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第二章 奮闘⑩

 機体を反転させ、刀で得体の知れぬものを弾く。




 衝撃に揺れたコックピットの中で、ヒューリは相対する。




「んだあ? こいつ」




 それは人型だが、腕はなく背中から何十本もの触手を生やした灰色の機体であった。




 顔はのっぺらぼうのように目も口もなく、自己主張している箇所は、蠢く触手のみだ。




「不気味なギア。小鞠、照合」




「不明よ。相手してる暇なんてない。振り切って」




 ヒューリは、返事する暇さえ惜しみ、スラスターをふかした。




 いかに軍用ギアといえど、乱神の速度についてこられるはずはなく、問題なく振り切れるだろう。――そのはずだが。




「クッソ!」




 振り切れない。のっぺらぼうは、数本の触手をスクリューのように回転させ、複雑な軌道を描きながら、乱神に追従する。




「ッ!」




 無数の触手が襲い来る。乱神は、切り払い、回避し、前腕で防ぐが、数が多すぎる。二本の触手が、肩と腰部の鎧をはぎ取った。




「があああ、うう」




 乱神が、きりもみしながら落下する。落ちていく感触、それに加えて肩から脇腹にかけて激痛が走った。




(傷口が開いたか)




 回る視界と痛みに、吐き気がした。だが、弱音を言っている場合ではない。このままでは市街地に墜落してしまう。




「が! あ、んだ?」




 機体は落ちなかった。意外な救世主は、のっぺらぼうの機体だ。幾重もの触手で四肢を縛り、無表情の顔で乱神の顔を眺めている。




「コイツ、本当に人間か? あんな音速で飛びながら直角に曲がったり、螺旋を描いたりしやがったぜ」




「よかった、無事ねヒューリ。……ありえないわ。あんな無茶な動きをすれば、機体が壊れる前に、まず人がGに殺されるはず。どうして……ん、ありえない?」




「どうした!」




 けたたましい風切り音が鳴っている。のっぺらぼうの機体が、余った触手を振り回しているのだ。




「小鞠!」




「待って! ……あった、これだわ。最近、民間軍事会社で流行っている【ジャンク】って名前のギアシリーズよ。性能を一部に特化させることで、コストカットしてるのがウリ。人間は乗っておらず、全て数世代前のAIで動かしてる」




「ハ、ようはデカいお人形さんかよ。そりゃ、あんな動きしても死なねえよな」




 ――警告。当機の活動限界時間まで残り三分。




 無機質な音声が、コックピットに響く。ヒューリは、大きく舌打ちをして俯いた。




「へ、体はボロボロ、機体もボロボロ。おまけに俺も仲間も絶体絶命ときた。笑うしかねえ。ああ、クッソたれが! 小鞠、スマン。もっと無茶するぜぇ」




「ふぇ? あ、もしかして……駄目! 絶対、駄目」




「これしかねえ。小鞠、闘技場に医者呼んどいてくれ。俺、ぶっ倒れるからさ」




 ヒューリは顔を上げ、ぎらつく瞳で画面を睨み、叫んだ。




「おい、モード足軽将軍だ」




 ――警告、機体の耐久度が下がります。




「うるせぇ! 四の五の言わずやれ!」




 触手が、鞭のように唸りを上げて乱神に迫る。――その時、乱神の装甲が派手にはじけ飛んだ。




「……」




 のっぺらぼうは、拘束に使っていた触手ごと、はじけ飛んだ装甲に吹き飛ばされた。




「さあ、行くぜ? 性能を特化させたってことは、恐らくお前は触手の操作と高速飛行だけがウリのギアだろ。装甲は紙だ。ぜってえ」




 乱神の容姿が変貌した。肩、背面、腰部、ふくらはぎの装甲がパージされ、巨大なスタスタ―が、背中に六つ、両ふくらはぎに一つずつある。




 全体的にほっそりとしたが、スラスターのおかげでどことなく強靱さを感じさせるフォルムだ。




 ヒューリは、歯を食いしばりスラスターをふかした。




 ――直後、反重力装置でも消せない慣性によって、体がシートに押し付けられる。




 刹那、眼前に迫るのっぺらぼうの顔。ヒューリは、操縦桿を思いっきり前に倒した。




「ガラクタらしく静かにしてろ!」




 剛腕一閃。のっぺらぼうのギアは、粉々に破壊され、地へと落ちていく。




「小鞠!」




「分かってる。イワサさんの部隊が、魔法で破片を市街地以外の所に散らばしたわ」




「あ、り」




「喋らないで。舌噛んで死ぬわよ」




 そう、喋れない。機体は加速を続けていき、止まるところを知らない。




 とっくに音速の壁は突破した。




 ――第五十九ゲート確認。ゲート通行の許可は下りています。そのまま、ゲートをくぐってください。




 加速から数秒ほどで、ゲートに着いたようだ。機体のアナウンスに導かれるように、ヒューリは画面に視線を投げる。




 画面には、四方を鋼鉄の壁で覆ったボックスが表示されている。あれは、時空のひずみを覆う壁であり、ドアだ。壁は、ギアに乗ってなお威圧される巨大建造物だ。一部がぽっかりと穴が開いており、乱神はその穴をくぐった。

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