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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・ヴァンプ-Bloody Castle-】
154/190

chapter.12

 七瀬七海が目を覚ました時、自分の体がとある玉座に腰かけていて、身動きこそ取れるが、右足に繋がれた鎖によって、移動に制限がされている事を悟る。



「起きたか、七瀬七海」


「アンタ……瀬上章哉」


「ああ。いつも息子がお世話になっている。――そしてこれからも、君の魂には頑張ってもらわなきゃね」



 瀬上章哉は、七海がいる場所より少し離れた所にある机に、手をかざしている。


指先からポタポタと血を流し、その流血を二つの指輪へ交互に垂らす。



「それって量産型アルターシステム?」


「そうだよ。量産型アルターシステムを使ってオレがセイントに変身するのも面白いがな、こんな欠陥品をオレが使う理由にはならないから、改造している。――そうだ、面白い物を見せてあげよう」



 パチンと指を鳴らした章哉に呼応するかのように、七海の眼前に表示された、ホログラムのような画面。


そこには、普段の朱と黒の装甲に身を包むヴァンプではなく、セイントのような蒼と黒の入り混じった装甲をまとったヴァンプがいた。



「直哉のアルターシステムが今、アイツの所になくてね。豊穣志斎の試作試験型アルターシステムを使って、セイントフォームに変身してるよ。既にこっちも一体やられていてね」


「楽しそうね」


「楽しいさ、なんたって息子の晴れ舞台だ。父親としてこれ以上喜ばしい事なんかない」


「アンタ、ホントどっか歪んじゃってんのね」



 七海の何気ない言葉に、章哉は僅かだが肩を震わせ、七海の方を見る。



「……なんだって?」


「セイントのアルターシステムって、体に相当なフィードバックがくるんでしょ? そんなモンを自分の息子が、しかもこんだけ傷つきながら戦ってるのに『晴れ舞台だ』なんて喜ぶとか、父親失格だよ」


「息子が頑張る姿を見届けるのも父親の仕事だと思うけどな」


「そうね、それには同感。でもこの戦いはアンタが仕出かした事で、アイツは、そんなアンタがやる事に納得できてないからこそ、ああして戦うんでしょ? それに父親として思う所は無いの?」


「父親だからこそ、あの子の幸せを掴むためにしなければならない事がある」


「ほうら見なさいよ。……アンタ、どっかじゃなくて、全体的に歪んでるわ」



 七海がハッと鼻で笑いながら、座っていた玉座から立ち上がる。ジャラジャラと繋がれた鎖が音を立てるが、気にせず章哉の所へ。


今までどこにいたのか、章哉の下へ不意に現れた女――マリスが、七海の頬を、軽く叩いた。



「黙りなさいな小娘が。章哉様程に、あの坊やを愛してもいないお前が、偉そうな事を言えるのかしら?」


「どっから出てきたか知らねぇけど、人の恋路と親子関係に他人が出しゃばんなよババァ」


「小娘が……っ」



 高く振り上げられた手のひらを、パシン、パシンと何度も叩くマリス。


彼女に叩かれながら、しかし大した痛みではないと不敵に笑い続ける七海に、マリスが不気味そうに表情を歪めた。



「その辺にしておけマリス。確かに彼女の言う通り、君は彼女と直哉、直哉とオレの家族関係と、何ら関係の無い部下だ」


「しかし」


「止めろと言うのが聞こえないのか?」



 威圧感のある章哉に、マリスがググと歯を噛みしめながら、下がる。



「申し訳ないね」


「別に構やしないわ。それより、アンタは何が目的なの――と聞こうとしたけれど、概ね分かってるわ」


「ほう?」


「アタシの魂をナオの魂と同化させて、人間を支配下において畏怖と畏敬を集めて生き永らえる征服案って所かしらね」


「どうして気付いた?」


「さっきアンタが『君の魂には頑張ってもらわなきゃね』と言ってたじゃない。それでなんとなくピンときたわ」


「そうか……ふむ、確かに、君の魂を同化させてナオに永遠の命を与える計画だったが、しかし君は面白いね。その計画はひとまず白紙にして、君もオレの手ごまに加える事も検討した方がいいかもしれない」


「生憎だけど、ナオがそんなの許しはしないよ。アタシの事をこんだけ巻き込んだんだ、きっとアンタを殺しに来る」


「実の父を?」


「予言してあげるよ――アイツはきっと『パパにそんな事を願ってない』とでも言って、アンタを拒絶するってね」



 話には聞いていたが、章哉は七瀬七海という女の底知れぬ図太さに関心をしていた。


敵地の真っただ中、しかもフォルネスとは違い、章哉は彼女を今殺す予定は無くとも、将来的に彼女の魂と直哉の魂を同化させ、彼女という存在を殺すつもりだと、彼女自身が理解している筈なのに、命乞い一つせず、ただ真っすぐに、章哉の事を罵倒する。



「君には恐怖が無いのか? 君には死が怖くないのか?」


「はぁ? んなわけないじゃん。死ぬのだって、敵のど真ん中にいる今だって怖いに決まってる。


 で? 怖がった所でどうなるっての? 怖がってアンタが手を抜いてくれる? 怖がってアンタがアタシの事を見逃してくれんの?


 違うでしょ? だから恐怖を必死に抑え込んで、いざって時に動けるように思考をフル回転できるようにしてんのよ」



彼女は右手で左手を抑え込むようにして、震えを隠す。


彼女は平然とそう言ってのけたが、そうして恐怖を抑え、パニックとならずに次の一手を思考できる人間が、どれだけいると言うのだ。

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