変身、アルタネイティブ・ブルー-02
「……何、これ。洋平、これも説明してくれる?」
「……いや、これは本当に、分からない」
恵梨香が見た所、六人全員が持つアサルトライフルに、装弾は成されているようであった。下手に動く事は出来ない。
オマケに全員の体つきも、かなり鍛え上げられている。
一人一人を相手にするのならば、恵梨香も洋平も負けはしないだろうが、そのレベルの六人(しかも銃器で武装をしている)を同時に相手するとなれば非常に分が悪い。
「ご安心を。あなた方を始末する為の部隊ではありません」
玄関口から、女性の声が聞こえた。その女性は玄関からリビングへと土足で入り込み、その姿を晒す。
女性は、スラリとした体格の、ビジネススーツを身にまとった美女だった。
少しだけ目つきは悪いが、その整った顔立ちは女性としての全てに優れていると言ってもいい。
『部隊長、指示を』
「三名でウサギと要救助者を搬送なさい。残った三名は、この二人を車へ」
『ハッ』
迷彩服を着込んだ男二人が、まずはその場で担架を用意して、血まみれの少年を運搬していき、残った一人が装甲を身にまとった女性を連れ出していく。
洋平と恵梨香の二人は、残った三人に銃を突きつけられて、仕方なく両手を上げて降伏の合図を出した。
「賢明な判断です。――連れていけ」
『こちらです』
男の一人が、丁寧な口調で洋平と恵梨香の背中を優しく押して、自宅の外に止めてあった黒いワゴン車の後部座席へと誘導した。
――恵梨香は外に出て車に乗り込むまでの約三秒の間に、出来るだけ外全域を見渡したが、彼ら以外は人っ子一人居ない状況だった。
ワゴン車のドアが閉められ、スーツの女性は助手席へ座った。
男三人の内、一人は運転席、一人は洋平と恵梨香の隣に陣取り、ライフルの装備をしまうと、腰のホルスターに装備していた自動拳銃を取り出した。
後の一人はその場に残り、何やら他の作業をやっているようだったが、それを確認する前には、もう走り出して、自宅は見えなくなっていた。
フッと息を吐いたスーツ姿の女性は、洋平と恵梨香へと視線を寄越し、ペコリとお辞儀をした。
「手荒い歓迎となってしまい、申し訳ありません」
「誠意が感じられないわね。いい加減、銃を下してくんない?」
「残念ですが、あなた方を丸腰でお相手出来る程、我々の練度は完璧では無いのです、久野恵梨香様」
「ねぇ洋平、この女ぶん殴っていい?」
「落ち着け姉ちゃん!」
「申し遅れました。私、こういう者です」
女性は、スーツの胸ポケットのカードケースから二枚の名刺を取り出し、洋平と恵梨香にそれぞれ一枚ずつ手渡した。
「えっと……防衛省情報局、第四班六課所属、野崎粧香。……姉ちゃん、防衛省って自衛隊の事だよな?」
「そうね。ただ彼女の場合は、どうやら背広組のようだけど」
「階級は一尉です。以後お見知りおきを」
「何、ウチの家に間違って爆撃でもしちゃったの? ローン後二十五年残ってんのよ? どうしてくれんの?」
「我々の仕業ではありませんが……ご自宅の修繕費に関しては、我々が負担いたします。その点はご安心ください」
「安心できねーっての。ホントに防衛省の人間かも分かんねー女にタマ握られてる状況下で安心できる無能いるんだったらぶん殴ってる所よ」
「仰る通りです。ですが、貴女は知りたいのでしょう? 何が起こったのか、その答えを」
「教えてくれんの?」
「こちらの指示に、従ってさえ頂ければ」
その言葉を最後に、恵梨香も押し黙る。それ以上喋る必要は無いと判断したのだろう。
ワゴン車は、しばし住宅街や路地裏などをぐるぐると周りながら走行していたが、やがて駅前のオフィス街にある、一つの雑居ビル前で停車した。
「あなた達は撤収を」
『かしこまりました』
運転席に座る男へそう指示を出した粧香は、率先してワゴン車を出て、恵梨香と洋平の座る後部座席のドアを開け放った。
「こちらです」
彼女の指示に従い、車を出て、そのビルの中へと。エレベーターで三階へと上がる間に、洋平は恵梨香へとアイコンタクトを送った。
(……逃げなくていいのか?)
その視線を受け取ったのか、目があった恵梨香だが、彼女は首を横に振った。
(話を聞いてやろうじゃん)
そんな思いを帯びた視線を洋平へ向けてニヤリと笑った恵梨香。
エレベーターから降りて、その奥にある一室のロックを、カードキィで開け放った粧香は、二人をその部屋へ入室するよう指示した。
「……」
「……」
「……」
「……」
そこには、ズボンを脱ぎかけたスーツ姿の男性が居た。
目と目が合う。
恵梨香と男性は、互いにポカンと口を開けていたが――しばしの時を経て、大きな口を開ける。
「いやああああああああああああああ!!」
「いやああああああああああああああ!!」
恵梨香も男性も絶叫である。
「野崎早いよ! 私もしっかりとしたスーツを着て出迎えようと思ってたのに!」
「いえ、申し訳ありません。着替えているなどとは思わなくて」
「穢れた……私二十八年間処女を貫き通したのに、こんなオッサンのパンツ見て穢れた……!」
「それより俺は姉ちゃんが未だに処女だって発言にビックリなんだけど……」
男性は急ぎスラックスを着込み、ガッチリとベルトを締めきった所で、ゴホンッとワザとらしく咳き込んだ。
「失礼、みっともない所をお見せしてしまいましたな」
「いえ、こちらこそ申しわけありません」
男性は先ほどまでの姿を忘れさせるように、ニッコリと笑みを浮かべた上、綺麗な動きで椅子へ座り込んだ。格好つけているように見えるが、どうしても先ほどのパンツ姿で威厳が台無しだろう。
だが恵梨香もフフッと笑みを浮かべながらぺこりと綺麗なお辞儀をした上で、口元を抑えた。淑女を気取っているようだが、いきなり処女宣言をし始めた彼女に対して、淑女らしさを感じる事など出来ない洋平。
(似た者同士だ)
(似た者同士ね)
洋平と粧香の思考が重なった所で。粧香は本題に入る為、二つの椅子を引いた。
「どうぞ」
「あ、すみません」
「では、失礼します」
その椅子に腰かけた二人。粧香は男性の隣に立ち、足を肩幅程度まで広げた後、腕を後ろで組んだ。