護フィールドが張られている。だが、この正体不明の力まで防いでくれる保証はない。

 小鞠は、泣きそうな顔でこちらに向かって叫んでいる。

 ――死なないで。

 耳のインカムから確かにそう聞こえた。



「死なない、大丈夫だ。生きろ。皆!」

 イメージするは癒しの力。傷が消えるように癒えると信じる。オゴの強大な力に触れると、意識が飲まれそうになった。だが、死に物狂いで意識をつなぐ。おぞましい力と共存する温かな力だけを手に取り、表に引っ張り上げる感覚。

「グハァ!」

 口から血が飛び出す。毒が回って思考ができない。

 ヒューリは、胸を掻きむしりながら乱神を見つめ続けた。……意識は急速に落ちゆく。駄目だ。……まだ、……光……よ。


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