一方的
あれから、屋上を後にし図書室に戻ってきた。
「あ、おかえり」
図書室に入ると、真っ先に雫が気づき寄ってきた。
「ん、ただいま」
「どこに行ってたの?」
そういえば屋上に行ってからどのくらい経ったのか。
というより、校長と話してたって言っていいのか…?
だめな気がするんだよな。なんか言われそう
「あー。少し周辺の探索にな」
とりあえず隠すことにしといた。
まあ、言うほどのことじゃなかったしな。
「そっか。急に居なくなったからみんな心配してたよ」
「それはすまないな」
確かに急に居なくなったら心配するよな。
一言かけたほうが良かっただろうか。
「そういえばさ」
「どうしたの?」
みんなのところへ向かおうとした雫を引き止めた。
そして、俺はふと思い出したことを伝える。
「実はさ、ここに鬼と2人の参加者が向かってきてるんだよね」
「え?」
雫は驚いている。まあ、驚きますよね。
探知を使って得た詳しい情報を簡潔に伝える。
「追っかけられてるのは、真面眼鏡と美女学生だ」
名前覚えてないから特徴で言うしかないんだよな。
そろそろ人の名前覚えないと…
「とりあえず、俺はこいつらを助けてくる。雫はこのことをみんなに伝えてくれ」
「わかった」
雫も流石に慣れてきたのか、何も言うことなく即答した。
正直助かるね。一分一秒も無駄に出来ないから。
俺は雫に頷きつつ、図書室を出て走る。
「あれ?」
俺は走りつつ違和感を感じる。
少し戸惑ったが、すぐに違和感の正体に気がついた。
雫のスキルを使っていないはずなのに足が以前より断然速くなっているのだ。
「後でスマホ見てみるか」
とりあえず今は後回しにして、急ぐことにした。
「はぁ…はぁ…」
「急げキャメルくん!」
目の前の眼鏡男は汗を滝のように流しながらこちらを向き、私を急かした。
どうして急かされているのかというと…
「ッッッ!!」
後ろから飛んできた炎をぎりぎりのところで避ける。
そう、これは鬼ごっこ。
捕まったら死ぬ。そんな絶望ばっかりのゲーム。
そして私と真面目な眼鏡男、柳眞は今。鬼に追いかけられている。
羊型の鬼だ。そいつは炎を飛ばしてきて、逃げているが当たりそうでとても危ない。それにきっと当たったらすぐに散ると思う…
「キャメル君!!!」
「ッッッ!!」
私はもともと体力が多いほうではない。どちらかといえば少ないほうだ。
それなのにこんなにも走ったら体力はすぐなくなるわけで…
私は躓き、転んでしまった。
…あ、終わった
近づいてくる羊型の鬼を見上げながら、そう思った。
完全に諦めた私は、死んでいく自分を見ないように目を瞑った。
そうして、私の目の前まで来た鬼は、その手に持っている赤い槍を構え、私に思いきり突き刺した…
………はずだった。
「っぶね。ギリギリセーフ…ってとこだな」
なぜか私のもとに届かなかった。
疑問に思った私は、目を開けた。
そこには、パーカーの少年がいた。
「君は…」
確か、デスゲームということを知らされた時にも冷静で笑っていた不思議くんだ
「図書室に仲間がいる。とりあえず逃げろ」
振り返ることなく。口を開く少年。
その言葉を聞いた少し後、後ろから足音と声が聞こえた。
「感謝する。早く行こうキャメルくん」
「わ、わかった。ありがとう」
私と柳眞は少年に感謝をし、図書室へと向かった。
「さてっと」
二人の足音が遠ざかった後。ナイフを逆手に持ち直す。
軽く肩甲骨を回し、改めて鬼を見た。
今度の鬼は、最初の筋肉ゴリゴリの鬼よりも大柄で白い毛が大量に生えていて、頭には曲がった角を持つ、羊型の鬼だ。
「ふむ、本当に強くなってそうだな」
先程の屋上での校長との会話を思い返しつつ、気を引き締める。
流石に魚の時みたいに死ぬわけにはいかんからね…
少し苦笑すると、羊鬼は咆哮。そして突撃を繰り出してきた。
「あはは、もう少しゆっくり行こうぜ」
って言っても、こいつらが聞くわけないか。
でも魚は喋ってたっけ
そんなどうでもいいことを考えつつ。廊下を蹴って羊が反応する前に鳩尾に一発。逆手に持ったナイフを突き立てる。
羊が呻く。しかしそれを気にも止めず逆手持ちから順手持ちに切り替え、ナイフを羊の体から抜く。
その瞬間。赤黒い血が大量に溢れ出る。
そろそろ見慣れたが、やっぱりグロいよな。
まあ、こんなゲームが始まった時点でわかってたことか。
俺はそのまま流れるようにナイフについた血を羊の目に飛ばし、簡易的な目潰しをする。
目潰しした方が確実に倒せるんだよな。
視界を潰されたことによって不安定な羊に更に追い打ちをかけるようにナイフで足を切り刻む。
流石の鬼といえど視界を潰された状況で足を切り刻まれると立った姿勢を保てるわけがなく。数歩後ろに下がった後そのまま倒れる。
本気の殺し合いで倒れる。というのは死んだも同然。
まずは右腕をナイフで切り飛ばし武器の使用を封じる。
すると羊も反撃せねばと反対の手を固め殴りかかってきたので、くるりとナイフを半回転させ逆手に持ち手首あたりに向けて投げる。
ナイフを投げると同時に低くジャンプし、刺さったナイフを抜き取り羊の鎖骨を断ち切る。
予想通り。羊の左腕は力が抜け床に落ちた。
呻く羊。その上に立つ俺。
…その時、きっと笑っていたのだろう。
ただ羊との戦闘は、なぜか愉しいと思った。
記憶のない記憶を思い出していることにも気づかずに…
「流石ね。王様…」
そして、戦闘を眺めている人が居ることにも気づかずに…




