第4話「立つ鳥跡を濁さず」
2020年07月07日火曜日、七夕。
“立つ鳥跡を濁さず”、耳の痛い言葉だ。
全ての出会いに一期一会で臨み、実行に移せたなら、
僕は他者からの視点で、もう少しくらいは評価をもらえてはいただろう。
けれど、倖子君に縋り付き、女々しく想い続ける事が、
跡を濁す事で得られているのなら、僕は濁す。濁しまくる。
彼女が生まれて、僕に出逢ってくれた事が、
僕を最も苦悩させ、最大に歓喜を促すものだから。
君に出逢うまでの星空は、僕にとってどれも等価値に美しいものだった。
でも、君に出逢ってからは、君という星を中心にして、
エゴに苦しみ、その痛みが、僕が居たいと思える理由になった。
20代と30代を一言で表せば、死にたかった。消えたかった。
あの頃には七夕なんて興味なかったし、
短冊に願い事なんて豊かさも、微塵もなかった。
だけど今なら、このわずかに凪いでいるこの期なら、
君に、逢いたい、そう願う。
逢って何ができるでもない。
もしも君が僕とすれ違っても、僕は人の顔が憶えられないし、
君だって、僕の様変わりにどんな反応をするか分からない。
きっと君は僕を無視するだろう。
僕は君の記憶が刷新される事で、無視されても、凄く嬉しいと思う。
もっと先の、ヨボヨボな君だって、僕は嬉しい。
僕のせかいに、君が映る事が。
けれど、一緒に過ごせる程、もう僕の社会性は高くない。
夢を現実にしない事が、今の僕の夢だ。
痛い事や苦しい事をありがたがるなんてバカみたいだけど、
それも人間に課せられた業だよね。
精神論を否定して肯定して、矛盾の繰り返し。
人生なんて、ただの波だ、涙。
僕は神様の上位存在を信じてるから、神様の願い事は、
そのお方様が叶えて下さるだろう。
僕に現実は荷が重いから、隔離され、見守られているんだ。
覚悟は必要だけど、ハッピーとシリアスの間を行き来して、
少しずつ、摩耗する。
僕の愛は神仏に管理していただき、はしゃいだり痛い目をみたり、
まるで水たまりに嬉々として飛び込む幼子と変わりない。
昔はたくさんのものを手に入れる事が「富」だと思っていた。
しかし、たくさんのものを手離す事で得られる「富」もある。
今僕は隔離され、管理されているが、生活に特に困っている事はない。
SNSなんかに触れてしまうと、たまのヘイトに心が荒れる事はあるけれど。
概ね心は凪いでいる。
僕も一年に一回でいいから、倖子君に逢いたい。
だけど、君が他の人と今一緒になって幸せなら、
それ以上に望む事もない。
君は子供が嫌いだし、多分性的な事にも抵抗があるだろう。
それが分かっていても、僕は君にどんなカタチでもいいから、
君の遺伝子が未来にのこされてゆく事を願ってしまう。
僕たちが一緒に居られた半年にも満たない時間、
僕はあんまり君を笑顔にできなかった。
自分に素直に、ただ一秒でも長く、君の傍に居られれば良かった。
どれ程の愛憎を背負っても、君の傍に居続けられる気力と体力と理解。
もしかしたら、今僕が欲しいものは、それたったひとつなのかもね。
ただ、今の僕は、もう立ち上がれない。
永遠という君を、想い続けて、あるなら来世の逢瀬を待つ。
今度は、もっと大人になって出逢いたいが、
僕の劣性遺伝子では、またこっぴどくフラれるのがオチだろう。
それでもいい。それでもいいよ。
片想いのままでいいから、次はもっとながく君を眺めていられるように。
むしろ七夕の伝説なんて、男女の理想の関係かもしれない。
今の僕は20年前以上よりも醜く矮小な身の上だ。
君に贈る花束にしては、どうにも情けない、不甲斐ない。
君が幸せなら、僕も幸せだ。
それくらい、倖子君は僕にとって切り離せない存在。
僕の今の生活には、竹もなければ、短冊もない。
何が本当の望みかも判らない。
なにもなさ過ぎて、逆に全てがつまっている。
欲しいものをあげたらキリがないけれど、
今年の七夕のお願いは、これくらいかな……、
君の役に立てますように。
それと
きみのねがいがかなうようにいのります
ありがとう あいしてる
楽曲 田中公平