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襲ってきた者と同じように角を生やしている飛鳥を見て桜は狼狽えていた。
帰り道に起きた事は夢でなく現実だったのだと思い出させるにはそれほどまでに印象的だった。
その姿に小さく悲鳴を上げるが、角を除けば顔も身体も飛鳥そのもの。それ以上怯えることは無かったが、不安は隠し切れていない。
「『水姫』、何で表に出てきている」
「弟よ、怖い顔をするでない。なに、何とも下らんことだぞ?飛鳥が風呂場で盛大に転びよってな。血が少なくなっておるから気をつけろと苦言を呈しておったのに全く……このままでは飛鳥が風邪を引きかねんから妾が出てきたのじゃ」
「え、あ、うん……姉が迷惑をかけた……」
心底飛鳥を大切にしている『水姫』の気遣いであった。
自分も桜も何と言っていいのやらと微妙な空気になる。
「姉さんはすぐ起きそうか?」
「暫くは無理じゃろう。事の顛末は妾から説明してやるから、ちと待っておれ。飛鳥の寝間着はどこに片付けたのじゃ?」
「俺の部屋の物置に突っ込んである。適当に探してくれたらいいから」
「うむ。戻ってくるまでに妾のこと、御影桜に説明しておくのじゃぞ」
そう言って部屋を出ていく『水姫』を見送る。
特に迷いもなく自分の部屋に入っていったので場所はしっかり把握しているようだ。
「さて、『水姫』の事を見て反応があったので単刀直入に言いますと、あれは『鬼』です」
「えっと……昔話でよく出てくる『鬼』ってこと……?」
「その通りです。姉さんだけじゃなく、母も自分も『鬼』を宿しています。七神家は『鬼』と共存しながら退魔を生業にしている一族なんですよ。なかなか理解し難いかもしれませんが本当の事です」
「じゃあ私達を襲ってきた人と一緒ってこと……?」
「姉も『鬼』に襲われたと言っていたのでその認識で間違ってないと思います。でもこちらの『鬼』は桜さんに敵意も害意もないので安心して下さい……と言っても説得力がないかもしれませんが」
「ちょっと考えさせて……訳分からなくなってきた……祐介君や飛鳥さん、鈴花さんも『鬼』で、襲ってきた人も『鬼』……良い『鬼』もいれば悪い『鬼』もいて……『鬼』が『鬼』を退治……?」
「ええ。人に仇なす『鬼』を討つのが自分達です」
「その通りじゃ御影桜。お主は強大な『鬼』に護られておる。今回は災難であったがそう何度も遅れは取るまいて。そうじゃな弟よ?」
「突然入ってきたな『水姫』……まあそういう事です」
『水姫』に最後を言われてしまったが、とりあえずは納得してもらうしかない。ここからは結果で示して信用を得ていこうと思う。
「色々ありすぎて疲れてるでしょうから桜さんもお風呂入って休んで下さい。もう自分の部屋に戻りますから」
「あ、うん……」
「御影桜よ、飛鳥みたく転けるでないぞ?」
「ははは……」
『水姫』の気遣いに苦笑いを浮かべる桜を置いて部屋を後にする。
こちら側の話はまだ終わっていないので『水姫』を自室に招き入れて続きといこう。
「姉さんと桜さんを襲った『鬼』っていうのは何だったんだ?」
「憶測じゃが人工的に作られた『鬼』ではないかと睨んでおる。七神には程遠い技術じゃがの。制御も何も無い、ただ詰め込んだという感じじゃったな」
「人工的……詰め込んだ……」
「非人道的そのものじゃ。妾達にも心というものがあるのにのう……この問題、魔術協会の奴等が出向いて来る前に片付けねば七神は目をつけられかねんぞ。七神は妾達の家でもある。無くなってしまうのは見るに耐えれぬ。そうなっては全面戦争も吝かではないからの?」
「うちを気に入ってくれてるのはありがたいがえらく物騒な物言いだな」
「弟には分からぬかもしれぬが、七神はそれだけの事をしてくれておるのだ。感謝こそあれど恨むことは無い。これは妾達の総意じゃ」
「期待が重いな……」
「ふふっ……頼んだぞ?」
そう言って額から角が消え、飛鳥が目を覚ます。
「あれ……祐君の部屋……服着てる……しっぽり終わった……?」
「怪我人はもう寝てろ」
相変わらず締まらないまま、その日はリビングで寝る事にした。
これにて一章終了です!
ここまで貴重な時間を割いて読んで下さりありがとうございますm(_ _)m
二章は月曜日にでも投稿できればと考えております
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