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祐介の姉も色々とネジの外れた人種だが、自分の姉はそれ以上にネジの外れた人種だということを忘れていた睦月。
有言実行をモットーに生きていると言っても過言ではないが、大抵は碌なことになった試しがない経験がこれから起きるであろう災害に身の危険を感じる。
「姉貴、本当にやるのか……?」
「もちろん!ストレス発散バンザイ!」
「こっちの身の安全はどうなっているんでしょうか……」
「え、知らないけど」
「家族に対する情ってものはないんですか……」
「もう、仕方ないなあ。そんな睦月には空の旅をプレゼントしてあげよう。祐君のアイディアを真似ることになっちゃうけど」
「は?」
疑問に思った矢先、睦月はスーツの襟首とベルトをがっちりと掴まれる。
皐月の魔力が全身を循環し、小さな魔法陣が体を覆うように何重にも起動する。その全てが身体強化の魔術であり、魔力が注がれたことによって活性化して蒼く煌めいていく。
「よっこいしょおおおお」
全力投球ならぬ全力投人。
人間砲弾さながらの勢いで上空へと放り投げられた睦月は絶叫と共に高度を上げていく。
敬意の欠片もない、理不尽そのものへの罵声を木霊させて。
「クソ姉貴がああああぁぁぁ…ぁ……ぁ…………」
距離にして三百メートル程度、往復して帰ってくるまで約一分。それは皐月にとって十分過ぎる時間だった。
「ふふん、なかなかの好記録。よーし、それじゃ落ちて来るまでにやってみますか!」
即座にご都合主義上等結界を展開。
半径二キロの範囲を魔力量に物を言わせて覆い尽くす。
五秒経過。
身体強化に回していた魔法陣を広域殲滅のものへと転換。
魔力の充填を開始する。
十秒経過。
蒼く煌めいていた魔法陣が真紅に色を変化させ、臨界点を超える魔力が注ぎ込まれたことによりギシリと軋む音を辺りに響かせる。
二十秒経過。
「グラビティクエイク」
地面が揺れ、目に見えぬ重力によって圧縮される。
結界内の建物は過剰過ぎる重力圧に耐えられることなく更地となった。
四十秒経過。
自由落下中の睦月は見晴らしの良くなり過ぎた土地を観察する。
皐月の提案は単純なものだった。
一帯を更地にするから上空からおかしな場所を探せと。
常人には不可能な荒業。しかしそれが出来てしまうのが『天災』と呼ばれる魔術師、蒼崎皐月の力。
目の当たりにする度、規模が大きくなる成長具合に皐月の師である七神鈴花は何を教えているのかと問い詰めたくなる。
問い詰めたところで皐月自身がアレンジしてしまっているから手の施しようがないと言われておしまいなのだが。
「四か所潰れずに残っている箇所を確認っと……というか着地ってどうなっているのか心配になってきた……」
五十秒経過。
皐月は睦月の落下地点へと魔術を発動。
巨大な水球が出現し待ち構える。
ズドンッと水飛沫を上げて睦月が水球の中に着水。
衝撃で意識を失い、漂う姿が水槽の中を泳ぐ魚を彷彿とさせるが、眺めていても面白味がないので皐月は魔術の発動を切る。
放り出された睦月は地面へと顔からダイブ。
それによって意識を取り戻した。
「一瞬土左衛門になってたことについて一言」
「生きてるからセーフ。で、何か見つかった?」
「四か所、残ってる建物があった。潰れてない時点で黒だと思うんだが、すぶ濡れの状態を先に何とかしてもらえないかな?」
「手のかかる弟だこと。しょうがない、乾かすから動くんじゃないのよ?間違って消し炭にしちゃうかも」
「丁寧にお願いします」
睦月の衣服を乾かし終えてから二人は目的地に向かった。




