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魔術教会執行部だと名乗るこの泣き虫な女性こと如月聖子が泣き止むのにそう時間はかからなかった。
修行の成果を皐月に見せたいとの事で睦月の事務所に訪れたと言っている訳だが、本当にそうなのかはもう少し事情を聞いてからにしよう。
「ずびっ……すまない、見苦しい所を見せしてしまったな。こほんっ……蒼崎皐月との出会いは執行部としての仕事で鉢合わせた時だった。あれは二年程前、北の方で悪事を働いていた魔術師の討伐を請け負い出向いたのだが……」
威厳を見せようと口調を戻しているようだが、先の姿を見ているので説得力が皆無である。
背伸びしている子供を見ているかのようでおかしく思えてしまう。
その証拠に睦月が笑いを耐えようと顔を背けている。
笑うなよ?また泣くだろうから。
「到着した時にはその魔術師の拠点は既に更地と化していたのだ。何かの魔術の施行に失敗して自滅したのかと最初は思ったがそこに居たのが蒼崎皐月だった。処分する予定だった魔術師をリフティングしていた」
「ぶはっ」
「むっ……何かおかしい事があったか?」
「この馬鹿は気にしないで話の続きをどうぞ」
耐えられなかった睦月は小突いておこう。
しかし何処に行っても皐月さんはいつも通りだな。
「不審者としか思えなかったので何者かと尋ねたら正義の味方だと蒼崎皐月は言った。正義の味方が人をリフティングするとは思えないので恥ずかしながら戦闘になってしまったのだが……全く手も足も出なかった。だがこちらも手ぶらで帰る訳にはいかなかったので身分を明かして身柄の引渡しを頼み込んだのだ」
「全然修行云々の話と繋がらないな」
「そう急くでない。引渡しの条件として蒼崎皐月から言われたのは強くなったら再戦という事だった。そこからは執行部の先輩方と長く苦しい修行の日々だった。だがそれも昨日までの話。修行を終え行ってこいと言われたのだ」
「ちなみに皐月さんに遭遇した事は執行部に報告したんです?」
「勿論した。何故かそこにいた先輩方は全員空を見上げていたが……あれは一体なんだったんだろうか?」
そう言えば昔、やたらと手練の魔術師とドンパチやったと皐月本人から聞いた事を唐突に思い出した。
十中八九執行部だなこりゃ。
「……憶測ですが聞きます?」
「何だろうか」
「如月さん、その先輩方にからかわれてます」
「……何だと?」
「皐月さんが何て言われてるか知ってます?」
「『天災』だろう。それくらい知っている」
「その『天災』は昔、執行部とやり合ってるんですよ。それも一対多で」
「もしかして……」
「もしかしなくても皐月さんの名前を聞いた時点で嫌な思い出を思い出したんでしょう。メンツもあるでしょうから如月さんには黙っていたんだと思いますよ。何なら本人に聞いてみます?」
「いやいや何を馬鹿な事を言っているのだ。我々執行部が束になっても敵わなかった筈がないだ……え?本人と?えっえっえっ」
ワタワタとし始める如月さんを後目に携帯を取り出し皐月に連絡してみる。
しかしこちらのコール音に連動して事務所の外から着信音が聞こえるではないか。
「私、皐月。今、弟の事務所の前にいるの」
「メリーさんごっこはいいから早く入って来てくださいよ」
蒼崎皐月本人の登場である。
「ツレないわね……ところでその女性は誰かしら?私という女がいながらもう浮気?」
「あばばばばばばば」
「覚えてないですか?教会執行部の如月さん」
「……知らないわね」
「ふぁ」
その言葉を聞き気を失う如月さん。
気の毒でしかなかった。




