表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/78

キング・ゴールド編 第一章 とんだ大事件②

 事の発端は、とある一本の電話だった。



「え? 当社に出場の依頼を。はい、はい。ええ? それは、何といいましょうか。光栄です」

 電話を切った小鞠は、その場にいたヒューリとマリアに笑いかけた。

「やったわ。大口の依頼よ。このところ稼ぎが少なくなってたから助かるわ」

「へえ、どこのどいつがくれた依頼だ?」



 大げさに言ってんだろ、と言いたげなヒューリに小鞠はニンマリと微笑む。

「キング・ゴールドの王様よ。首都サウザンドで大きな次元決闘大会を開くから、参加してくれって」

 おお、と小鞠と同じ顔になるヒューリ。が、マリアだけは明らかに違う。頬を膨らまし、首を激しく振った。



「社長、お断りいたしましょう。ワタクシからお伝えしておきますわ」

「あ、こら!」

 最近、小鞠が骨董屋で苦労して手に入れた黒電話に、マリアの手が伸びる。だが、すんでのところで小鞠が彼女の手首を握った。

「嫌ですわ。ぜーたい嫌ですわ」

「贅沢言わない」



 マリアは、子供のように地団駄を踏む。珍しい光景だ。マリアは、小鞠を尊敬どころか心酔している。こんなに反発する姿は、見たことがない。

 ヒューリの不思議そうな様子が伝わったのか、小鞠は困ったような顔で説明した。

「ああ、キング・ゴールドの王様って、この子のお父さんなのよ。知ってた?」

「ん? あ、そういえばそう聞いたことがあるな。ク、王族って似合わねえ」

 ヒューリの端正な顔が、意地悪に歪んだ。



 マリアは、その間も断りの電話を入れようと躍起になっている。

 小鞠は、皺ひとつない和服を翻し、マリアの暴走を羽交い絞めで止めにかかる。

「く、この。あ、あのね。この子、私に憧れたとかで、ゴールドブレスから飛び出して、うちに面接に来たの。素性隠してたから、私、こーの! ……採用しちゃってさ。あの後なんやかんやあって、マリアは次元闘技者として働くことになったの」

「いや、説明、雑いだろ。王族が、次元闘技者なんて危険な仕事するって変じゃね?」

「変じゃありません」

「いや、お前……」



 マリアは、小鞠に羽交い絞めされながら、堂々とした立ち姿で胸を張る。ヒューリは、彼女の大きな胸から視線を外し、わざとらしく咳をした。

「社長のように、強くたくましい女性になりたい。だからこそ、ワタクシは姫という立場を捨てましたの。だいたい、あの親は保守的で情けないですわ。会いたくありませんの」

「うーん、でも。マリアも一緒に連れていくのが参加する条件なの」



 マリアは、八重歯をギラつかせた。

「大会なんて口実じゃありませんの。ワタクシに会うのが目的ですのね」

「まあまあ。あなた、こっちに来てから一度も帰ってないんでしょ。お仕事ついでに里帰りしましょ。あなたのご両親とはちゃんと顔を合わせたいしね。もう、そんなに膨れた顔しないの。おねがーい」



 小鞠は、幼女のような舌足らずの言葉を囁きながら、マリアの頬に自らの頬を優しく擦り付けた。社長業務をこなしながら、アイドルとして活動する小鞠。さすがというべきだろう。

 マリアは、クラクラとした様子で馬鹿みたいに何度も頷いた。

「しゃ、社長がおっしゃるならよろこんでー」


 ※


「で、結果がこれかよ」

 ヒューリは、泥を払い苦笑いする。

 小鞠が横で不思議そうに小首を傾げた。

 空を見上げれば、太陽が頂点でふんぞり返っている。



「日が落ちる前に到着したいな。おい、護。この谷からサウザンドに行けるのか?」

「え、ええっと」



 護は、腰のベルトに挟まっていた巻物を取り出し、【オヌ、教えたまえ】と唱えた。――途端、白紙だった巻物の表面に文字が浮かび上がる。

 護は、難しい顔をして情報を目で手繰った。



「あーっと。うん、行けるみたいっすね。このまま直進するだけです。……距離を算出。夕方、には着きますね」

 だったら、とカルフレアは意気揚々と先導する。

「早く行こうぜ。連中は、やっぱりと言うか、サウザンドで着陸した。マリアちゃんがあれからどうなってるか見たいし、泥だらけの体を綺麗にしたいさ。あ、この異世界ってシャワーくらいあるよね」

「さあな。なかったら、そこらの川で水浴びすりゃいいじゃねーか」

「ハア? ありえない。ヒューリ、それは野宿の時の心得だ。ちゃんと街に泊まれる時は、体をもっともっと綺麗にするもんだ。でないと、女の子を口説けないだろ」

「へ、アホらしい。おーい、グリフォン。お前のご主人様が、女口説こうとしてるぜー」



 ヒューリは、空に向かって大声を張り上げる。

「馬鹿、ち、ちが!」

 けたたましい鳴き声が響く。悠久なる空を泳ぐように飛ぶ獣。鷹の翼と顔、そして胴体。下半身はライオンで構成されたその生き物は、真っ白き体毛をなびかせ急降下すると、勢いよくカルフレアの頭をつついた。



「違う、違うんだよ。シャーリア。愛してるのはお前だけ。ほんと、本当だから。あ! そこをつついたら駄目だぁあああ」

 騒がしい一人と一匹を横目に、残りの面々は歩き出す。冬の身を切るような風が、防寒具を纏った全員を嬲るように駆け抜ける。



 ヒューリは、震えながらダウンジャケットの前を閉じた。目指すべき先にある空は、分厚い雨雲がそびえ立っていた。

「嫌な空だ。……まさかな」

 呟き、歩き出す。

 遠くの空で遠雷が吠え、木霊する。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ