29
気絶したままの桜がマンションへ送り届けられたのは二十三時頃だった。
服のあちこちが破れ、若干の血の匂いを残す飛鳥と意識を戻さない桜を出迎えた自分は動揺した。
「姉さん、何があった!?」
「帰る途中で『鬼』に襲われた。油断してこんな格好になっちゃったけど怪我は治したから大丈夫」
「……使ったんだな?」
「『水姫』にお願いした。でなきゃここまで帰って来れなかった。とりあえずシャワー浴びたいから桜さんは任せた」
聞きたいことは山ほどあるが、そう言われては何も言えなくなり、桜を寝室に運ぶことにした。
ベッドに寝かせて様子を伺うが起きる気配は今のところない。規則正しく呼吸している姿が何とも言えない気持ちにさせる。
桜が無事なのは良かったが、姉に怪我を負わせてしまった。自分の仕事なのに注意を怠った。怠慢と言わずしてなんと言えようか。負の感情が頭を支配していく。
「(未熟よな)」
内に秘める者が囁く。
「(五月蝿い)」
「(視ていれば良かったものを)」
「(そんなこと分かってる)」
「(こちらに手を出したのだ、すべき事は分かっておるな)」
「(言われずともだ。骨の一欠片も残さない)」
「(その意気や良し。楽しませてくれると期待しているぞ……さて、そろそろ『誘鬼灯』のが起きるぞ)」
言いたい事を伝えて満足したのか内なる者は静かになる。
そして桜が身を捩り目を覚ました。
「んあ……あ……飛鳥さん!?」
勢いよく起き上がるが、ここにいるのは姉ではなく自分だ。気絶してから帰ってくるまでの記憶はなくて当然なのでパニックになっていても仕方の無いことだろう。
「おかえり、桜さん」
「なんで祐介君!?え、ここ私の部屋じゃん!?え、え、え、なにこれ夢オチ!?」
「夢オチとかではないです。というかよく夢オチとかいう言葉知ってましたね……とりあえずそれは置いておいて、姉さんはシャワー浴びに行ってますよ。もうすぐ戻ってくるんじゃないですかね」
「寝ている間に私の部屋が愛の巣に!?」
「何想像してんですか止めてください」
「じゃあ何で私の部屋に……?……はっ!まさかこれから私が!?」
「……どっかで頭を打ったのかなあこの人」
「確かに打っていたぞ、気絶した時」
「あぁ、姉さんおかえ……り……」
シャワーを浴びて帰ってきた姉はタオル一枚で仁王立ちしていた。額に角を生やして。




