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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第三章【災い殺しのプリステス】
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シャルロット・サール・クラージュ、参ります。-07

「美咲、お願いがあるの!」


「は、はいっ!?」


「触手はアタシたちが受け持つから、アンタは全力でソイツの胴体叩き斬って!」


「こ、こんなに大きいのをですか!?」


「胴体の中に弱点がある! 赤い球体のコアだから、それを真っ二つにするだけで、コイツは消え失せるから!」



 再生し、襲い掛かってくる触手を相手にしながら、乱舞へと言葉を投げた炎武。彼女の言葉を聞き届けた上で、乱舞の元へとサール・クラージュが横並びに立った。



「奴の弱点は丁度胴体の中心部に御座います。そこに向けて全力で駆け、その刃を突き立てるだけで大丈夫です」


「はい。――あの、シャルロットさん、ですか?」


「うふふ。今はサール・クラージュですのよ。乱舞様」



 ニッコリと微笑みながら、その手に持つ二丁拳銃の引き金を引き、銃弾を四方に放っていくサール・クラージュ。


彼女の動きを見据えながら、美咲は脚部に力を込めて、強く跳んだ。


跳んだ先へ、三本の触手が一斉に襲い掛かるが、乱舞は触手に恐怖を覚える事も無く、ただ身体に力を込めた。


乱舞の全身から放出される虚力が全て、彼女を守る暴風の障壁となり顕現する。



 障壁に叩きつけられた触手は漆黒の影となって散っていき、彼女は尚も動きを止めない。


上段で刃を構えると、さらに襲い掛かる五本の触手。だがその触手を、炎武の滅鬼と、サール・クラージュの銃弾が動きを止めた。


その隙を見計らい、炎武が空中で、乱舞の背中に足を付けた瞬間――思い切りその背を、蹴り飛ばした。



「はいっ! 行ってらっしゃーいっ!」


「ちょ――ちょちょちょちょおおお!」



 蹴られた際の運動エネルギーと、落下によるエネルギーが合わさり、乱舞の地面へと落ちる速度が極限にまで高まる。落下地点には、災いの胴体が。


乱舞は、落下の速度を恐怖と感じながらも――なお刃を胴体に向け、振り込んだ。



胴体の先から、切り裂かれていく災い。



刃は鋭い切れ味を見せながら、胴体を真っ二つに叩き切ると、それは爆風と共に肉体を四散させていき、この世から消え去った。



「ぶへっ」



 顔面から地面へと落ちて、真っ赤になった顔を抑える乱舞。


そんな彼女を笑いながら見ていた炎武とは違い、サール・クラージュは驚きの表情を見せていた。



「何と言う切れ味――そして、アレが噂の固有能力、ですか」



 乱舞が有する虚力は低く見積もっても、全盛期の炎武とサール・クラージュの虚力を合計しても劣る程、膨大な量を誇っている。


その量に比例して、彼女が持つ滅鬼の切れ味、破壊力も増す。


 さらに、プリステスは太古の昔より強大な虚力を用いて、個々人が持ち得る固有能力と言うモノがあったと伝えられているが、現在固有能力を持つプリステスはいない。固有能力を使役出来るほどの虚力を有するプリステスが存在しないのだ。


 だが、神崎美咲と言う少女は、それを発現できるほどの虚力を有している。


 彼女の実力を感じながら、サール・クラージュは息を呑んだ。



「……彼女がいれば、カラミティを倒せるかもしれない」



 地震を司る災い。百年近く虚力を蓄え続け、理性や知識を身に着けた大災厄。


 その存在を倒すことの出来る逸材を見つけた気がして、彼女は一瞬だけ笑みを浮かべた――



が。その笑みは一瞬で崩れ去った。



頭の中に流れてくる、一つの情報。


 それは、彼女の両手に装着するアルターシステムを通じて――聖堂教会が伝える新たな任務だった。



「まさか……聖堂教会が、そんな……!」



 両足がガクガクと震える感覚。それと共に心を犯す絶望感。


その二つを感じながら、サール・クラージュは、再び乱舞を見据えた。


乱舞は、炎武に頭を撫でられながら、その笑顔を彼女へと向けている。


炎武も同様だ。彼女はニッコリと笑みを浮かべながら今、変身を解こうとした。



だがそこで、彼女もサール・クラージュと同様の任務を受信したか、笑みを崩し、乱舞を見据えた上で、サール・クラージュへ視線を寄越した。



サール・クラージュの表情を見据え、その上で彼女は……まるで絶望を一身に受けたかのような表情を浮かべながら、乱舞の前に立ち尽くし、滅鬼を構え直した。



「花江さん?」



 そう尋ねる乱舞の声など、聞こえてもいないだろう。


彼女は荒れた息を整える様にしながら、尚もその視線と切先を――サール・クラージュへと向けた。



「気付いて、るんだよね。サール・クラージュ」


「ええ。気付いております」


「アンタは、どうするつもり?」


「……私は聖堂教会に御心を捧げた身で御座います。その決定に、従う他ありません」


「させない。美咲は、アタシが巻き込んだんだ。美咲は、アタシが守る」


「そう、仰ると、思っておりました」



 サール・クラージュは、右手をゆっくりと持ち上げて、手に掴むグリップを握りしめた後――引き金を、引いた。


静かな発砲音と共に銃弾は空を切り、真っ直ぐに伸びていく。



射線の先に居る人物は――乱舞。



だが顔面に銃弾が着弾すると思われたその時、銃弾を防いだのは炎武の持つ滅鬼だった。


滅鬼の刃が銃弾を切り、その真っ二つに切り裂かれた銃弾は地面へと着弾した。


一瞬の事で、何があったかを理解できていない乱舞は、サール・クラージュと炎武を交互に見据えた。



「しゃ……シャルロット、さん? 花江さん?」



 声には、怯えが含まれている。


声を聞き、炎武が地を蹴って、それと同時に叫ぶ。



「美咲、逃げてっ!」


「え、え……?」


「コイツは――聖堂教会は、アンタを殺す気だ!」



 滅鬼の刃を横薙ぎで振り込んだ炎武の攻撃を、右手に持つ拳銃のフレームで防いだサール・クラージュは、左手に持つ拳銃の銃口を、炎武の頭部に押し当て、引き金を引いた。


一瞬早く、頭を後方へ動かしていた炎武の動きは幸いし、額をかすめるだけで終わる銃弾。


しかし、二人の戦いは終わらなかった。


切り、撃ち、そして肉弾戦闘を行った後に、今一度切り込みと撃ち込みを再開する。


そんな争いを一瞬一瞬で繰り広げる二人の戦いを見据えて、乱舞は先ほどの事を思い出していた。



――聖堂教会は、私を殺そうとしている。


――カラミティの言う通り、サール・クラージュは、聖堂教会に逆らう事は出来ない。


――このままでは、殺される。



息を呑み、その場から駆ける乱舞の姿を見据え、銃口を向けようとしたサール・クラージュ。


 だが、彼女の動きすら見据えて、刃を振り切る炎武。



「させないって、言ってんでしょうが!!」


「聖堂教会の決定です。これを覆すことは、誰であっても許しません――!」



 二人の怒号は、響かずに消える。


今や運動場に残る人物は、彼女達二人のみとなった。

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