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退魔の魔術師  作者: 霜野睦月
第2章 邂逅
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29

キリがいい所までと書いていたらいつもの倍くらいになってしまった……

選択肢の無いまま連行された先は実家の武道場。

しかし明らかにおかしい事になっていた。

あったはずの屋根も壁も綺麗さっぱり消えていた。

あるのは正方形に整えられた石の床のみ。

敷かれていた畳は何処へ行ったのか。


「さあ、思う存分やりましょう」


気合十分な皐月が魔力を迸らせて手招きしてくる。


「いやいやいやいや、おかしいって。リフォームってレベルじゃないでしょこれ」


まるで天下〇武〇会のステージじゃないか。


「許可なら師匠から貰ってるわ」


「私めが一時間で仕上げておきました」


「結界はちゃんと張っとるから安心しい。ご近所への騒音対策はばっちりやから好きに暴れたらええ。手を抜いたらタダじゃおかんで」


「ここぞとばかりに無駄な連携を見せるなよ!」


どうやら逃げようはないみたいだった。

脇にはご丁寧な事に解説席まで用意してやがる。


「……ああもう、やればいいんだろ!」


意を決してステージに上がる。

それを見た解説席の鈴花がマイク片手に高らかと開始を宣言する。


「勝っても結婚!負けても結婚!何でもアリの真剣勝負!二人の成長ぶりを見せてもらうで!ほな、開始やー!」


カーンといつの間にか用意されたゴングが鳴る。

それと同時に仕掛けてきたのは皐月。

小手調べと言わんばかりに複数の火球をこちらに放つ。

避ける事は簡単だがあえて避けずに受ける。

爆発による衝撃が少し骨に響くがそれだけだ。


「……結構魔力込めた筈なんだけどな」


「残念でしたね、火は効かないんですよ。それじゃお返しです」


皐月が放ったのと同数の火球を発現させて放ち返す。

わざわざ何もせず受けたのだ、この人の性格なら避けることは絶対しない。

そしてその読みは正しかった。


「生意気言うじゃないの……よっ!」


身体強化をした拳でこちらの火球を捉えるが、ただ返すだけでなく勿論仕込みはしてある。

先程とは比にならない爆発が皐月の身体を襲い、吹き飛ばすが結界による見えない壁に遮られリング外に出ることなく叩きつけられる。

なるほど、場外に出て終わりでないのか。


「けほっ……いたた……やるじゃないの。私の火球に祐君の魔力を混ぜて増強してから返してくるなんてね。この間の吸血種騒動の時に巻き添いを食らわないようにしてたのはこれのせいかしら?留めることが出来ないからわざわざ『無限武装』で対処した。違う?」


ダメージを負いながらも立ち上がる皐月。

冷静にこちらの魔術を解析しているあたりが流石だ。


「一発で見抜くなんてやっぱり天才ですね。初見殺しの魔術なんでこれで終わってくれたら有難かったんですけど」


「そんなやわな身体してないわ。うんうん、楽しくなってきたじゃない。次は何を見せてくれるのかしらね!」


魔術による攻撃がカウンターになると判断した皐月はお得意の近接戦に切り替え突っ込んでくる。

ここからが本番だろうが、それも完封してしまおうではないか。


「(『遠慈』、眼を使うぞ)」


「(相分かった)」


一撃一撃が必殺の威力を秘めた皐月の体術が繰り広げられるが、そのどれもがこちらに当たることはなかった。

打撃がすり抜ける様に当たらない。

正確には最小限の動きで避けているのだが、疑問を感じた皐月は距離を取り、睨みつけて問い掛けてくる。


「……何をしたの?」


「そんな素直に答えませんよ。これは皐月さんの望んだ勝負でしょ?手の内を全部明かすなんて面白くない。ほらほら、こっちはまだピンピンしてますよ?何も当たらないなんてちゃんとこっち見て攻撃してます?」


その挑発に青筋を浮かべる皐月。

その後も暴風の様な攻撃が続くが一つとして当たることは無かった。

何なら攻撃の合間に頭を撫でたり、顔をペシペシしたりと挑発に挑発を重ねておいた。

今までからかわれ続けた恨みをついでに晴らしておこうと思ったまでだ。


それから三十分は経っただろう。

皐月の攻撃の手が止んだ。


「はぁ……はぁ……ホント……何が……起こって……っのよ……」


息も絶え絶えに皐月が問うが答えるつもりは無い。


「秘密です」


「あー……もうダメ……勝てる気がしないわ……」


「母さん、ギブアップだってさ」


「しゅーりょー!勝者祐介!いやーさっちゃんを圧倒するとか信じられんけど結果は結果やしな。いつの間にこんな強うなっとったんや?」


「秘密」


「まあ十中八九『遠慈』の力なんやろうけど使いこなせとるっちゅー事はええ事や。ほな勝利インタビューでもしとこか。勝った感想をどうぞ!」


「感想はどうでもいいから結婚云々は考え直してほしい。嫌って訳じゃないけど流石に話が急すぎる。勝者としての権利を主張してもいいですよね皐月さん?」


至極当然の事を言ったつもりだが周囲からブーイングが飛んでくる。

ブーイングは飛鳥と音羽からのものなので無視だ。


「仕方ないけど敗者は勝者の言う事を聞いてあげましょう。けどその前に起こしてくれない?力使い果たして立てないわ」


何かありそうだと疑うが特に何も視えないので近付き手を貸そうとする。

しかしそれは罠だった。


強引に引っ張られ姿勢を崩したところを抱き締められ唇を奪われる。それはもう情熱的に。


「!?!?!?!?!?」


為す術なく口内を蹂躙され頭が真っ白になった。

遠くから黄色い悲鳴が聞こえるがそれどころではなかった。

数秒の出来事だったが体感ではもっと長かったのではと思った。

お互いを繋ぐ透明な糸を引きながら離れる皐月。


「……ふう。これで引き分けね?」


蠱惑的な笑みを携えて皐月はそう言うのであった。

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