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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・ヴァンプ-Bloody Castle-】
153/190

chapter.11

〈Seven's・Kick〉



 そこで、そう機械音声が放たれた瞬間、彼は手に持っていたアサルトライフルを、ただ構える。


廊下の奥から、今膝を折って力を込めているセイント・セブンスフォームの姿が。その者に向けて、アサルトライフルの銃弾を放てるだけ放ち、弾が切れれば拳銃に持ち替え、こちらも放てるだけ放つけれど、しかしそれは有効でない。



「何故……何故理解しない……!? お坊ちゃんも、その新たな食物連鎖の頂点に立てる、またとない機会である筈なのにッ!!」


「そんな頂点、興味ないっつってんだよ……ッ!!」



 セブンスキック、と小さく呟いたセイント・セブンスフォームが、人の目には捉える事の出来ぬ超高速を有したまま、その両足を突きつけたキックを、クラウンへと叩き込む。


右足で蹴り付けた後、左足で顔面を踏むようにしてクルリと身体を回転させたセイント・セブンスフォームは、着地と同時の右手を振るう。



「グ――ア、アアアアアァァァッ‼︎」



振るった瞬間、クラウンの肉体内部から放出されるエネルギーの逆流が、彼の体を爆発させた。


吹き荒れる爆風をやり過ごし、セイント・セブンスフォームは、そこで時間が尽きる。



「が――ぐ、グウウッ!!」



 身を引き裂くような痛みに、変身を解除した直哉が床にうつ伏し、胸と腹を押さえた。


既にあばらの骨が何本か折れ、内臓の幾つかも破損している状態だろう。このままいけば、死は免れぬかもしれない。



「はぁ……っ、はぁ……っ」



 深呼吸を一回。そして外されたアルターシステムを何とか両手中指に装着しなおした所で、痛みが和らいだ。


無くなったわけではないが、しかし緩和されただけでも十分だと仰向けになり、目を閉じる。


敵地で眠る事は自殺行為かもしれない。しかしこのままではただ死ぬだけだ、と休憩する直哉の頬に、誰かが触れる感覚。


しかし、その感覚だけで、敵ではないと分かった直哉は、目を開ける事無く、言葉を投げかける。



「……ママ?」


『ム……っ』



 声は、どこか震えていた。けれど何を言いたいのか、何を伝えたいのかわからないから、彼女――六美の手と自分の手を重ね合わせ、そこから連なる形で、彼女の頬に、触れる。


僅かに、涙のような感覚が、肌から伝わった。



「ママ……泣いて、るの……?」


『ム……っ』



 今、六美が涙を拭ったのだろう。


けれど、その涙が何なのか、分からない。



「……ママは、ボクが……戦うの、イヤ……?」



 頷いた事は分かった。だから、思わずこぼれる微笑みをそのままに、続けて問う。



「じゃあ……ママは、大切な人……守れない、そんな弱い、息子が、良い……?」



 首を横に振った。



「ママは……ボクが、強くなるの……イヤ……?」



 首を横に振った。



「ボクもね……戦うのは、正直、イヤだよ……、痛いし、疲れるし……そんな、辛い事、ばっかじゃん」



 六美は何も答えない。首を縦にも、横にも振らないから、直哉の言葉に同意しているのか否定しているのか、それともただ聞いているだけなのかもわからない。


 それでも、直哉は言葉を投げ続ける。



「でもね……でも、ボク……大切な、本当に、大切な人や……目の前に、いる人が……苦しんでるなら……助けてあげられる、ような……そんな人に、なりたい……。


 自分の、手が届く場所なら……伸ばせる事が出来る場所に、いる人なら……この手で、守って……助けたい、そんな人に、なりたいんだ」



 強くなりたい。


直哉は、その言葉だけは、何があっても溜める事無く、言い放つ。



「誰か、ううん……自分の、本当に大切な、人を守れるだけ……強くなりたい。


 ……神さまなんか、ならなくったって、人間以上の、生命体とか……そんなの、どうでもいいよ……。


 ただ、ボクは、七海や、志斎や、秋音市に、いる……ボクを仲間だと、友達だと……好きな人だって、言ってくれる人たちの、ために……強くなりたい……ッ!」



 直哉は、嘘を付けぬ子だから。


ただ真っすぐな気持ちを、嘘偽りのない、純粋な気持ちを、母へと告げる。


そうして目を開いた時――六美の表情は、笑顔だった。



「……ママ、笑うと、美人さんだ」


『ム』



 ニッコリと笑う彼女の笑顔を見ているだけで、こうして触れ合っているだけで、元気になれた気がした。


彼女は母親としての形を作っただけの、虚力の塊だとマリスは言った。


けれど、そんな事はどうでもいい。


六美として、直哉の母としての意思がそこにあるのならば、それはその人その者だと、直哉は思ったからこそ、触れている彼女の温もりを、ただ感じ続ける。



「……よし、休憩終了……っ!」



 アルターシステムの治癒機能を用いて、何とか動けるまで回復した直哉が立ち上がり、頬を軽く叩いた。


そして動いている間に働く治癒機能によって、次の敵と相対する時までに変身が出来ればそれでいいとした直哉は、六美に手を伸ばす。



「行こう、ママ。――パパをぶん殴りに行くんだ。ならママも、一緒じゃないとね」


『……ムッ』



 六美も、直哉の言葉に頷き、彼と手を繋ぐ。


フラフラな直哉を連れ歩く形になったが、しかしそれでもいい。



 ――直哉はこの十四年間、母の温もりを知らずに生きてきた。


――家族としての営みも無く、唯一血の繋がった祖母は、彼をヴァンパイア殲滅の為に必要な兵器としてしか、愛してこなかった。



――だからこそ、今こうして触れ合う時間があるのはいい事なのだろう。

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