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僕らが勇者を殺す理由  作者: 志登 はじめ
第六章 混ざり合うもの
175/184

175話 簡単なこと

『どうして今まで気づかなかった』


『いや、違う。俺は、気づかないふりをしていただけ』


『目的を果たすために、自分に嘘をついていたんだ』


 手を伸ばすスピードが遅い。全てがスローに感じる中で、ラフィットの思考だけが通常の時間軸に追いついていた。

 過去の記憶、疑問、交わした言葉と目にした映像が頭の中で駆け巡り、一気に繋がっていく。それは、バラバラだったパズルのピースが急速に組み上がっていくような感覚だった。


『簡単なことじゃないか』


『ユリスは、深醒(しんせい)者だったんだ』


 眩い光の中で、何も見えなくなった空間の中で、ラフィットが導き出した答えは単純(シンプル)だった。だがその答えが示す現実は、あまりにも残酷だ。


『どうして、あの時ユリスは逃げ出したのか』


 ラフィットが深醒者となった時、ユリスは自らも深醒者であることを暴かれるかもしれないと、自分の犯した本当の罪を知られてしまうかもしれないと、そう思い怖くなった。だから逃げ出した。


『どうして、ニックはユリスが完全人工生命体(ホムンクルス)であることを見抜けなかったのか』


 ヴェロニクの無欠の鑑定(シースルー・オール)では深醒した瞳力(ドゥリ)の力を見抜くことができなかった。だが、それが完全人工生命体(ホムンクルス)であることを見抜けなかった理由にはならない。

 それが物であれ生物であれ、錬成物であるならば無欠の鑑定(シースルー・オール)はユリスが完全人工生命体(ホムンクルス)であることを看破しただろう。


 つまり、ユリスは完全人工生命体(ホムンクルス)ではない、普通の人間であるということ。だから見抜けなかった。


 では、ユリスが嘘をついていたのだろうか。


『違う』


 ユリスが完全人工生命体(ホムンクルス)であることは紛れもない事実。正確には、ユリスという人間になる前(・・・・・・)、彼女は完全人工生命体(ホムンクルス)だった(・・・)と言った方が適切だろう。


『考えてみれば、簡単なことだった』


 ユリスは言っていた。完全人工生命体(ホムンクルス)として生み出された自分は、不治の病に冒されたユリス・ナルダーニャの脳を自らに移植したのだと。


『そんなこと、できるわけがない』


 脳を移植したという話が事実であるなら、移植を行う前の完全人工生命体(ホムンクルス)には脳が無かったということになる。そんな生物が、どうやって脳の移植などという超高難易度の外科手術を成功させられるというのか。


『簡単な……ことだったんだ』


 ユリスは脳を移植したわけではない。


 天才錬金術師によって生み出された完全人工生命体(ホムンクルス)は、生みの親であるユリス・ナルダーニャという人間の、存在そのものを奪っていた。


 無垢に、無邪気に、残酷に、奪ってしまったのだ。


 だからヴェロニクの無欠の鑑定(シースルー・オール)を以ってしても看破することができなかった。今存在しているユリスは、本物(オリジナル)のユリスと何も変わらないただの人間なのだから。


「ユリィィィイイイスッ!!」


 やがて、辺りを包んでいた光が収束していく。


 右肩に突き立てられていた灰狼ネブルの牙は、いつの間にかその巨体ごと消えていた。千切れかけた右肩の傷痕だけを残して。


 ラフィットが叫びながら送った視線の先、まだぼんやりとしか見えないそこにあった人影は、ただひとり分だけ。

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