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アルタネイティブ  作者: 音無ミュウト
【アルタネイティブ・ヴァンプ-Bloody Castle-】
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プロローグ-04

「……パパを殺すかい?」


「訂正して。人間たちの事なんか、なんて言っちゃダメだ。それは、パパでも許されない」


「そうか、直哉はどうしてパパがこの世界を嫌うか、知らないのかな?」


「アルターシステムの、暴走じゃないの?」


「違うよ。結果として暴走しただけで、パパが暴走した理由は別にある。


 ――パパはね、ママを、六美を殺したこの世界が、本当に憎いと思った。だからこの世界を破壊したいと願った。


 だからアルターシステムが暴走したんだ」



 眼前の聖剣を掴み、肌を切って血を流しながらも、痛みを感じぬと言わんばかりに、それを握りしめ、折った。


ガギンと音を鳴らして地へ落ちた剣先。


章哉は、なるほど確かに世界を憎むよう、憤怒の表情を浮かべながら、地面を強く蹴りつけた。


工場全体に走る衝撃。ヴァンプとセイントは姿勢を崩しながらも、しかし視線を決して章哉から離すことは無い。



「直哉、この世界の事なんか放っておいて、オレと共に新たな世界へ行こう。そうすればママも、きっと喜んでくれる筈さ」


「い、イヤだ。ボクは、七海のいるこの世界が良い。パパの言ってる事、全然わかんないよ!」


「分からなくていいよ。何時かその幸せを実感してくれれば、パパはそれだけで幸せさ」



 今、まさにヴァンプへと、直哉へと手を伸ばす、瀬上章哉。


しかし彼の動きは、ヴァンプの寸前で止まる。


否、その手を弾かれたのだ。


ヴァンプも、章哉も、その手を弾いた者を見据える。



朱色の髪の毛を腰ほどにまで伸ばした、虚ろな目をした女性。


背丈はそれなりにあるけれど、章哉よりは少し低め、体系としては平々凡々の女性ではあるが、その顔立ちは非常に整っていて、美人の部類ではあるだろうと認識できる。


純白のワンピースを着こんで、その清潔感を表現しているようにも思えるが、燃え盛る炎の中、煤一つ付いていないように見えて不自然ではある筈が、なぜかその姿が当たり前のように捉える事も出来る。



「誰……?」



 ヴァンプがそう問うても、女性はヴァンプへ視線を送るだけで、何も言わない。表情を変える事も無く、ただ立っているだけ。


だが、今再びヴァンプへと手を伸ばそうとする章哉の手だけは、弾き、彼女へ触れさせないと言わんばかりに、ヴァンプの前に立ち塞がり、両手を広げた。



「……興が削がれた。行くぞ」



 そんな女性の姿を見据え、一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた章哉だったが、しかし身を翻して炎の中へ向かっていく。


 彼の背を追う様に、先ほどまで闘っていた三人の者達――親衛隊も、彼へと続く姿を見届けながら、ヴァンプは声を張りあげる。



「――パパ!」


「直哉、少しの間お別れだけれど、安心してくれ。


 直哉と六美を、必ず迎えに行くからね」



炎の中に消えていった四人を見届けて。


ヴァンプは、ゆっくりと立ち上がりながら、目の前でずっと腕を広げ、彼女を守ろうとする女性へ、声をかけた。



「お姉さん、誰?」



 敵……章哉が消えた事を確認したからか、それともヴァンプの声に反応したからか、振り返り、口を開いた。



『……ム』


「ム?」


『……ム……ム』



 口を開くも、しかしムとしか発音が出来ぬように、女性は言葉を口にする。



「喋れないのかな……えっと、助けてくれて、ありがとう」



 そうした礼の言葉を先にと思い立ったヴァンプが女性の手を取り、握る。


すると僅かに微笑む女性の姿が印象強くて、ヴァンプは手を取ったまま、セイントへ向く。



「ひとまず、この女の人を連れて避難しよう。こんだけ延焼してたらボク達だけじゃどうにもならないでしょう?」


「その前に、一ついいだろうか」



 セイントは、目を細めながら、女性と握る手を指さし、疑問の言葉を口にする。



「――誰と話し、誰と手を繋いでいる? 己には、見えない」


「え?」


「先ほど、瀬上章哉の手が何もない所で阻まれたようにも見えた。


 ――何がそこにいる?」



 セイントが冗談を言っているようにも見えず、また彼女が冗談を言う人間ではないと知っているヴァンプが、女性へと視線を再び向ける。


ヴァンプの視線に反応するかのように、彼女の目を合わせた女性は、決して笑わない。


目も、ずっと虚ろのまま。



だけど、その手は――温かかった。



**



量産型アルターシステム製造ラインより遠ざかりつつ、しかし突入したヴァンプとセイントからの報告を待つように滑空する輸送機の中で、七海は何か得体も知れない不安感に襲われていた。



(何、コレ……フォルネスとあった時みたいな、強い違和感……違和感? 違う、コレは……共鳴?)



 胸元を押さえ、ただ考え込む七海だったが、しかしその思考は操縦士と副操縦士の会話によって、遮られる。



「何だ、アレ」


「おい、日本支部に報告だ。あんなの一般市民に視認されたらマズい」



 なにやら騒がしいと思い、シートベルトを外しながら、地表の方を見る。


何もないようにしか思えない。そう思って顔を上げ、何事かを聞こうとした瞬間、気付く。


地表じゃない。



空だ。


――上空に、何かが浮いていた。



「……城?」



 そう、城だ。城が浮いている。


西洋風の一面を黒で塗り固められた堅牢な城砦が、その庭と塀ごと浮いて、墜ちる気配もなく漂いながら、今まさに動き始めた。


 輸送機から遠ざかる様に動き始めたその城は、既に見えぬ位置にまで移動していて、七海も、操縦士達も皆が、ポカンとその軌跡を見届ける事しか、出来なかった。



 ――彼女は後に知る事となる。



その城が、瀬上章哉の有する城砦――ブラッディ・キャッスルという城であることを。

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