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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・ヴァンプ-Bloody Castle-】
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chapter.18

 彼の嘆きを、直哉はただ聞き届けた。


こんな人でも、確かに自分の父であり、近くでただ、親子喧嘩を見据え、両手を合わせる六美の、夫だった者だ。


その嘆きは――きっと息子であり、宿敵になり得る、自分が聞き届けないといけないと思った。


だが――聞く価値もない戯言だと分かると、直哉は血で濡れながらも、綺麗な歯を見せつけ、高らかに笑う。



「あ、あはは、あはははっ、ははは、はははっ、ば、ばか……じゃん、アンタ」


「直哉?」


「さっき、からさぁ……ボクの、望みは……言い続けて、ごふっ……言い続けて、た、じゃんか……、それを、理解できない……しないアンタが……どうして、ボクに、自分の望み、だけは……理解してもらえると……思ったのさ……っ」


「それは」


「アンタ、ホントに歪んでる……神さまの力は、手にしてても……その心は、想いは……神さまなんかじゃない……、悪魔だよ、ただの。


 ……悪魔は……司祭様に、祓って貰わなきゃ……ね……ッ!」



 セイントのアルターシステムを力の限り、ただ六美の方向に向けて、放り投げる。


その意味が分からず、ただ目線で追うだけだったオルタナティブ・ヴァンプの――目付きが変わり、憤怒を表現する。


その怒った姿を、直哉は見て等いない。


彼の眼には――彼が、心の中で飼う、乙女の心が理想とする、漢の姿が、そこにある。



「――やっぱり、それは君にこそ一番似合うよね」


「そうか。ならば己がこの力で、直哉を狙う悪魔を、祓うとしよう」



 全身を痛めつけられている筈なのに、尚も毅然と立っていた者がいた。


二メートルを優に超え、身体に蓄えた筋肉は誰もが圧巻とさせられる、巨漢。


漢は直哉から投げ放たれたセイントのアルターシステムを空中で掴み取ると、即座に両手の中指へと装着する。


両の手を拳に、そして力強くアルターシステム同士を接続させ、手首を捻る。


カチリと音を鳴らすと同時に、奏でられる変身音声。



〈Alter・ON〉



 ブンと左手を真横に振り抜き、今まさに飛び掛かり、襲い掛かろうとしたマリスを殴り飛ばすと同時に、彼が変身コマンドを音声入力。



「変身」


〈HENSHIN〉



 暴風と共に光が発せられ、変質する彼の肉体と、装着されるアルタネイティブ・セイントとしての装甲。


その姿は、それまでの漢とは異なり、身長は百八十センチ台の、それでも高いと目せる女性の姿となり、筋肉というのは見る影も無いように思う。



しかし、だがしかし。


彼女が一歩、強く床を踏みつけた瞬間。


城砦最上階の床に亀裂が走り、床が倒壊した。



部屋の中央へとやってきていたアルタネイティブ・セイントと、彼女へ殺意の視線を向ける、オルタナティブ・ヴァンプが、吹き抜けとなっている最上階下の階から一階まで、落下しながら、しかし床の瓦礫に足を乗せ、思い思いの言葉を投げかけ合う。



「瀬上章哉。オルタナティブ・ヴァンプ。その心をヴァンパイアとして覚醒させ、神霊の頂に立ちながらも、神の名に相応しくない愚か者。十三年前と同じように、己が貴様を討つ」


「豊穣志斎。アルタネイティブ・セイント……ッ! 貴様は、何度オレの邪魔をすれば気が済むッ!?」


「貴様が討たれるまでだ。――その命、神に返還せよ」


「ほざくな、紛い物が――ッ!!」



 互いに瓦礫同士を強く蹴りつけ、落下しながらも繰り出す攻撃の数々は、常人には捉える事の出来ない程の、瞬速。


セイントの繰り出す拳一打一打を受け流しながら振るわれる魔剣の振り込みを、全て拳を打ち込む事で砕くセイント。


そんなセイントに舌打ちをしながら、両手を空に向けて掲げたオルタナティブ・ヴァンプ。


空中に顕現し、今まさにセイントへ向けて降り注がれる、二十七の魔剣。


しかし、その全てを、セイントは拳で迎え、打つ。


連撃の拳が二十七の魔剣、全ての刃を破壊しつくすと、そのまま瓦礫を蹴り付け、魔剣の雨を降らせた張本人に向けて、強く拳を突きつけた。


腹部へと叩き込まれたセイントの一撃、その上で彼女は、今殴りつけている右手の拳に、アルターシステムをかざした。



〈Alter・Punch〉


「アルターパンチ」



 短く唱えられた言葉と共に、今オルタナティブ・ヴァンプの腹部を捉えたままの拳が、スラスターを吹かし、軌道を上空ではなく、床へと向けて、急速に落下を開始。


おおよそ十階分ほどの高さを有した場所からの運動エネルギーと、その速度を兼ねた落下衝撃は、およそ人間であれば、生きていることが出来ぬと断言できる程の、一撃。


それを、セイントは打ち込み、オルタナティブ・ヴァンプは、受けた。


一階エントランスとも言えるフロアに、強く叩きつけられた衝撃で、城砦自体に強く亀裂が入るが、しかし――それでも尚、オルタナティブ・ヴァンプは健在だった。



「効かんというのが、何故分からん――ッ!」



 今の今まで腹部に突き立てられていた拳の手首を握り、グギリと骨の関節部分が砕ける音と共に、セイントの腕を引っこ抜く。


彼の腹部を強く蹴りつけ、城壁に叩きつけた上で魔剣を四本顕現させる。


セイントの両手両足に突き立てられた剣に、うめき声をあげるが、しかし嘆きは決して上げない。



まだ戦える。



自分はまだ、この悪魔を祓っていないのだと。


そうした決意が見えて、オルタナティブ・ヴァンプは、汚物を見るかのような表情で、吐き捨てる。

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