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死刑宣告を受けた囚人の如く真っ青な表情の如月とそれとは対象的に鼻歌を歌い上機嫌な皐月がリングに上がっていく。
「本当に戦わないといけないのですか……?私は貴女に成果を見てもらえればそれで満足なのですが……」
「報告されたくないんでしょう?師匠がああ言ったらもうテコでも動かないわよ。ここで逃げたらもっと悪い方向に進んじゃうわ。例えば執行部に直接乗り込むとか」
「ごめんなさいやりますやらせていただきます」
「分かればよろしい。私の師匠よ、全力でやっても死にはしないから安心しなさいな」
「何も安心出来ませんよ!?」
「ほれほれ、喋っとらんでさっさとかかってきい。先手は譲ったるけど……半端は許さんで?」
鈴花から威圧を込めた魔力が二人にぶつけられる。
並の魔術師ならここで戦意喪失していることだろう。
だが執行部に所属するだけの実力がある如月は折れなかった。
背負った得物の封を解き、朱色に染まった槍を構える。
「……行きます!」
気合いの入った掛け声と共に姿が消えた。
否、一瞬で鈴花の目前まで距離を詰めたのだ。
勢いを殺さず全力の一突きを放つが残念ながら相手が悪かった。
「まあまあやな。ええ早さやけどうちには届かんよ」
完全に見切っていた鈴花が涼しい顔で穂先を指先で摘んでいる。
自分の母親ながら相変わらず出鱈目だと思う。
あれで二児の母とか誰が信じるのか。
「二人がかりなの忘れてませんか師匠?」
如月の背後から皐月が飛び出し、鋭い蹴りを炸裂させる。
「来とるの見えとったから知っとるがな」
空いた方の片手で皐月の蹴りを平然と受け止める鈴花。
二人の初手の攻撃は通用することはなかった。
奇襲も失敗し、一度距離を取る如月と皐月。
「やっぱり駄目か」
「いつの間に後ろにいたんです?」
「あ、動くなーって思ったから着いて行ったのよ」
「そんな気軽に言われると立つ瀬がないのですが……」
「ほな次はうちやな」
「「っ!?」」
後ろから声が掛けられ、鈴花が移動していたことに気付くが手遅れだった。
雷撃が浴びせられ髪が焦げる匂いが漂った。
「これで終いやな」
「……まだ……終わってませんよ……」
「この位……いつもの事だわ……」
終わりを告げる鈴花だったが、子鹿のように足をガクガクと震えてながらも何とか立ち上がり根性を見せる二人。
「まだやるんやったら付き合うけど、その状態じゃ満足に動けんやろ?」
「せめて……せめてかすり傷一つくらいつけてみせます……!」
「そろそろ私も……負かされて……ばっかりじゃいられないのよ師匠!」
「よう言うた!そういうのは好きやで!ほな気合い見せてみい!」
まず仕掛けたのは皐月だった。
先の雷撃による後遺症で運動機能が損なわれているのは鈴花の言う通りであり、得意の肉弾戦は自殺行為に等しいため遠距離からの攻撃に切り替える事にしたようだ。
皐月が用意したのは幾十幾千にも起動した魔法陣。
リングを覆い尽くすそれはこれから起こり得る『災害』の名に相応しい一撃。
「『スターダストブラスト』」
発動と共に轟音と閃光が周囲を埋めつくした。




