プロローグ-03
そんな時間を過ごし、太陽も僅かに落ちかかってきた四時頃には、三人もプールから上がってシャワーを浴び、ラグーンプールから出た。
軽く買い物をしていこうかという話になり、併設されていたアウトレットパークへと足を運ぼうとした三人だったが――しかし、そこで花江とシャルロットが足を止め、首を傾げる美咲を放り、目を細めた。
「ねぇサール・クラージュ、気付いてる?」
「ええ――人払いが張られていますわね」
「え? えーっと……アレ?」
ラグーンプールからアウトレットパークへと向かう為の道まで、本来ならば直通である筈なのに、プールへと向かう者、アウトレットパークへと向かう者、どちらの者も見えず、ただ閑散としている。
だがプールはまだ解放されているし、アウトレットパークはプールから上がった者達で賑わうべき筈の時間であるのに、これはおかしいとしたシャルロットと花江が、ポケットに備えていたアルターシステムを取り出し、装着した――その時。
ゴウ、と冷たい風が三人を襲う。
「えっ!? な、何、寒っ」
美咲は思わず身体を震わせ。
花江とシャルロットの二者は、アルターシステムを構えながら、風の発生場所を見据える。
――何か、黒い門のようなものから三人の男が姿を現した。
その身体には夏の時期には珍しい雪が積もっているが、しかし蒸し暑い空気を浴びても、尚もその雪は溶けない。
「おい、どいつがカンザキ・ミサキだ」
門が閉じられて、雪を払いながら問う、一番手前にいた男が声をあげる。
黒い髪の毛を全てオールバックにした、引き締められた肉体を有する大男だ。身長は二メートルはあろうかと目せる程で、合わせて筋肉量が多いのか、等身が高いと目せるだろう。
「え……あの、貴方たちは……?」
何が起こったかを理解できずにいる美咲が呑気に声をあげたので、シャルロットと花江が前に出て、彼女の壁となる。
「あ、その反応で丸分かりーっ! そこの前髪を分けてるお姉さんがカンザキ・ミサキだねっ」
相反して、身長が百六十あるかどうかという小柄な少年が声をあげ、美咲の事を当てる。紫の髪の毛を肩まで下ろしたパーマのかかった美少年で、もう少し声が高ければ女の子と見紛えていたかもしれない。
「……アンタら何モン? 美咲に何の用よ」
「この周辺に人払いを展開しているのはあなた方ですか? どうやら普通の人間ではなさそうですが」
「ご明察です。我々はあなた方から見れば【異世界人】という表現が一番適切な者でしょう」
笑顔を見せながら、しかし鋭い目つきで美咲を見据える男が。二者の中間、身長は百八十センチ程度で、赤い髪の毛を首元まで伸ばした、男と考えればロングヘアをなびかせながら、手を伸ばす。
「カンザキ・ミサキさん。貴女に、私たちの世界【グリズリー】をお救い頂きたいのです。――その膨大な虚力を使って」
その言葉を聞いて、花江とシャルロットの二者は、すぐにこの三人が敵だと認識。アルターシステム同士を繋げ、手首を捻る。
「変身っ!」
「変身」
指輪の宝石に浮かび上がる梵字と共に、二者が光に包まれて変身を終える。
宮越花江が【プリステス・炎武】へと変身し。
シャルロットが【プリステス・サール・クラージュ】へと変身。
炎武が【滅鬼】を構え、サール・クラージュがハンドガンを顕現させ構えるタイミング。
そして一番高身長の男が、顎をクイと美咲の方へ向け、二者へと指示を出すタイミングが、一致した。
炎武が先手必勝と言わんばかりに滅鬼の切っ先を、高身長の男へと向けようとしたタイミングに合わせ、紫髪の少年が、いつの間にか構えていた一本の剣によって軌道を変えられる。
「あは、血の気多いよお姉さんっ!」
「るせぇ! 美咲を狙う奴ぁ全員敵って決まってるんだよ……っ!」
素早く振り込まれる炎武の刃だが、しかし全て異なる剣が、それを弾き返し、防いでいく。
いつの間にか手に収まっているその剣は、全て同一の剣に見えるが、しかし滅鬼が与える衝撃によって刃が僅かに欠けても、次の剣が手に収まる時には、その欠けた部分が見当たらない所を見ると、全て別の剣と仮定せざるを得ない。
だが、炎武はそんな事を考える事も無く、ただ我武者羅に刀を振るう。
そして実際、彼女の猛攻に少年はついていくのがやっとと言った様子で、刃を捌くごとに余裕がなくなっているようにも見える。
対し、プリステス・サール・クラージュと赤髪の男の攻防は一進一退と言った様相を示している。
手に持つ二丁のハンドガンを構え、撃ちながら接近しようとするサール・クラージュに対し、赤髪の男はどこからか取り出したクロスボウを右腕に装着し、その矢を打ち込んだ。
どの様にしてリロードをしているのかは不明だが、一秒間に撃ち込まれた三発の矢は、全てサール・クラージュの頭部と両脚部を狙っていた。
地を蹴る事で全て避けたサール・クラージュだったが、しかし――
「甘いですね。ただのクロスボウでは無いと、見ただけで分からなかった貴女の不始末だ」
「――っ!?」
放たれた矢が、地面へと当たると、全てが跳ね返る様にして、サール・クラージュの方へと方向を変え、再び迫る。
急ぎハンドガンを三射し、その矢に当てる事で撃ち落としてようやく動きを止めたが、しかし続けて放たれる二発の矢も、同様の動きを見せた。
「チッ――!」
舌打ちをしながら、二丁のハンドガンから放つ銃弾だが、しかしそれは防御だけではなく、隙を見つけると赤髪の男へと撃ち込み、攻撃の手は緩めない。




