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僕らが勇者を殺す理由  作者: 志登 はじめ
第一章 処刑人と錬金術師
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7話 凶襲

「ジャン!!」


 ラフィット達が急いで家を飛び出すと、そこには目を覆いたくなる惨状が広がっていた。


「ポール! 目を覚ましてよ! ポールってば!」


 悲痛な叫びをあげるジャンの腕には、血に塗れた弟が抱かれていた。瞳孔は開き、体はピクリとも動かない。手入れの行き届いていた畑も、見る影も無い程ぐちゃぐちゃに荒らされていた。


「ポール!」


 ゴルチェは子どもたちのもとに駆け寄り、二人をまとめて抱きしめた。だが、それでもポールは何の反応も示さない。


「ポール! ポール! 一体何が……クッソぉおお!!」


「ひどい……」


 ユリスはそれ以上何も言えなかった。誰が、何のために、そんな考えが頭を駆け巡っていた。


「ユリス」


「……」


「ユリス!」


「は、はい!」


「さっきみたいに薬を作って、外傷の治療はできるか?」


「え?」


「あの子の怪我が治せるかと聞いているんだ」


 混乱している様子のユリスに、ラフィットは低く落ち着いたトーンで質問を投げる。しかし、ユリスはラフィットの言葉をうまく頭の中で処理できずにいた。


「えっと、えーっと……」


「見たところ、あの子は大きな槍のようなもので腹を抉られている。息があるかはわからないが、放っておけば間違いなく死んでしまう」


「で、でも」


「しっかりしろ! あの子を救えるのはお前しかいないんだぞ!」


 ラフィットの檄を受け、ようやくユリスの頭は現状を把握するために働き始めた。

 ポールの容体は、どう見ても手遅れに見える。だが、だからといって見捨てて良いわけがない。


 ラフィットはユリスを叱咤しながらも、その目は親子とは別の方向を真っすぐに見つめていた。そしてその視線の先に何者かの姿があることを、ユリスもようやく認知した。


「ラフィット、あれは……」


「あれは俺が仕留める。あの子のこと、頼んだぞ」


「ちょっと、ラフィット!」


 ラフィットはそのまま人影の方へと向かっていく。ユリスはそれを追いかけることができなかった。ポールの治療を任されたからというのもあるが、それ以上に恐怖で体が動かなかったのだ。


「しっかりしなきゃ」


 自分の両頬を平手で叩き、突然の出来事への対処を考える。今自分にできることが何なのか、どう動くのが最善なのか。


(大丈夫。私はやれる。だって私は、天才錬金術師のユリス・ナルダーニャなんだから)


 頭の中で自分にそう言い聞かせると、ユリスはジャンたちのもとへと駆け寄っていった。


 一方、ラフィットは先ほど視界に捉えた人物と対峙していた。それは2mを超えた巨体の大男。いたるところに刺青(タトゥー)が彫られ、無数のピアスが開けられた顔面は、悪魔の形相と言われれば腑に落ちるほど凶悪なものであった。


「おいおいおいおい。いるじゃねぇかよ、鎧手がよぉ! こりゃあ運が良いぜぇ!」


 ラフィットの義手に気づくなり、男は喚き始めた。


「探す手間が省けたなぁ。やっぱり日ごろの行いが良いと良いことあるぜ。てめぇもそう思わねぇか? なぁ、鎧手ぇ!」


「……これは、お前がやったって事で良いんだな?」


「ぁあん? あのガキのことか? あぁ、そうさ。俺だよ。このベッキオ様がやった。こいつらがよぉ、ガキから金巻き上げんのにしくじったなんて言うからよぉ、しょうがねぇだろ? なぁ、そんなこと言われたらよぉ、ムカついてガキなんざブっ殺したくなっちまうだろぉ? なぁなぁなぁ!」


 ベッキオと名乗った男は、絡みつくような口調で、大袈裟なジェスチャーを交えながら自らの考えを主張する。そして、両手に掴んでいた巨大な何か(・・)を、ラフィットの前にドサッと投げつけてきた。


 その何かは緩慢に蠢きながら、ラフィットにすがるように近寄ってくる。


「あ、あぁあ……す、すまねぇ、鎧手の旦那……まさか、こんなことになっちまうなんて……」


 投げつけられたのは、ゴンズ兄弟だった。ポールほど重篤ではないが、体中に抉られたような傷があり出血の量は尋常ではない。ダインはかろうじて会話ができる状態だったが、カルネは完全に気を失っている。


「俺はさぁ、親切に教えてやったんだぜぇ? ゴルチェんとこのガキは、薬を買うために金をたんまり持ってるってよぉ。いくらクソ雑魚のダインとカルネでも、ガキ相手ならどうにでもなるって思うだろぉ? それなのによぉ、こいつらしくじりやがったんだ。理由を聞いたら『鎧手にやられた』なんて言うだろぉ?」


 ベッキオは不機嫌そうに気を失ったカルネの腹部を蹴り飛ばした。小さな呻き声が漏れ聞こえてくる。


「鎧手の噂は聞いてたからよぉ、こいつらがやられちまうのは仕方ねぇと思ったさ。勝てるわけがねぇからな。だからお手本を見せてやろうと思ったのさ。クソ雑魚のこいつらでも上手くやれる方法をなぁ。ガキなんざ、騒がれる前にとっとと抉っちまえば楽勝なんだってよぉ! キャッハハハハハ! しかも鎧手にまで会えるなんてツイてるぜぇ! こちとらてめぇに仲間を潰されて、ハラワタ煮えくり返ってたんだからよぉ!」


「すまねぇ……こいつが、こんなにイカレた野郎だとは……知らなかったんだ」


「さっきから五月蠅(うるせ)ぇんだよてめぇ!」


 瞬間的に激高し、ダインに向かって足を振り上げたその時、ベッキオの視界に銀色の腕が飛び込んできた。


「ぅガハッ!」


 文字通りの「鉄拳」がベッキオの眉間を貫くと、その身体は遥か後方へと吹き飛んでいく。


「聞いてもいないことをベラベラと。五月蠅いのはお前の方だ」

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