キング・ゴールド編 プロローグ
――ワタクシは、囚われている。
フカフカのベッド、超一級家具師が作った洋服ダンス、冬の切るような寒さを振り払う温かな暖炉。丈夫な鉄格子付きの窓がなければ、囚われの身とは誰も思いませんでしょう。
窓の外では、猛吹雪が荒れ狂っている。まことに残念でならない。我が国、キング・ゴールド国に、これほどの吹雪が荒れ狂うのは異常気象といって差し支えない。もし吹雪いてさえいなければ、美しい天と地が織りなす地平線が見えたでしょうに。
「……少しは動かないと、体がなまってしまいますわね」
囚われの身といっても、ワタクシは手足にナンセンスな拘束具をはめられているわけではない。自分の足で歩き、吹雪の世界を指紋一つない窓越しに眺めた。
風は虫の居所が悪いらしく、白きお供を連れて視界を奪っている。しかし、その残念な横暴さも、透明な防壁を壊すには至らない。
――【キング・ゴールド国】の首都【サウザンド】は、千年龍の加護によって守られている。たとえ隕石が降ろうが、首都が消えることはないだろう。
ワタクシは、窓に映るつまらなそうな自分の顔を避けるように、視線を正面から下へ移す。ここは城の最上階に位置する部屋だ。
退屈な城を守る白亜の城壁を超えれば、城下町が広がっている。千年龍の加護によって冬の寒さも、いくらか減じているのだろう。城下町の人々は、最低限の防寒だけをして楽しそうに往来を歩いている。
キーアム大陸最大の都市なだけあって、城下町は随分と大きい。しかし、城下町の外周にはまた城壁があるせいで、どこか狭苦しい印象を抱く。
「千年龍の加護もあるでしょうに、こんな邪魔な城壁を城の周囲に一つ、城下町の周囲に一つ、計二つもあるなんて無駄ですわ。我が祖先は、とんだ臆病者だったのでしょうか?」
ため息が、窓を温めた。
ワタクシは城下町の光景に背を向け、部屋の中央に位置するソファに腰を下ろす。
ソファは、ワタクシの体を優しく包み込んだ。けれども、居心地が悪い。
その理由は、最近めっきり着なくなった深紅のドレスに身を包んでいるから。――それと……。
ワタクシは、それとなく周囲を見渡す。鏡を見なくても分かる。ワタクシの顔は今、雨に濡れた子犬のように哀れなものになっているでしょう。
「どうして、こんなことになってしまったのでしょうか? ワタクシは、一体どうしたら」
声は、静寂に吸い込まれた。唯一の音は、暖炉の薪が爆ぜる音だけ。
ワタクシは、その音に彩りを加えるように、またため息を吐いた。




