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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第一章【聖域のアルタネイティブ】
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変身、アルタネイティブ・レッド-04

 青年――シェリルは、ニコニコと笑みを浮かべながら、アルバイトへの道のりを歩んでいた。


どこか満たされている感覚を感じて、お腹をさすった。満腹感と共に喜びも多く感じ取れ、足取りも非常に軽やかだった。


そんな彼に向けて――一つ、手が伸びた。手はシェリルの二の腕を掴み、住宅街の裏路地へと引っ張っていく。


 だが、シェリルは冷静だった。すぐに自分を掴んでいる腕を逆の手で掴み返し、その者を睨み付けた。



「やっと、ボクに狙いを付けたね」



 被っているフードを掴んで払うと、赤い瞳と鋭い牙、そして甲殻のようにも見える荒れた肌を見せたそれは、口を開いて言葉を紡いだ。



『シェリル、我が同胞。なぜ我々の邪魔をする』


「人間と言う社会を、ボク達の都合で壊すことは許されない。人間は、ボクが守る」


『全ては我々の生存の為。それを邪魔すると言うのならば、容赦はしない』



 牙を見せつけるように、巨大な口をこじ開けた後、噛みついてくる異形のそれを、一つの光の壁が遮った。


 それと同時に距離を取ったシェリルは、右手の中指にはめた、黒光りする宝石の埋め込まれた指輪を左掌に押し付け、一言。



「変身」



 言葉と同時に、宝石が押し込まれた指輪から眩い光が放たれた。


光はシェリルの全身を包み込むと同時に、身体を変化させていく。


百七十センチ近い男性の体格は縮み、百六十前半程度の細身になり、爽やかな男性の顔立ちから、幼くも目鼻立ちの整った、綺麗な顔立ちに変化、頭髪も肩まで伸びていた金髪を、頭頂部の右側部にまとめたサイドテールに。細くも逞しい胸板は、僅かに膨らみを帯びた乳房へ。引き締まった腰、強調される臀部等――女性の体格へと変わっていった。


最後に、秘部を隠す様に展開された、黒光りする装甲をまとった彼……否、彼女の名は。



『アルタネイティブ、か』


「行くよ――【エネミー】」



 彼女……アルタネイティブ・ブラックは、ハイトーンの綺麗な声でその名を呼ぶと共に、地を蹴って【エネミー】と呼ばれた異形のそれに、殴りかかった。



**



「あ」



 買い物を終えてスーパーから少しだけ歩いた先で、洋平が思い出したように声を出した。


前を歩いていた荘司だったが、その声に振り返った。



「どうした?」


「いや、姉ちゃんのお菓子買い忘れた」


「戻るか?」



 そう荘司が尋ねるが、少しだけ考えた後に、洋平が首を振った。



「さっきの人のお礼も兼ねて、そこのコンビニで良いよ。そっちなら菊谷も帰り道だしな」



 歩いて五分と、それ程遠くない場所にあるコンビニを目指して、歩き出す二人。


だが、ふと荘司が住宅街の奥へと視線を向けた瞬間、洋平の鼻腔に妙な匂いが漂ってきた。



「菊谷、これ」


「ああ。――血の臭いだ」



 ツンと鼻先を通る鉄の臭いが二人の感覚を刺激したのだ。少々指を切った、転んで足を擦りむいた程度では、この匂いは感じ取れないだろう。


 ――必然的に、大量に出血した何者かがいる筈だ。


普段から、二人はその臭いを嗅ぎ慣れている。


 それは喧嘩などの不祥事が絶えない玄武高校に在籍する生徒だからこその嗅覚かもしれないが、洋平はグッと顎を引いて、臭いのする方へ向けて走り出すと、荘司もそれに続いた。


臭いを辿り裏路地へ入りまた裏へ……と走っていると、誰も近づかないような、マンションとマンションの間の小路地へ入り込んだ。



そこには、一人の少女が肩や腹部から大量の血を流し、地に腰を付けていた。



少女は、妙な恰好をしていた。その顔立ち、サイドテールの髪型には、何らおかしな所は無い。洋平はただ可愛い子だ、と言う印象しか沸かなかった。


だが首から下は全く別の印象である。まず身体全体に衣服は着込まれておらず、女性器や乳房を隠すのは、布では無く鋼鉄の装甲と呼ぶべきものだった。


 慎ましい胸にはガッシリとした装甲が取り付けられ、スラリとしたラインの腰部とヘソは何も覆っていない。かと思えば、臀部や秘部にはまるでフロントアーマーと呼ぶべき装甲が装着されていて、さらに脚部全体も甲冑のブーツと形容できる物を履いている。



「あ……っ、はぁ」



 荒れた呼吸、虚ろな目線。少女は洋平と荘司の二人に視線を向け、ギッと歯を噛み締めながら、彼らへ言い放つ。



「こ……ここは、危険です……は、早く、逃げて……!」


「何言ってんだ! アンタの方がよっぽど危険な状態じゃんか!」


「い、いいからっ! ……早く、逃げないと、奴が……!」


「奴ってのは――あの赤いフードか?」



 少女の言葉を遮り、荘司が発言すると、三人の目の前から、赤いフードの服を着込んだ、謎の生物が歩み寄ってくる。


甲殻のような荒れた肌、鋭く伸びる爪と牙、そしてギロリと睨み付ける様な、赤く鋭い眼光。


それは――化け物と呼ぶにふさわしい外観をしていた。



「おい女。あいつは何だ」


「え、ッ……エネミー……!」


「エネミー……?」


「逃げて……ボクを、置いて……逃げてっ!」


「女一人置いて、逃げられるかよ」



 荘司は、玄武高校のブレザーを脱ぎ捨てると、制服のネクタイを緩め、右手の拳をゴキゴキッ、と鳴らした。



「洋平。その女連れて逃げろ」


「分かった。――無茶すんなよ、菊谷」


「誰に向かって言ってんだ。……早く行け」



 洋平が、少女の身体を抱き寄せ、路地から走り抜けると、エネミーと呼ばれた異形の姿をした生物も、その背を追いかけようとしたが、そんなエネミーの顔面に、拳が襲いかかる。荘司の剛腕が顔面に食い込むと、壁に体を叩きつけられ、よろめいた。



「どうした。その程度かよ化け物」


『邪魔をするな、人間』


「状況はよく分からねぇが――化け物と喧嘩すんのは初めてだから、加減は分からねぇぞ」


『バカが』



 鋭く伸びる、肥大化した三本の爪を、荘司の腹部へと突き付けてくるエネミー。


切先から僅かに逃れた荘司は、左足を軸に身体を捻り、右脚部を振り込んだ。


ゴスッ、と。鈍い音を響かせながら、腹部にめり込んだ右足。だがそれを、まるでものともしていないように、口内の牙を向け、荘司の首元を噛み砕こうとしていた。



「気持ち悪ぃんだよ……!」



 だが、荘司は恐れぬ。大きく開かれた口内へ、自身の右手を振り込んで身体を吹っ飛ばすと共に、自身の手が牙により無数の切り傷が付いている事に気が付いた。



「ちっ」



 舌打ちと共に周りを見渡し、時間稼ぎが十分である事を悟って、身を翻し走り去る荘司。


その姿を、エネミーはジッ……と見据えていた。

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