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2.レベルと窒息

 思いつく筋トレを一通り終えたその時だった。


【レベル2になりました】


 唐突に頭に響いた無機質な音声に、ビクッと肩を跳ねらせる。


 急に聞こえた謎の音声よりもこの声が外の怪物を刺激しないかどうか不安になるが、ドアを粉砕して入ってくる様子はなかったのでひとまず安心する。


 さっきの音声、まるでゲームみたいだった。

 メモに書かれていた『レベルを上げろ』という言葉。比喩ではなく、本当にそういったものが存在するのだろう。



 筋トレしたからレベルが上がったってことか?


 そうだろうか、いやそうとしか考えられない。


 レベルが上がったからと言ってなにかあるかは今のところ不明だ。


 レベル、というゲームのような物の存在や、ドアの外の化け物、巻き戻る時間。

 色々と疑問は残るが、考えてもわかるはずがない。


 考えるべきはどうやってこの状況を打開するかだ。



 とは言ったものの……。

 やはり筋トレするくらいしか思いつかない。


 慣れない筋肉を動かして少々体は疲れていたが、無理をして再び筋トレを再開する。



 ———


【レベル3になりました】


 数時間ほどやっていただろうか。再びあの音声が響いた。


 時間感覚などとうの昔にぶっ壊れてそうなのであてにはならないが。

 これだけ時間がたって、ようやく一つレベルが上がった。

 レベル2に上がる時よりも時間が長かったように感じたのは気のせいじゃないだろう。



 ゲームで言えば、レベルアップの必要経験値がどんどん多くなっていく、って感じなのか。


 もっとレベルを上げるには途方もない時間がかかりそうだ。

 レベルを上げる意味があるかどうかもわからないため、どんどんモチベーションが下がっていく。


「ゲームとかならステータス見てモチベ上がるんだけどな……」


 つい漏れてしまった独り言に気づいてハッと口を塞ぐ。

 怪物怖すぎ。


 と、その瞬間。


 目の前に半透明の画面が現れた。


『 

  レベル  3


  魔素  0 / 0


  筋力値 14

  耐久値  7

  敏捷値  3

         』



 うおっ。


 ゲームでもよく見る、まぎれもないステータス画面。

 まさか現実にこんなものがあるとは思いもしない。

 しかし、これが今の俺のステータスということなのか。

 

 この画面が現れたタイミングから考えて、ステータスが見たいと思う、もしくは呟けばこれが見れるのではないだろうか。


 てかどうやって閉じるんだこれ。

 と思うと同時に画面が消える。


「…………」


 ステータス。


『 

  レベル  3


  魔素  0 / 0


  筋力値 14

  耐久値  7

  敏捷値  3

         』


 脳内でステータスと呟いた瞬間に再び表示される画面。

 先ほどの考えが確信に変わった。


 レベルがあがればこのステータスも変化するはず。

 それを確かめるにはレベル4にしないといけない。


 はぁ、と静かにため息を吐くと、俺は疲れ切った体にムチを打って再び筋トレを始める。



 ———


【レベル4になりました】


 その音声が聞こえたと同時に、俺は地面に倒れ込んだ。


 もうどこの筋肉も動きそうにない。

 息も絶え絶えで、落ち着くのに時間がかかりそうだ。


 ……ステータス。


『 

  レベル  4


  魔素  0 / 0


  筋力値 21

  耐久値  9

  敏捷値  4

         』


 空中に表示された画面。

 それはこの筋トレが無駄じゃなかったことを示していた。


 筋力値が 7、耐久値が 2、敏捷値が 1上がっている。

 筋力値の上がり幅が大きいのは、レベル上げの方法が筋トレだからだろうか。


 しかし思ったよりも数値の上がり具合が小さい。

 いや、レベルが1上がった程度じゃこんなもんか?


 仰向けに倒れながら、白いドアを横目に見る。


 もう、ここで目が覚めてから十数時間は経っていると思う。


 ずっとなにも食べずに運動してたせいか、すごく腹が減った。なんでもいい、なにか口にしたかった。


 部屋を見る限り、食糧の類は一切ない。

 それでも餓死するまではまだまだ時間はあるだろう。

 ドア横の小さな机とロウソク、二枚のメモ以外は何もない空間だ。


 ん? ロウソク?


 ふと気になって、ゆっくりと立ち上がると机にあるロウソクに目を向ける。


 結構な時間が経ったはずだが、ロウソクの長さが縮まる気配はなかった。

 最初に見たときとずっと同じ長さ。溶けることなく、延々と明かりを燈し続けている。

 溶けないロウソクなどに今更驚きはしないが、それなら消えない電球でもよかったんじゃないか。


 まるでロウソクであることに意味があるかのような気がして、少し寒気がした。


 思えば、換気のよくない場所で燃焼し続けると不完全燃焼が起きて有害な一酸化炭素が生まれてしまうもんじゃないのか? 知らんけど。


 いやそもそも、この部屋って外の空気ドアの隙間とかから入ってきてるよな?

 もし完全に密閉されていたのなら、もう少し経てば酸素がなくなって窒息死してしまう。


 最初にあったメモに目を向ける。

『ずっと中にいても死ぬ。』


 この言葉、餓死などのことを言っているのかと思ったが、もっと早い段階での明確な死があるのだとしたら……?


 だんだんと息苦しくなってきたような。

 いやいや気のせいだろ。


 ただの思い込みだ。そう悪いことを考えるからそんな気がするだけ。


 最初のひんやりとした空気はいつのまにかなくなり、暑苦しくて濁った空気が部屋を包んでいた。

 なぜだろう、うまく呼吸ができない。

 ちゃんと息を吸っているのに、満たされる感覚がない。


 意識がクラクラとしてきた。視界がどんどん暗くなっていくような。


 俺はドアの方へと急いだ。

 ドアノブに手をかけ、開けたわずかな隙間に口を近づける。


 おかしい。

 新鮮な空気が入ってくる気配がない。隙間はあるはずなのに。密閉されていないはずなのに。


 喉と肺が張り裂けそうになって。いよいよ意識が遠のき出した時。俺は思い切りドアを開けた。


 空気は入ってこない。

 俺の姿を見た怪物がゆっくりと近づいてくるのを、遠のく意識の中で感じた。

 

 視界が暗くなってよく見えない。

 怪物が拳を振り上げたと思ったら、ドアが粉砕していた。

 その直後、新鮮な空気が一斉に部屋中に入ってきた。


 ゲホゲホとむせつつ、胸いっぱいに空気をすいこんで肺に酸素を供給する。

 窒息の異常な苦しさと恐怖から解放された瞬間、部屋に入ってこようとする怪物と目があった。


 あぁ、クソが。

 部屋にいたら窒息で死ぬ。

 部屋をでたら怪物にやられて死ぬ。


 ふざけんな。


 どうせ死ぬんだったら、せめて一撃でもこのクソ怪物にくらわしてやりたかった。



 黒い怪物が、大きく、ゆっくりと巨大な腕を振り上げた。


 俺はすかさず、その無防備な腹にむかってできる限りの力で拳を叩き込んだ。


「おらっ!!」


 硬い皮膚。それでも手応えはあった。

 もう一度殴ろうとしたその瞬間、黒い拳が降ってきた。





【レベル12になりました】


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