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第三章 交わす刃と言葉⑩

 乱神は、瞬時に縮んだ業魔を手に取り、上昇。グラーヴァが小さく見える位置で止まると、業魔を再び巨大化させて落下した。


「ヒューリ、まさか」


「ああ、切ることができないなら押しつぶす。ワックワクするだろ」


「ウーン、この速度と質量の業魔をぶつけたら、津波で街が壊れるかも……」


「あ……」


「ま、大丈夫でしょ。どっちみち、ここであいつを倒さないと、滅ぼされちゃうだろうし、どーせ闘技場の魔法使いが何とかしてくれるわ。あ!」


「ん! クッソ、あの野郎」


 グラーヴァが、口を開けている。低く鳴り響く音は不吉の音色。喉の奥に真っ赤な光が集まっていき、輝く粒子が彼の周囲から浮かび上がっていく。


「高濃度の魔力反応。ドラゴンブレスが来るわ」


「時間がねえ、このままいく」


 二人はフットペダルを踏みこみ、さらに加速。


 小鞠が、左足を伸ばした体勢のまま、画面を睨んだ。


「グラーヴァとの距離算出……、ヒューリ! 秒読みするからゼロになったら斬って」


「ああ、任せた」


 グラーヴァの口から真っ赤な光が漏れ出てくる。高温で生じた上昇気流のせいで、機体がより一層激しく揺れた。


「カウントダウン開始。――五、四、三、二、一。今よ!」


「おう! くらぇえええええええ」


 全長二十メートルの巨刀と化した業魔を、振り下ろした。圧倒的重量に速度を乗せた一撃は、隕石と何が変わるだろう。


 死を感じるには十分な剛撃。


 しかし、眼前のグラーヴァは鼻で笑った。


「愚かしいわ」


 悪龍の口から焔が噴き出した。暗黒のオーラを纏いし業魔が、真っ向からぶつかる。


 左右に裂けて散る焔。しかし、ブレスの勢い凄まじく。十二分に乗せた運動エネルギーが、押されていく。


 ヒューリは、小鞠は、雄叫びを上げて機体を制御する。


 ――神話の再現のような景色。


 海は荒れ狂い、強風が駆け抜け、雷鳴が轟いた。


 乱神は、業魔に抱きつくような体勢で抗う。軋む関節の音は、コックピット内にまで聞こえた。


「あっちいい」


 ヒューリは、呻く。冷却装置が悲鳴を上げている。鳴りやまないアラーム音。コックピット内は、四十五度を超えていた。


 視界がぼやける。しかし、歯を食いしばって耐えた。ぐったりとした様子の小鞠の体温を感じるのだ。彼女は、フットペダルを踏み続けている。堪えている、頑張っている。――ならば、どうしてここで諦めきれようか。


「うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ヒューリは、操縦桿をもっと強く握りしめた。


 乱神は、それに応えるように腕を動かす。少しだけ、前進できた。


 ――しかし、それだけだ。


「ヒューリ、機体の稼働限界時間が!」


「何ぃ! 小鞠」


 乱神の各部からオゴが噴き出した。


 アラームが止まる。


 ヒューリは、小鞠をギュッと抱きしめた。


 乱れる神と書いて乱神。その名に相応しいギアは、代償を払うかのように自壊した。


 腕がもげ、足が爆発し、ブレスに弾かれてコックピット部分が空へ飛ばされた。

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