記憶旅行
目が覚めると、見たことがないような場所に一人。立っていた。
……最近見たようで、とても遠い昔に見たような景色だった。
「ここは…?」
「ここは君の記憶の中だよ」
真後ろから飛んできた声に驚き、すぐに振り返る。
そこには先ほども見た人物。元凶が居た。
「この景色は君が過去に見た記憶だよ」
ほら、こっちに来て。と校長は、不敵な笑みを浮かべ、俺を先導する。
そして、校長についていくと、そこにはとある学校があった。
「この学校の名前は青南高校。君の母校だ」
青南高校というこの学校。私立の高校で複数建物があり。割と広めの高校だ。
記憶はないため。よくわからないが、きっととてもお世話になっており、様々な思い出が残ったのだろう。
記憶を失った今でも懐かしくて涙が出てしまいそうだ。
涙を流すことはないのだろうけど…
「さて。こっちだよ」
校長は青南高校の門を通る。
俺はそれに続き門を通る。許可も取らずに入ったことに少し罪悪感を感じたが、頭の片隅に置いておくことにした。
「さて。じゃあここで少し見ていようか」
俺達が立ち止まったのはとある教室の前の廊下。
教室の中には生徒たちが椅子に向き合って教師の話を聞いている。
俺達には気づいていないようだ。
「なあ。なんであの人達は俺達に気づかないんだ?」
「そんなの。僕達は君の記憶を≪見ている≫だけだからね」
「ふぅん」
俺の記憶を見ているだけ…ね。
てことはこれは実際に俺が過ごした時間なのか。
でも、俺らしい人物はいないが……
と、考えていると。授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「さて。そろそろだね」
校長は意味深な言葉を呟く。
その間に目の前の教室の住民が次々と廊下に出ていく。
「ほら。あそこを見てみて?」
校長が教室内の一部を指差す。
俺はその指を辿ってみると、そこには二人の生徒が何かを話しながら弁当を食べようとしていた。
「あの人達は…?」
「あれが君に伝えたかった記憶だよ」
「あれが?」
二人の生徒は、何かを言い争っていた。
片方は楽しそうに笑顔で、片方はめんどくさそうなやる気のない顔で。それでも二人共楽しそうだった。
「ほら、近くに行かないと会話聞こえないよ」
「うわっ!ちょ…」
校長は無理やり俺の腕を引っ張り、教室の中に入る。
そしてそのまま俺達は校長の言っていた記憶の前にまで移動する。
『ねえねえ鳩君!!今日は何する?』
『何するって言ってもいつもとやること変わらないじゃん』
『それはそうなんだけどさー。そうだ。みんなでトランプやらない?』
『俺はいいよ。ちょうど部室にトランプあったしな』
…などという会話が目の前で繰り広げられている。
基本的には金髪の少女のほうが話しかけ、黒髪の青年が相槌を打つといった感じだ。
なぜかはわからないが、俺はこの会話が懐かしいと感じた。
「どうだい?何か思い出せそうかい?」
隣にいる校長が訊いてくる。
その表情はこれまで通りの心理を読み取れないが、どことなく悲しそうな表情をしていた気がする。
「そうだな…まだ、何も思い出せない」
俺は、そう返しながら思考を巡らす。
この目の前の二人は誰なのか、そしてこの二人は俺にとってなんなのか。
しかし、どれだけ思考を巡らしてみても思い出せなかった。
「そうか。まあそんな簡単に戻るほど甘くはないよね」
校長が苦笑交じりに呟く。
そこで俺は。ただ…と付け加え、話を続ける。
「なんとなく…だが、懐かしい感じがする」
俺のその言葉に、心の内を表に出さない校長が軽く目を見開き驚いた表情をしていた。
そして、そのすぐあとにはなにか考える素振りをして
「流石カ……。記憶がないとはいえ…と呼ばれる……………はあるな。いや、これは……の時でも…し続けた…………という男だからこそ…か」
と呟いた。がしかし、
声が小さく、目の前の少女と青年が会話を続けていたこともありところどころ聞き取ることはできなかった。
「ん?今なんて?」
俺はそう訊こうとしたのだが…
「ああ、そろそろ時間だ。そろそろ戻ることにしよう」
と言われ、言及することは叶わなかった。
まあ、いずれわかることだろう。俺たちが生きてこのデスゲームをクリア出来れば…
俺は、ふと…どうやってこの記憶の世界から出るのか疑問に思ったが、数秒後に答えを知った。
その方法とは…
…そう。物理技だったのだ。俺の現実の状態としては"寝ていた"らしい。
そのため、今の記憶の世界とやらは夢。ということになる。
しかし、記憶の世界。と言っていたことから、あれは実際にあったことだろう。
実際にないと"記憶"ではなくただの"夢"になってしまうから。
しかし、夢とはいえ、あの方法はだめだろう…
アニメとかでよくある首をおもっきし叩いて気絶させるあの技。
あれを綺麗に決められた。
ただあれを成功させるためには首が折れるくらいの力を込めて叩かないといけないので、気絶する前にあの世に旅行することになってしまう。
夢だからこそ助かったものの、下手すればこの世からサヨナラバイバイするとこだったぞ。
さて、これからのことを考えることにしよう。
あの記憶が一体なんなのか。そして校長はなぜ今俺にこの記憶を見せたのか。
さらに校長はあれを見せてなにがしたかったのか。気になることはたくさんある。
しかし第一目標はこのデスゲームのクリアだ。
鬼を倒しつつ、余裕があれば調べるようにしよう。
…あ、調べるで思い出したけど。そういえば俺あいつら図書室に置いて行ったままじゃないか?
…勝手に行っちゃったし怒られそうだなぁ。
「さて、っと。記憶旅行はどうだったかな?」
先ほどまでどこか悲しむような顔で沈んでいくオレンジ色の太陽を眺めていた校長は、くるりと振り返りいつも通りのどこか不気味な笑顔で訊いてくる。
「そうだな。あんま記憶を戻すのに役にたたなかったけど、あんな記憶があったんだなって思った」
「ふむ。いいね。これからも知らないことを知っていこう。日々精進だ」
校長はどや顔でポーズを決めている。
この人なんか出てくるごとにキャラおかしくなっていってね?
まあ、気にしたら負け…かな?
「そうだ。これから君はどうするつもりなんだい?」
ポーズを解いた校長は乗っていた手すりから降りる。
この人屋上の手すりに乗った状態でポーズ決めれるって普通に考えてすごくね?
という考えが一瞬頭をよぎったが、とりあえず隅に置いておこう。
でも、特にこれからのことは決めてないな。
「そうだな…まあ、さっきまでと変わらず、鬼を倒すよ」
「ほほう。これは楽しみだ。
だが、ここからの鬼は一味も二味も違うから気を付けて戦いたまえよ」
「………」
手すりから降りた校長は、そのまま右手を振りつつ屋上の出入り口へと向かっていった。
「ここからは一味も二味も違う……かぁ」
俺はこの言葉を聞いて、ニッっと笑い…
『面白そうだなぁ。はは、いいぜ。受けて立つ……』
と呟いたのだった………




