表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【災い殺しのプリステス-銀世界の女神-】
177/190

チャプター-08

 彼の言葉に、美咲はフゥと息を吐きながら目を閉じ、全身に虚力を巡らせる。


循環する虚力を認識した状態で、彼に対する怒りを沸々と湧き上がらせると同時に、アルターシステムを模した指輪同士を繋げ、手首を捻る。


ガチリと音を奏でた瞬間、美咲は全身に巡らせる虚力に、命令を下すようにして、叫びをあげた。



「変身!」



 声と共に、美咲の全身を覆う虚力が、爆発するように弾けた。


その弾けた虚力の余波だけで、ヘルテナ城に降り注ぐ雪の量が経る程の暴風は、フェリシモの目を見開かせ、肌がヒリヒリとした感覚を味わう程の、殺気が漏れ出す。


爆風の中から一歩前に出た美咲――プリステス・乱舞の姿は、普段の彼女とは異なっていた。


本来ならば足元まで伸びている袴は膝上程度までしかなく、また髪を束ねる長丈は無く、その長い髪の毛はサラリと下ろされていて、彼女が展開する暴風によって乱れる様に舞うし、オマケに長太刀である【滅鬼】は脇差程度の長さにまで短くなっている。


虚力増幅装置たるアルターシステムを用いずに変身したからこそ、彼女の虚力量が少ない状態である事を示す、プリステスの不完全形態ではあるものの――しかし、美咲には充足感があった。



「は、ハハ。ヤバいなお前。虚力の総量は本来代わってない筈なのによ」


「最近、自由に虚力量をコントロール出来るようになってきました」


「天性の才能をお持ちだよ! そんな奴だからこそ攫ってきたが、しかしその才能は惜しいな!」


「ちょっと黙ってもらえませんか? ――私、貴方の事が心底嫌いみたいなんですよ」



 声を聴いているだけで殺意が湧いてくる人物など、初めてだった。


かつて戦った強敵、カラミティにはまだ、同情の余地があった。


感情を得たからこそ死というモノに恐怖し、美咲の虚力を用いて死しても蘇る事の出来るシステムを生み出そうとした彼は、確かに花江を傷つけ、人類を滅ぼそうとする悪であったとは思う。


 だがしかし、災いという存在が持つ『災厄をまき散らす』という目的の為に行動をしており、プリステスと敵対する彼を悪としても、非人間……というよりは非災い的であったようには思えなかった。


かつてアルタネイティブ・クロスとして戦った、サニスとカリスという存在も同様に、滅びゆく世界で食料としての存在しか許されなかった彼女たちには、人類へ反旗を翻す理由もあった。


それを許さないとした美咲達とも戦ったが、彼女たちを完全なる悪と断じる事は出来なかったのだ。



だが、この男……フェリシモは違う。



この男はただ戦いを求めているだけで、この世界を救うだとか、ブリズリーの民を救うとか、そうした大義名分すらなく、ただ闘争を求め、闘争の後にも闘争へと繋げようとする、ただの戦闘狂でしかない。


彼の言う通り、美咲も生の価値観が狂った存在かもしれない。


だが、だからこそ――同じ狂った人間の気にくわない所を見て、苛立ちが募るのだろう。



滅鬼の刃を抜き放ち、構えてこちらの隙を伺うフェリシモの拳が、僅かに動いた事が、開戦合図だった。


振り込まれた拳、しかし暴風を用いて彼の放つ拳の勢いを殺しつつ、受け流すと共に、滅鬼を振るう。


その腹部に向けて振り込まれた一閃だったが、しかしあまりの堅さに刀を持つ手の方が衝撃に負け、弾かれてしまう。


乱舞の手から離れた滅鬼。


続けて幾度も、素早く乱舞へと振り込まれる拳を、全て風で威力を拡散させながらも、頬や腹部で受ける。


元々戦闘時における攻撃力……否、肉体の堅牢性を上げる事が出来る能力を持つのか、その威力を拡散しているにも関わらず、重たい一撃一撃が、確かなダメージとして蓄積される。



「ハハッ、その程度かよプリステス!」


「ッ!」



 嫌いな声がまた聞こえたからだろう。


乱舞は今振り込まれた拳の一打を、右手で受け止め、その手を引くと寄せられる彼の顔面に、左拳を叩き込む。


堅く、腕から衝撃が走って全身が痺れるようだったが、しかし雄たけびを上げながら、美咲は続けて掴んでいた彼の左手を放し、右拳を鳩尾付近に叩き込んだ。


風を纏わせた一撃が彼の腹部を抉る様にし、堅牢な肉体をそのまま吹き飛ばす。


身体を回転させながら廊下の端まで吹き飛ばされた彼が、壁へ衝突して血反吐を吐きながらも、尚乱舞へと向かってくる。



「まだだ……足りない、足りないんだよぉ……ッ!」


「……何故、そこまで争いを求めるんですか?」


「求めねぇ、種なんざ、ねぇ……! オレは男で……オメェはメスだ……、その違いが、分かんねぇんだろうなぁ……ッ!」


「戦いを嫌う人もいます」


「そういう奴は淘汰されていくだろうが……、生きていけねぇじゃねぇかよ、戦わなきゃ生き残れねぇし、戦わなきゃ勝ち取れねぇから戦う、勝ち取る事が嬉しいから勝ち取る! ただ、それだけだ――ッ!!」



 両足を動かし、乱舞へと駆け抜けてくる彼の言葉は、乱舞にとって理解しがたい、狂人の言葉。


故に弾き飛ばされた滅鬼の柄を握り、彼の振り込んだ腕を避けながら、刃に虚力を通し、全力の暴風を顕現させながら、振り切ると、滅鬼の切れ味に合わせ、暴風による風の刃によって、彼の全身はズタズタに切り裂かれながら、血をまき散らしていく。


肌の表面と肉を少し切っただけなので、死んではいないだろう。



「何故……殺さねぇ……っ」


「殺す価値も無いってやつです」



 刃を収め、虚力を押さえつけると、自然と変身が解除され、廊下から見える外の様子を見据えながら、美咲はただ、その場へと向かう為、駆けだす。



宮越花江と、シャルロット・クラージュの二名は、空を駆けている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ