1話 最初の断罪
「公開処刑場」
そう書かれた看板が高々と掲げられている広場に、一人の男が連行されていく。両手首を後ろで縛られ、目隠しをされ、口には麻布を噛まされている。その足取りは重く、かろうじて覗かれた額や頬には脂汗が滲んでいた。
男を連れているのは、金色の髪を靡かせる精悍で美しい男。その腰には、不思議な輝きを放つ鞘に納められた長剣を携えている。
そしてもう一人、絹糸のような長い赤髪を湛えた、これまた美しい女だ。
「この悪党め!」
「早く殺して!」
「駄目だ! 十分に痛め付けろ!」
それを見守る観衆は熱狂の坩堝にいた。これから起こる出来事に、誰もが期待し、恐怖している。何せ、それが行われるのはこの日が初めてのことだったからだ。
広場の中央にある高台で、連行された男が跪くと、美しい女が男の口から布を外した。
「何か言い残したことはあるか」
美しい男はそう言いながらスラリと長剣を抜き、跪いた男の首にその切っ先を張り付ける。跪いた男は首筋に当てられた刀身の冷たさに体を強張らせ、その瞳は目隠しの布越しでもわかるほど涙で濡れていた。
「なぁ、頼む! 考え直してくれ! 耄碌した爺さんから金を騙し取っただけじゃないか! こんな……殺されるほどのことじゃないだろう!」
命乞い。男は罪人であった。そしてその罪人は、美しい男の慈悲に最期の希望を託したのだ。何を伝えるでもなく、ただ自らの命を繋ぐために。
「騙し取っただけ、か。そうだな、貴様らからすればそうなのだろう」
男の訴えに美しい男はただそれだけの言葉を返す。それは僅かばかりの温度も感じられない、鉛の様に無機質な音であった。その後に小さく吐き出された「下衆め」という声は、観衆の声にあっさり掻き消され、誰にも届くことはなかった。
そしてそのまま、美しい男は表情一つ変えることなく手にした長剣を振り上げる。
先ほどまで首に張り付いていた冷たい刀身が離れたことで、罪人は自分にこれから何が起こるのかを理解した。だが、それを受け入れることなど到底できなかった。
「お、おい。何をしている……や、やめろ……やめてくれぇ! 助けて! 助けてくれ、お願いだ! 勇者様ァ!!」