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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
第三章【聖域のアルタネイティブ】

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ワルツ-01

 そこは瓦礫のような姿をした様々な機材が置かれる、一つの部屋だった。


 窓は無い。日光一つ入らぬその部屋にある灯りは、小さいランタンのみである。



 ワルツとシェリルは、ランタンを中心に椅子へ腰かけていた。


 シェリルはその手に二つの指輪を持って、その物へ憂いの表情を浮かべていた。


何を考えているかは分からない。ワルツはシェリルへ「おい」と問いかけた。



「ソイツは何だ」


「アルターシステム。【ミューセル】の民を救う事が出来る、唯一の手段と言ってもいいだろう」


「チキュウって世界を支配する為のモンか?」


「違う。地球の民には地球の民の文化が、思想が、そして暮らしがある。


 その暮らしを脅かすことなく、我々が生き延びる為に必要な……そうだね。そういう意味では、力と言っても良いだろう」


「力か、そいつは良い。んじゃあオレに寄越せよ」


「そう、そうだね。それが良いだろう。君にはただ破壊するだけ等、似合いはしないから」


「なんだ、そいつは力なんじゃねぇのか」


「力ではあるよ。だが力は破壊する為だけのものでは無い。


 力と言うのは、何かを生み出す為にも存在する。その存在になるのは、君であるべきだと思う」


「なぁ。オレはバカだからよ、頭の良いお前の言っている事は、ちっとも理解できねぇんだ」


「今はそれでいい。この力は、君に正しく使ってほしいと思う。それが出来ると、ボクは信じている」



 指輪の一つを手渡してくる男の事を――『彼』はじっ、と見据えていた。



「なあ、ワルツ。ボクは君に、知ってほしい事があるんだ」


「何だよ」


「虚力って言うのは、感情のエネルギーなんだ。言ってしまえば、ボク等が糧とするものは、何も虚力そのものと言うわけでは無い」


「そうなのかい。オレがいつも食ってんのは、オレが思ってたもんと違うって事か」


「そうだね。君が、そして多くのエネミーが食すエネルギーは、捕食者の【恐怖】だ。君はその為に、力を付けすぎてしまった」


「そりゃそうさ。オレには力以外、何もねぇ。お前みたいに頭もよくなけりゃ、じっとしている事も性に合わねぇんだ」


「それは違うよ。君は、知らないだけなんだ。まだ何も知らぬ、幼子なだけ」



――だがボクは、そんな君を【アイ】したんだ。



そう口にしたシェリルの笑顔は。


ワルツにとって、かけがえの無い友情の証しに他ならないのだった。



 **



 秋音市のビジネス街、その只中にある一つの雑居ビルに、防衛省情報局第四班六課――通称【四六】と呼ばれる部隊による『エネミー対策本部』が設置されている。


野崎粧香はその一人である。彼女は二つの写真を持ち、支給されたパソコンで報告書を作成していた。


一ヶ月前から、存在の確認された異形生命体・エネミー。その存在は本来であれば、確認すらできない筈の、異世界から現れた侵略者である。


異世界――ミューセルからの脱走者・シェリルの協力によってその存在を感知・迎撃できるシステム構築を行う事が出来た事は、彼の功績だ。


また彼が選び、協力者となった二人の高校生――玄武高校一年三組所属、久野洋平と菊谷荘司の活躍もあり、エネミーが発生しても、その処理は的確に行われている。


だが粧香を含め、この部署に勤めている者は、誰もがシェリルを信用していない。所詮は脱走者だ。出してくる情報に価値はあれど、その全てを信用し、そして彼に感謝する事は無い。


おまけに彼も、全面的に四六へ協力しているわけでもない。


アルターシステム――エネミーに一個人がようやく対抗しうる技術の提供を、彼は拒み続けている。


そこまで報告書へ打ち込んだ所で、チッと舌打ちした粧香は立ち上がり、上司である秋山志木に声をかけた。


 志木は五十過ぎの男性だ。そのくたびれたスーツと、少しだけ薄くなってきた頭髪がどこか寂しさを誘う、初老の上司。



「課長。上は何と」



 彼女が言う【上】とは、防衛省の重鎮たちであろう事とは、志木にも理解できた。


 彼女の上官である志木も、言ってしまえばただの【中間管理職】でしかない。彼はその管理職の立場として、彼女が求めた答えとは異なる答えを口にした。



「現状維持」


「……何も分かってない、上は何も分かってないんです! 今この時もまさに、女性が狙われている危険性があると言うのに!」



 激高する彼女を見据えながら、ハァと小さく溜息をついた志木は、彼女へ「野崎」と呼びかけた。



「、はっ」



 呼びかけに、少しばかり焦りを見せながら背筋を伸ばし、返事をした粧香。彼女と視線を合わせる事無く、志木は言う。



「窓の外、見てごらんよ。人がいっぱいいる」



 その言葉に、少しだけ困惑しながら粧香は従い、窓の外に見える景色を眺めた。


人が大勢いる。危険など何も知らず、ただ今日一日を生きようとする人々が。



「野崎。君が女性の権利を主張したいのもわかるし、上の対応が遅いのも事実だけど――焦っちゃいけない。焦りは余計にミスを生む」


「……はい」


「あと男女平等って言うけどね。だとしたらエネミーも男性を襲うよ。だけど襲うのは女性だけだとすれば、そこには明白な違いがあるんだ。


 ――言っちゃ悪いが、完全な男女平等なんて有り得ない」


「そ、それとこれとは――!」


「一緒だよ。君は女性の権利を主張したいって私情で仕事に挑んでいる。女性だけを襲うエネミーなんて許せないって。


 ――もうちょっと気を楽にして、全ての人の為に仕事なさい。この窓の外を歩く人々を、守る為にね」



 彼はそういうと、デスクに座り込んで、一本の煙草を掴み、火をつけた。


副流煙が彼女を襲う。それに嫌悪するのも、自分が女だからだろうかと、変な思考を回した所で、彼女はもう一度、窓の外を眺めた。



――人が、いっぱいいる。



 **



 エネミーの多くは、スネークウルフタイプ――スルフと呼ばれる、顔面が蛇のように甲殻で覆われ、その肥大化した口と牙、身体は甲殻と毛をまとい、オオカミのような鋭い爪が印象強い異形体だ。


スルフタイプは、群れによってメス――アリメントを狩る習性を身に着けたエネミーである。


 それぞれの個体は他のタイプのエネミーよりは脆弱で特出した能力もないが、故にエネミーの大多数がこのスルフタイプである。


地球侵略の際には群れを離れ、普段は服を着込んで深くフードを被り、また肌を出さぬようにして人間社会に溶け込んではいるものの、虚力の多い女性を見つけると手当たり次第に物陰へ引き寄せ、虚力を食い尽くす性質を持つ。


異世界・ミューセルからこの地球社会への入り口は多くあるが、それら全てが秋音市に繋がっている。


 その為エネミーが発生すると、防衛省のエネミー観測装置がそれを感知し、洋平や荘司等の、アルターシステムを所有する者に居場所のデータを送信、と言うプロセスを辿っている。



「い――いやぁ、っ」



 女性が、ビジネス街の路地裏で、涙を流しながら首を振り、目の前の異形生命体から逃げようと後ずさっていたが、壁にぶつかり、その腰を落とした。


酷く醜い姿をしているだろうと考えながらも、ただ懇願する。


助けてほしい。金でも何でも持っていけばいい。


 だが乱暴だけはしないでほしい。命が惜しい。力無い女性では、それが精一杯だっただろう。



――そんな中、彼女はふっ、と意識を失った。



目の前のスルフは、一瞬何があったか思考した――その時、声が響いた。



「待てっ!」



 可愛い、女の子の声だった。


声の方向を向くと、そこには二人の少女が、隣り合って立っている。



「正義の心と熱いエナジー! アルタネイティブ・レッド!」



 赤い装甲と赤髪、そのポニーテールが印象強い少女――アルタネイティブ・レッド。


彼女は大きく足を開いて、右手をスルフへと突き出し、左手を腰に当てる決めポーズを構えながら、大声で叫ぶ。



「せ、清流の如く、しかし燃え滾る意思……ア、アルタネイティブ・ブルー」



 青色の装甲と蒼の髪の毛を肩まで下した女性――アルタネイティブ・ブルー。


 彼女はレッドと同じく、スラリとした体形を見せながら、その右手を腰に当て、左手を無造作に下すというポーズを決めながら、だがレッドとは対照的に、気恥ずかしそうにぼそぼそと声を出す。




「エネミー! お前たちの企みは!」


「こ……この、アルタネイティブが、全て打ち砕く!」




 ――そこで、二人の言葉が止まり、スルフはただ困惑していた。


彼女たちには隙しか無かったと言うのに、その隙を突く精神状態すらゴリゴリ削られたのだろう。



「……くぅ、これこれ! 変身ヒーローになったら、これやらなきゃな!」


「洋平……俺、今すごく顔赤いと思うんだが……」


「えー、恥ずかしがる事無いぞ? 似合ってたぞ菊谷!」



 キャッキャとはしゃぐレッドとは対照的に、顔面に手を当てて真っ赤な顔を隠すブルー。


 そんな二人を見据えながら、攻撃してもいいのかどうかをスルフが考えていると、ブルーが脚部に力を入れて、その場を駆けた。



「お前も! 今のは! 忘れろ!」



 区切る毎に。彼女はその膝蹴りを。スルフの顔面に叩きこむ。


そして吹っ飛んだスルフに向けて、脚部のスラスターモジュールに手を当てたレッドが「吹っ飛べ!」と叫ぶ。



〈Alter・kick〉



 その機械音声と共に、レッドの体が宙へ舞い、その宙で一旦動きを止めた後、背部のブースターユニットが点火。


それによって増した落下速度と、その脚力から得られる威力を保ったまま、スルフの腹部を思い切り蹴り付けると、火花と共に散っていった。



「勝ー利ッ!」


「しょ……勝利」



 レッドがその慎ましい胸を張り。ブルーは彼女に続くものの、どこか気恥ずかしそうに声を上げると、二人の仕事は終了した。

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